小説版『この子は邪悪』担当編集者に突撃インタビュー!
こんにちは!TCP公式note編集員のHikaruです。今回は9月1日(木)に劇場公開を果たした映画『この子は邪悪』の小説版をご担当された担当編集者・村山さんにインタビュー。映画を小説にする過程での知られざるエピソードや作品に込めた思いに迫ります。
――本日はお時間をいただきましてありがとうございます。簡単に経歴を含め、自己紹介をお願いできますでしょうか。
村山:徳間書店に入社してから、主に小説の編集をしています。途中2年ほど、法人営業や俳優さんのインタビュームックの編集に携わりました。現在、所属としては本のカバーや帯などの進行管理等を行う編集管理室と、実際に本を作る文芸編集部を兼務しており、本に関する様々な仕事にかかわっています。
――編集者という職業は一度は聞いたことがある方が多いですが、具体的にどんなお仕事をされるのかすごく気になります。詳しく教えていただけますでしょうか。
村山:出版社によって違うと思うのですが、文芸では基本、作家の方ごとに担当がつきます。私は大学が日本史専攻だったということもあって、時代小説の作家さんを多く担当しています。また徳間書店はミステリーやハードボイルド小説(※1)も多く出版していますので、そちらのジャンルの作家さんも担当することが多いです。今までに担当した方、現在担当している方を合わせると70名程度になると思います。
――そんなに多いのですね。想像していたよりも、お一人の担当が多くて驚きました。では早速ですが、今回の小説版『この子は邪悪』はどのようにして出来上がったのでしょうか。
村山:徳間書店では、初代TCPグランプリ『嘘を愛する女』(2018)から、『水上のフライト』(2020)『裏アカ』(2021)『マイ・ダディ』(2021)とこれまでに4作品のノベライズを刊行してきました。私がTCP作品の小説版を担当するのは『マイ・ダディ』に続いて2作目となります。映画の小説版としては、最初に担当した『さよならくちびる』(2019)をはじめ、今回で5作目の担当になります。先ほどお話しした通り、俳優さんのインタビュームックを編集していたこともあり、事務所や製作委員会とのやりとりのノウハウもあったので、担当することが多いのだと思います。
――『マイ・ダディ』もご担当だったのですね!通常の小説製作と原作(今回は映画)のあるノベライズ作品の製作とでは違いがあると思いますが、どのような流れで作られていくのですか。
村山:どの作品にも共通していますが、まずは映画の脚本を読ませていただきます。合わせて監督や脚本家、製作委員会の方々がどのようにこの作品を世に送り出したいのか、できるだけ映画の企画書にも目を通させていただき、その後、試写を拝見させていただいてから小説版の製作に入ります。
『この子は邪悪』の場合、昨年の年末に初号試写があり、そこで「小説版ではこの場面を盛り上げよう」「作品のテイストから一人称が合っていそう」「特に心理描写が大切な作品になりそう」など、イメージを膨らませていきました。特に、花(南沙良)と純(大西流星)の関係性と繊細な感情を表現したいと思い、以前『弥生、三月』の小説版を手がけていただいた南々井梢(なないこずえ)さんにお願いすることにしました。南々井さんはホラーテイストの文章も書かれていたので、片岡監督やプロデューサーにご提案させていただき、ご快諾いただきました。
――数ある作家の中から、南々井さんを選ばれたのは「心理描写の緻密さ」が大きいのですね。確かに「世にも奇妙な謎解きサスペンス」というキャッチコピーや監督の意識する「不気味さ」を小説で表現するのは難しそうです。
村山:映画の小説版で最も難しいのは、全てを活字で表現しなければならないことです。『この子は邪悪』でいえば、南沙良さん演じる花が昏睡状態だった母・繭子(桜井ユキ)と対面するシーン。映像だと南さんの表情だけで「不穏さ」が読み取れますが、小説だと「嬉しいのになぜか嬉しくない」「違和感がある」「なんで素直に喜べないんだろう」といった感情まで書かないと伝わりません。特にこの作品は心理描写が大切だと思っていたので、南々井さんがふさわしいと考えました。また、「舞台や映像の脚本を書かれた実績があること」「10代~20代と若い主人公の作品を多く書いておられたこと」もご依頼した理由です。どの作品にもいえることですが、映画や脚本の世界を壊すことなく小説にしてくださる方にお願いしています。
――監督や作家の間に立って、常に読者目線で考えておられる姿は、まさに映画のプロデューサーと似たものを感じます。村山さんならではの編集者としての心がけはありますか。
村山:改めて聞かれると難しいのですが、映画のノベライズ、小説版においては、小説としても「面白く読める作品」を作るよう心がけています。
映画を観る前に読んだ読者の方には「こういう物語なら、映像ではどう表現されているんだろう」と、映画を楽しみにしていただき、観た後の読者の方には「あの場面の、あのキャストにはこんな思いがあったんだ」と答え合わせをしていただいて、もう一度映画館に足を運びたくなる。そういう作品をこれからも手がけていきたいと思っています。
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小説版 『この子は邪悪』情報
幻想に囚われ続ける父親の行き過ぎた愛情と、その呪いにとらわれた子ども。「家族」のダークサイドを描く新感覚ミステリー。
著・文・その他:南々井梢
ジャンル 文庫:徳間文庫
発行元出版社:徳間書店
シリーズ:徳間文庫
出版年月日:2022/07/08
ISBN:9784198947606
判型・ページ数:文庫・208ページ
定価:693円(税込)