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千珠の隣人はキャベツ好き

千珠は新しいマンションに引っ越してきたばかりだった。隣人がゴーストライターだと知ったとき、彼女の好奇心は一気に膨らんだ。彼はどんな作品を書いているのだろう?渡辺淳一の「花芯」のような作品だったらどうしよう、と少し不安になったが、彼と頻繁に顔を合わせるうちに、その不安は次第に薄れていった。

彼は不思議な雰囲気を持つ男だった。話しぶりから、エンタメ系のライターかと思いきや、実は技術レポーターだったと知ったとき、千珠は少し拍子抜けした。しかし、彼の魅力はそれだけではなかった。彼はロマンス作家でもあり、千珠に出会ってから仕事がはかどるようになったという。

ある日、千珠がマンションに帰ってくると、隣人が引っ越すという知らせを受けた。「また、どこかで」と言って封筒を渡された。彼は軽井沢の郊外、キャベツ畑の近くに引っ越すという。封筒の中には、和紙便箋に「キャベツが巻いていく様子が好き」とあった。ロマンス小説・『時の彼方に恋キャベツ』と書かれた冊子も入っていた。千珠は夢見心地で読んだ。

しばらくして、「千珠も巻かれないか」とメールが来た。

千珠はそのメールを見て微笑んだ。彼との出会いは偶然ではなく、運命だったのかもしれない。彼女は新しい冒険に心を躍らせながら、軽井沢への旅を計画し始めた。