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小沢健二 LIFE再現ライブに行って来ました

私は20代(たぶん)
つまり、"LIFE"リリース時には、まだ生まれてすらいませんでした。
そんな私がどのように小沢健二を聴くようになり、どのように今回のライブを受け止めたのか書きます。


きっかけ

小さい頃に実家で"犬は吠えるがキャラバンは進む"のCDを見つけて、変わったタイトルだなと思ったことを覚えています。どうやら父が聞いていたらしい。
でも興味をもって聴くようになったのは、好きなバンドのフロントマンがオザケンのファンで、ライブでブギーバックをカバーしていて楽しかったからだと思います。

その後もオザケンの曲を聴いて「あの曲のレファレンスだったのか!」と気付くことも多かったです。特に"LIFE"の楽曲たちや"強い気持ち・強い愛"的なストリングスやホーンのアレンジが、私の音楽的な嗜好の原点の一つだということが分かりました。

緊急事態宣言と"LIFE"

小沢健二といえば歌詞、みたいなところがありますが、実は当時、歌詞への思い入れはそう強くはありませんでした。そもそも日本語の詩の良さがわからない…というより、日本語の詩について考えることを放棄してきた半生だったので…。純粋にメロディやアレンジを楽しんでいたように思います。

そして時は2020ーー
生活は一変しました。
当時の私は大学4年生。
楽しみにしていた最後の年。

先行きの見えない中、"LIFE"で描かれる生活は、あまりにもきらきらと輝いて私に迫ってきました。それらは当然、私にとってのリアルタイムの生活を描いているものではありません。しかし同時に、緊急事態宣言によって諦めることを余儀なくされた未来の生活のようにも感じられたのです。
もう戻ることのできない過去の日々であり、これから得られることもない未来の日々でもある。(そもそも30年前の人々が"LIFE"的生活を同時代的に受け取っていたかどうかも分かりませんが)

大学の課題に追われる深夜の4時。
気分転換に街を散歩して歩く。
ワイヤレスイヤホンから流れるのは"愛し愛されて生きるのさ"。
もの言わぬ風景が灰色なのは、時刻のせいか心持ちのせいか。
"You got to get into the groove"
失われた生活で色をつけるかのように街を歩きました。

千登世橋から

今では少し大人になり、日本語の歌詞も好きになり始めました。
その後の経験とかライブでのMCも踏まえて、やっぱり小沢健二の書く歌詞って、失ったものやこれから失うであろうものへの寂しさ切なさが通底しているのだと思います。そんなことを感じながら、4年前の私も夜をさまっていたのかもしれないと懐かしい気分になります。昔話が過ぎました。

いざ、ライブへ(前半パート)

セットリスト順にダイジェストで感想を書いていきます。

流れ星ビバップ

開幕からピアノがとにかく最高。携帯用提灯、兼歌詞カードを見ながら観客がシンガロングするスタイル。一気に「あの頃」に引き戻される感じがする。いや、当時私は生まれてすらいないんですけどね…。
「流れ星」というモチーフの扱い方が巧みぎますね!今この瞬間の切なさがギュッと凝縮されたというか、過去と現在と未来が同時にある感じ…。つまり、生きていくことへの祝福だなあと思うのです。

それにしても隣のお姉様、歌がめっちゃ上手い。

フクロウの声が聞こえる

この曲も祝福の歌だなあと思います。"薫る(労働と学業)"とかもそうですが。
祝福というより破壊?
ステージの照明もバチバチですごかったです。

強い気持ち・強い愛

「え、もう⁉︎」と驚いたのは私だけではないはず。みんなの表情というか、武道館の雰囲気の変わり方がすごかったです笑
実は"Monochromatique"ツアーにも参加したのですが、その時はストリングスもホーンセクションもないアレンジだったので物足りなさが否めず…。
しかし今日は違う!本当に素晴らしい演奏すぎて、オケばかりを聴いていたかもしれません。そんな人のために(違う)、最後のサビを2回やってくれるのはお約束。生きることのどうしようもなさを、これまた祝福してくれています。今日はなんだかお祝いされてばかりだな…。

天使たちのシーン

シンプルな編成であるがゆえに、原曲に近いアレンジを期待してしまいます。(あんまり壮大かつ感動的に盛り上げられても、それは解釈が違いますよね、という話です)
今回は、特にベースラインとピアノが、あまりハネずに平坦なアレンジに感じてしまいました。なかなか自分好みのパフォーマンスに出会うのって難しい…などと感じながら迎えた管楽器隊のソロセクション。これが非常に素晴らしかったです。

