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一切れのカットスイカ

「ビタミンCが摂れるのに」

呟きが聞こえた。同じ売り場でカットスイカを、スーパーの用意しているカートの買い物カゴに入れた直後。

隣、触れんばかりの位置に、若い主婦がカートを押さず、手提げのようにカゴを両手で構えている。見れば乳飲み子を抱っこし、2才くらいの子の手を繋いでいる。どちらも男の子の様だ。

母親の服装は質素でどことなく薄黒い。こどもの服もたらい回ししているのか、くすんでいる。母親はしばし黙考。子供も母親の裾を持ち、じっと立っている。

主婦は子供とともに、カットスイカを前に佇む。欲しそうだが、買えば家計が窮屈になる。子供にカットスイカを買ってやりたい。逡巡がひと時。2才の子供は母親の決断を待っている。

カットスイカ598円が目の前、母親は呟いた後、黙。母親は思い切る様にカットスイカの売り場を後にする。2才の男の子は手を引かれながらカットスイカを振り返りもしない、肩が満たされない歩き。母親と繋いだ手が伸びきる。

親子3人は、買い物カゴが空のまま通路を伝って他の売り場に移動した。

親子を見送り、買い物カゴのカットスイカに目をやりながら、買い渡すこともできず、次の売り場に重い足取り。