最後まで読まれる記事を目指して - 数字が苦手なライターがデータを駆使して完読率アップに取り組んだ話
こんにちは。弁護士ドットコムでライター・編集者をしている堤です。
普段の業務では、法律トラブルで困った方々に向けて、トラブル解決のための法的な対処法を解説するネット記事を書いています(社内では「ガイドコンテンツ」と呼んでいます)。
このような記事です。
ガイドコンテンツの制作では、記事の量だけでなく質も重視しています。
記事の質にはいろいろな定義があると思いますが、弁護士ドットコムでは、「法的に正確な情報である」ということはもちろん、「ユーザーにとってわかりやすい記事である」ということをとても重視しています。
そのため、ガイドコンテンツの質をはかる指標の1つとして、記事の完読率(読了率ともいいます。記事を最後まで読んだ(スクロールした)ユーザーの割合)を採用しています。
完読率(%) = 記事を最後までスクロールしたユーザー数 ÷ 記事を開いたユーザー数 × 100
私が所属する「ガイドコンテンツ編集チーム」では、この1年間、記事の制作と併行して完読率の向上に取り組み、トータルで7ptほど完読率を上げることができました。
どのような取組みをしてきたのかご紹介したいと思います。
なぜ完読率の向上に取り組んだのか
オウンドメディアを運営するにあたっては、セッションやCVR、SEOの効果が重要な指標として設定されることが一般的だと思います。
しかし、ガイドコンテンツ編集チームの立ち上げ当初、こうした成果を短期的にあげることは、会社から(少なくとも名目上は)求められていませんでした。
ウェブコンテンツの内容の信頼性に対して、社会から厳しい目が向けられてきたことなどを背景に、「とにかく信頼できるコンテンツを作る」ことがミッションとされていました。
また、SEOや数字まわりについてはチーム外に頼りになるメンバーがいて、「コンテンツの成長」という点について手厚いフォローを受けられるすばらしい環境が整っていました。
このような理由から、チームの業務は、まずは信頼できるコンテンツを制作することに集中していました。ウェブコンテンツのライターや編集者としては、とても恵まれた環境だったと思います。
チームの立ち上げから1年半が経ち、安定的に質の高い記事を生産できる体制が整い、コンテンツの数も増えてきました。より成長を加速させるために、完読率向上の取り組みを始めました。
ガイドコンテンツの完読率を上げる難しさ
ガイドコンテンツでは、法律トラブルに対処するための法律の話を書いており、内容が難しくなりがちなので、一般的なネット記事(ニュースやコラムなど)に比べて、最後まで読まれづらい(途中で離脱しやすい)という特徴があります。
また、コンテンツ制作の方針として、読者が知りたい情報を1つの記事で知ることができるような設計を考えているため、文字数を減らすために安易に記事を分割することは避けたいと考えていました。
このような特殊性を踏まえて施策を考える必要がありました。
やったこと
1年間の取組みは大きく前半と後半に分けられます。
前半はデータ分析に詳しい社員にコンサルしてもらい、データ分析の基礎を学びながら施策を進めました。
後半はコンサルを卒業して、自分たちの力でデータ分析を実践しました。
前半:データ分析の基礎を学ぶ
私たちのチームは、紙の専門誌の記者や、法律に詳しい編集者、ウェブメディアの記者など、多様なバックボーンをもったライター・編集者で構成されていますが、すでに公開された既存のコンテンツを分析して成長させることに長けたメンバーはいませんでした。
そこで、最初の半年間は、社内データサイエンス室(データを扱う部門)の早川さんにお願いして、データ分析の基礎を教わりながら施策を進めることにしました。
教わったことは、下記のような本当に基礎的なことです。
・毎日数字を見る習慣をつけること
・PVとセッションの違い
・直帰率とは
・滞在時間とは
・Googleアナリティクスとイベントについて
・SQLについて
・完読率を抽出するためのクエリの書き方
・データ分析の流れ(仮説→施策→検証)
・検証の方法(ABテスト、「有意に差がある」とはどういうことか)
私たちは数字が苦手で、スプレッドシートの関数を使ったことがないメンバーもいるようなレベルだったのですが(!)、早川さんは、丁寧に、優しく、わかりやすく教えてくれて、私たちが少しでもできるとたくさん褒めて、私たちをその気にさせてくれたのでした。
このようなことを教わりながら、「記事内の画像を増やす」、「目次の情報量を増やす」といった施策を行ないました。
その結果、完読率は5ptほど上がりました。
後半:自分たちでデータ分析を実践する
こうして完読率を上げるという成功体験を積んだ私たちは、早川さんのコンサルから卒業して、自分たちだけでデータ分析を行なうことにトライしました。
具体的には、次のようなことを行ないました。
・現状の数値を可視化して毎日見られるようにする
・施策の方向性を決める
・修正する記事を決める
・修正案を議論する(毎週)