通常、ポップソングにおけるホーンといえば、勇ましさや華やかさの演出に用いられると思います。それこそ甲子園の応援や軍隊のラッパ手などをイメージしてください。しかし、"天使たちのシーン"に関してはその限りではないということは、この曲を知る方ならご存知のことかと思います。
シンプルなアレンジの中に華やかさをプラスしてくれているのも事実です。ですが、それ以上に「寂しさ」を感じてしまうのです。歌詞に歌われるような、なんでもない日常生活のうちの一瞬とか季節の移り変わりとか、そういったものが内包する「あれ」です。それぞれの奏者さんの色が表れるかのような素敵な演奏でした。

そして溜めに溜めてのギターソロ。
正直、演奏はイマイチでした。(たぶん小沢さんも、最初の1〜2小節でしまったと思っていたんじゃないかと思います)
でも、鳥肌が止まりませんでした。
クランチを通り越して歪みまくったギターの質感。
およそ耳あたりの良いメロディなどなく、ぐちゃぐちゃとしたノイズ。
それは慟哭のようでしたーーこれまでの管楽器隊のソロが、そしてオリジナルのギターが醸し出す「寂しさ」ではなく。
まるで、いなくなった人を、「いつだってここにいる!」と主張するかのような。
取り返しのつかない出来事に、それでも縋ろうとするような。
それこそが「祈り」だと思います。

50代になったオザケンだからできたプレイだったような気がしてなりません。
分かんないですけど。

彗星

この曲めっちゃ好きです。生きることが全肯定されるかのような歌詞と、天才的なアレンジ。私の座席からはストリングスとキーボードが正面に見えたので、視覚的にも楽しい一曲でした。

他にもいっぱい曲があったけど、割愛します。

"LIFE"再現パート

今のオザケンも、昔のオザケンも味わうことができる(本人談)前半部分を終え、ついに"LIFE"パートへ。アルバムの収録順とは逆に演奏するとのこと。それって再現なのか?と一瞬思うも、「だって終わりに向かうにつれて盛り下がっていくでしょ?」的なことを言われ、それはそうかと思い直しました。
これも本人が言っていたことだけど、逆順でもしっかりトラックリストを覚えているのが皆さんのすごいところ。(私も言えました!)

おやすみなさい、仔猫ちゃん!

"いちょう並木"のオルゴールが流れ終わり、「さあいよいよだ」と楽しみに思う一方で、なかなか曲が始まらない。「何かトラブルかな?」と少し心配が勝り始める、というタイミングでベースラインとトライアングルが鳴り出し、無事に曲がスタート。このタイミング感までアルバムそっくりでした。言っていること、分かりますか?笑

コンサートには結構行くのですが、なんでもかんでもすぐに手拍子を始めてしまうのは日本の良くないところだと思っています、演奏が聞こえないので…。
この日も自然と手拍子が沸き起こったのですが、ステージを見ると何やら大きな手振りでクラップのタイミングをこちらに伝えているではありませんか。
(『いち、にー、さん、よん』の『にー、さん』でクラップ!)
何十回と聴いているはずなのに、恥ずかしながら初めて気がつきました。手拍子の音量を抑えつつ、「原曲通りで行きましょう」と観客の参加を拒否しない気遣いがいいなあと思いました。

そして歌が始まって驚いたのは、声が若い!こと。
今のオザケンが歌うのはいかがなものか、というかこんな高いキーで歌い切れるのか⁉︎という不安がなかったかと言えば嘘になります。
これもかなり練習したものと思われます。

僕らが旅に出る理由

イントロから大盛り上がりだったこの曲。ファン人気を感じさせます。
個人的にもオザケン楽曲の中でトップ5に入るくらいお気に入りで、小沢健二の世界観が詰まった1曲だと思います。ブレイクのベースから、流麗なストリングスへ移り変わるイントロに早くも涙が出そうになります。

あと、1番の「東京タワーから♪」の歌い方が好きです。東京タワーって、昔でこそ日本の経済成長の象徴だったのかもしれませんが、今となってはその意味合いも変わってきていますよね。ものすごく過去に引き戻されるというか。

別れとは切っても切り離せない人生、それでも毎日は続いていくんだ!
私たちにできることはといえば、せめて幸せを祈ること。
「またいつか!」と手を振って別れること。

そんなことを思いながら、ラストのサビでは完全に泣いていました。

あまりにも完璧なホーンのアレンジが印象的なこの曲ですが、惜しむらくは、ホーンセクションが活躍する間奏がカットされていたこと…!

今夜はブギー・バック

私と同じように、この曲をきっかけに小沢健二を聴くようになった方も少なくないはず。伝説的な1曲を、オリジナルのアレンジで楽しむことができるという興奮がすごかったです。

というものの、実は"DISCO TO GO"的なアレンジが一番好きだったりします。ということもあり(?)どうしても仕事のメールを返信しなければならず、どのタイミングにしようか考えていたのですが、この曲間で返信することに。「総立ち」の中、ひとり座ってスマホと向き合っていました…。

ドアをノックするのは誰だ?

