風の色は何色-1
「風の色は何色かな~」
彼がポツリと呟く。お大師山に上がり、展望が利くところに二人で立っていた。目の前に町と空が広がり、さわやかな風が吹き去っていく。
私は明日東京に旅立つ。大学・文学部に行く。彼は芸術学部を卒業し、フランスで絵画修行に勤しむ。
彼は風を受けながら、少し考え込むように言った。
「風の色は・・・、淡水色・・・」
彼女は考え込むように山の端を目でなぞっている。
「風の色は淡水色だ。爽やかな色だ。濃くなっても爽やかな色・・・」
彼は語尾を残す。
私は彼の横顔を見つめながら、心の中で頷いた。
「そだね。風はその時々で色を変わっていくかもしれない。私たちの心の中にも、色んな色があるし・・・」
彼は笑い、少し肩をすくめた。
「いろんな色か、じゃあ、君の心の色は何色?」
その問いに戸惑いながら、私は少しだけ考えた。
「うーん、たぶん、春の緑かな。新しいことに挑戦するのが楽しみでいっぱいだし。」
「僕は、夏の深い緑だ」
彼はそう言いながら、遠くに重なる山々を見つめた。
「経験を重ねて、深みを増していきたいね」
しばらく静かに、ただ風の音を感じていた。彼と過ごすこの時間が、もうすぐ終わることを思うと、少し胸が締め付けられる。
「東京で、素敵な経験をたくさんしてね」
彼が優しく言った。
「ありがとう。あなたも、フランスで素晴らしい作品を作ってね」
彼は微笑み、手を差し伸べた。
「約束だ。お互い、色を増やしていこう」
私たちは手を繋ぎ、再び風の色を探す旅に出ることにした。
どんな色が待っているのか、楽しみながら。
淡水色の風に乗って飛んでいくようだった。