・記事を修正して効果を検証する
現状の数値を可視化して毎日見られるようにする
改善するにはまず現状を知ることからということで、すでに日々の完読率をSlackで通知するよう早川さんに設定してもらっていました。
ちょうど期が変わるタイミングで、新たに公開した記事も含めた完読率を計測することになったので、完読率を計算し直して、通知を更新するようにしました。
Slackの通知はこのような感じでした。
施策の方向性を決める
効率よく完読率を上げるためには、すべての記事に共通する施策を考えて実行するのが最も有効だと思われます。
しかし、すべての記事に共通する施策は、前半のときにある程度出し尽くしてしまったため、後半では個別に記事を修正していく方針に決めました。
その中でも効率性を考えて、「多くの人に読まれている記事で、かつ、完読率が低い記事」を中心に修正することにしました。
修正する記事を決める
GoogleアナリティクスとGoogleスプレッドシートを用いて、「多くの人に読まれている記事で、かつ、完読率が低い記事」を抽出しました。
このスプレッドシートに沿って修正案を検討し、検討結果などを書き込んでいきました。
(↑ 赤くなっている行は完読率が上がったので検討を終了した記事です)
修正案を議論する
(↑ このような感じでスプレッドシートにコメント形式で修正案を書き込んでいきました)
毎週金曜日にチームで完読率ミーティングを開催しました。
はじめは、記事を書いた担当者がその記事の修正案を考えて修正を担当する方法にしていました。
しかし、それだと担当者が思いつく修正案に限りがあるため、途中から全員で共有の記事を検討する方法に変えました。
様々な観点から意見が出て「なるほど」と思ったり、逆にみんな同じような意見が出て「やっぱりそこを変えなきゃダメだよね」となることもありました。
具体的には、「ユーザーの知りたい情報に合わせて記事を切り分ける」、「難しいと思われる記載をリライトする」などの案が出ました。
記事を修正して効果を検証する
修正する内容が決まったら、なるべくその日のうちに修正をかけました。
次のミーティングのときに1週間の完読率の変化を確認して、その後の対策を考えました。
早川さんのコンサルでは、検証方法としてABテストを教わりましたが、今回は記事ごとの修正でサンプル数が少ないため、ABテストではなく日々の完読率の変化を見て効果を判断することにしました。
コンサルを受けたときは記号にしか見えなかったSQLのクエリも、自分たちでアレンジして使えるようになりました。
効果が見られない記事を再度検討して修正をかける
効果が見られない記事は、再度ミーティングで検討して修正をかけました。
効果が出た例
施策が当たると、完読率がわかりやすく上がりました。
目標達成を目指して、期末に向けてスピードアップ
完読率の向上は、期末(9月)までに一定の成果を出す必要がありました。
目標達成を目指して、検討→施策→検証のサイクルをスピードアップしていきました。
(↑ 月内の修正のこだわってミーティングに議題をねじ込みました)
(↑ 既存の検討リストを見直して、直近でセッションが増えてきた記事も検討対象に入れました)
新しい記事の制作と併行しての作業だったので、負担もありましたが、期末までにやれることはやり切ったと思います。
結果
このようなミーティングと記事の修正を繰り返し、半年間で32本の記事を修正しました。
そのうち8本の記事の完読率を上げることができました。
全体では2ptほど完読率が上がりました。
この取り組みを通じて学んだこと
半年間、自分たちで記事を修正して、実際に完読率が上がったことにより、自分たちの手で最後まで読まれる記事を作れることがわかり、自信に繋がりました。
普段ライター・編集者として文章の読みやすさは当然意識しています。
しかし、完読率を上げる取り組みにおいては、「こうしたらより読みやすくなる」ではなく、「我慢しきれなくなって離脱するのはどこか」を意識しなければならないと気づけたのは、大きな学びでした。
これまでの取り組みで得た完読率を上げるためのノウハウをもとに、これからも「最後まで読んでもらえる記事」を意識して記事を制作していこうと思います。
それから、今回の取り組みを通じて、チームにも変化がありました。
今までガイドコンテンツ編集チームでは、それぞれのライターがそれぞれの記事を制作し、お互いの記事には干渉しないという(いい意味で大人の)距離感がありました。
しかし、この1年間の取り組みを経て、共通の目標に向けて、他人の記事であっても遠慮せずに意見を出し合ったり、手の空いている人が自発的にデータを抽出したりといった連携が自然にできるようになって、距離が縮まった気がします。
冒頭でお話ししたとおり、多様なバックボーンを持つチームメンバーですが、それぞれの強みを生かしてお互いに連携しながら、これからもよいコンテンツを作っていきたいと思います。
私たちにデータ分析を教えてくれた早川さんが、コンサルの内容を記事に書いてくれました。
とっても勉強になるので、ぜひご覧ください。