商社で学ぶ枕詞の操り術
先日、僕が働く10Xという会社の社内コミュニケーションツール「Slack」でこんなやり取りがあった。
「午前中バタバタとお疲れ様でした」という枕詞に対し、10Xの代表である矢本の反応が予想外だったのと、他の社員からも「草」や「わかる」の反応が複数ついたので、これを機に「気の利いた枕詞」について少し考えてみた。
ちなみに、「草」の意味がわからない方はこちら。ネット業界に転職するまで僕も知らなかった。草
この日、矢本は朝から外出での面談が立て続けに入っていた。一方、僕は自分の仕事でその日締め切りの提出資料があり、クライアントに送る前に矢本と少し擦り合わせがしたかった。
この枕詞を付けた意図は、「自分が逆の立場だったら、クソ暑い中外出して面談を複数件済ませた後、間髪入れずに部下からあれこれ要求されたら良い気分はしないな、だからまずは労いの言葉をかけよう」というものだった。
矢本はこれについて「才能」という言葉を使っているが、僕はそうは思わない。むしろ、元々僕は相手に気を遣ったり、相手の気持ちになって考えたりするのが苦手な人間だ。大学時代、体育会のサッカー部ではよく「自分勝手」や「相手の気持ちを考えない」とダメ出しをくらっていた。(今考えるとお互いをダメ出しし合うあの文化も異様だったな・・・)
なのでこれは才能ではなく、恐らく新卒で入社した商社で叩きまれた「相手の立場で考える」という習慣が染み付いたものだと思う。
新人の時、よく言われたものだ。
仕事は個人ではできない。社内外の人とチームで仕事をする上で、「赤木さんとは一緒に仕事をしやすい」と思われる環境づくりを心掛けろ。その為には、仕事で周りから感謝されることに加え、日常のちょっとしたコミュニケーションを工夫し、常に相手の立場で物事を考えなさい。
この指導をもとにあらゆることを実践した結果、具体的なスキルとして「枕詞を付ける」が身に付いた。では、枕詞を上手く使いこなすためには、具体的にどんな工夫が必要なのだろうか?
それは、相手を良く観察したり、ちょっとした機転を利かせたりすることだと思っている。
例えば、面談先の会社の本社が浜松にあったとして、ZOOMミーティングの冒頭で「先日ニュースで浜松市の気温が41度を超えたと見ましたが、今日はどうですか?暑い中大変だと思いますが、体調崩されないようお気をつけください」と一言つける。こういった具合だ。
上司とのコミュニケーションにおいても、TPO(時・場所・状況)と枕詞の使い方で結果が大きく変わる。例えば、何か相談ごとがある際、上司が大事な面談の前でピリピリしているのにもかかわらず、自分のことしか考えず話しかけても大抵は突き返されるだろう。
逆に、毎日決まった時間にコーヒーを買いに行く上司がいれば、その時間を見越してコーヒーを買っておき、「コーヒー2つ買ってきたので、よかったらどうぞ。ちょっと飲みながら、お話良いですか?」と時間を作る。
コーヒーが飲みたいと思って立ち上がったら目の前に求めていたものを差し出され、ちょっと時間を欲しいと言われて嫌な気持ちがする人はいないだろう。大体こういうときは、話がスムーズに進む。枕詞ならぬ枕アクションだ。
枕アクションと言えば、出張の際は必ずお土産を買うとか、会食の場所は先方のオフィスからアクセスが良い場所にするとか、細かい気配りの全てはコミュニケーションを円滑に進めるための手段だ。
メールにおいては、例えば相手の動きが遅くて催促する際、ただただ「返信しろ」という主旨のメールを送りつけるのではなく、「役員会の対応等でかなりバタバタされていると思いますが」と一言入れると、相手の反応は変わったりする。
また、取引先に対し少し厳しい内容のメール(相手がよく思わないだろうが、言わなくてはいけないことがあるメール)を打つ場合、メールを送信する前に枕詞ならぬ枕コールをかけることも良くある。「今からこういうメール打ちますけど、その主旨はこうなので、悪く思わないでくださいね」といった感じだ。
送信後のフォローコールでも良いのだが、相手がメールを見た瞬間にちょっと嫌な気分になっている場合、そもそも電話に出てくれないリスクがあるので、個人的には枕コールの方が効果的だと思っている。
これらは、打ち合わせや商談、交渉における本質的な部分ではないので、枕詞、枕コール、枕アクションにばかり気を取られては本末転倒だ。しかし、少しでも有利にコミュニケーションを進めるために、こういったスキルセットも重要だと思っている。
ポイントは、枕詞や枕コール、枕アクションを取引先や社外の人だけでなく、社内の身近な人にも行うこと。また、必ずしも自分より立場が上の人だけでなく、同僚や部下に対しても行うことで、グッと働きやすい環境を作ることができる。
大企業からTech系スタートアップに転職し、自分の専門性が足りないことで苦労することは多い。ただそんな中でも、対人能力やコミュニケーションスキルについては、言語化するのが難しい細かい部分で長所もあるのだと気づかされたエピソードだった。
ちなみに、このブログの下書きを読んだ妻からこんなことを言われた。
コーヒー2つ買って話しかけるとかすご!やるねえ。まあでも私はあなたの諸々の枕的なやつ、あんまり好きじゃないけどね。なんか裏があるってわかるし。
僕の思考回路を99.9%理解する妻には、枕詞は通用しないようだ。皆さんも応用には要注意。