この曲も、ストリングスが躍動するイントロから爆裂に盛り上がっていました。
2年前に参加した"So Kakkoii 宇宙 Shows"ではイントロだけしか演奏されませんでしたが、イントロの熱量と多幸感とに圧倒されたことを覚えています。それと"VILLAGE"を見て、一番楽しそうなのもこの曲だったので、もうとにかく期待が大きかったです。
それと同時に、再現ライブにあたって一番不安だったのもこの曲でした。なぜなら歌詞が若すぎるから笑

結果的に、めちゃくちゃ楽しい7分間でした。
でも、演奏中に感じたことがあります。
それは、みんなでドアノックダンスを踊っても、あのバカで無鉄砲な若者たちはもういないということ。"VILLAGE"で夢見たような「あの時」には、どうやったって戻れないのだ。

いや違う。40代、50代の大人たちが送ってきたそれぞれの30年が、自分には欠落しているだけだ。

そんな悔しさを感じながらも、「うーん、やっぱりあのバブル前後の能天気さには戻れないよな」とも思いつつ、そんなフワフワした状態だったのは私だけだっただろうか。

いちょう並木のセレナーデ

"LIFE"の中で最もお気に入りの歌詞かもしれません。
今は / 忘れてしまった」という譜割りとか、「ふみしめて僕らはゆく」っていう語感の良さとか、好きなラインは沢山ありますが、なんと言っても白眉は「星屑の中のランデブー」のくだりだと思います。

初めのほうに書きましたが、「存在しない記憶」感というか笑
みっともないですが、「こうありたかった」感とも言えるかもしれません。
めっちゃキザですけどね。

いつも"アルペジオ"との組曲になっていたので、フルバージョンが聴けて感激!

東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディー・ブロー

会場の一体感が最高に楽しかった一曲。
サビのぐいぐい引っ張っていく感じも気持ち良い!
「ダメ〜〜〜〜!」なんて言いながら、フェードアウトを4回くらいやったのも楽しかったです。

ラブリー

"LIFE"といえばこの曲!みたいなところがありますよね。それと、この曲もオリジナルのアレンジで演奏されるのは珍しい?ので楽しみでした、さすがに。イントロのギターのエピソードを聞いて驚き、出音が良過ぎてさらに驚きました。

"LIFE"とは何ぞやという話もありました。

a principle or force that is considered to underlie the distinctive quality of animate beings

The Merriam-Webster Dictionary

全ての生けるものに通底する原理または力。
生きものを、それ以外のものと区別するもの。

MCでどんなことを言っていたのか忘れてしまいました。でも今、ライブを振り返りながら改めてこの定義を見ると、いろんな考えが膨らみます。

喜びも悲しみも、その他ぜーんぶ混ぜ合わせて"LIFE"なんだって気がします。
最終的に行き着くのは、やっぱり生きるって最高だよね!っていうこと。詭弁のようにも思えるし、そんなことすら言えない状況に置かれている人々がこの世界には大勢いることも承知の上で…。

愛し愛されて生きるのさ

あっという間に最後の曲になってしまいました。
若いうちにこの曲に出会えて良かった!と思える、アルバムで一番好きな曲。
2020年の私を支えてくれた1曲です、本当にありがとう。

終わり!

アンコールはなく(なくて良かった!)そのまま終演に。

本来ならばゆっくり回想したいところですが、次の日は7時から仕事…(泣)
21時半のバスに乗らなければなりません。
武道館はたくさん入り口があるので、スムーズに退場できて良かったです。
家に帰ったのは3時でした…。まあそんなことはさておき、

ここまで読んでくださってありがとうございました。
同じコンサートに行った人がいかに多いのか、noteで「小沢健二」と検索して驚きました。そんな数ある記事の1つでしかありませんが、20代の感想ということでちょっと珍しいのではないでしょうか。私は、リアルタイムでこの作品やライブを体験できた皆さんがとっても羨ましいです笑

今回、批判も少なくないライブだったと思います。「いつまで懐古するんだ」とか「金稼ぎだろ」とか「新曲出せよ」とか「もうオッサンじゃん」とか、「台風の中やるのかよ」とか…。私の中にもそういった感情はありました。
でも、それを補って余りある、余りありすぎる作品じゃないですか?"LIFE"って。

もうあの頃には戻れない的なことも書きましたし、そういった側面も間違いではないでしょう。それでもきっと、これからも多くの人に愛される普遍性も併せもった作品だと思います。

次は50周年ライブでお会いしましょう。それではー


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