ジレンマとの戦い~敵対的交渉へ発展させる本当の理由~ 徴収心理その2
この記事の4割は無料です。この記事は、無料部分だけでも公平性と感情のジレンマの整理に役立ちます。
注意
本記事は筆者の経験をもとにした一般的な解説であり、特定の個人や企業を示すものではありません。守秘義務に配慮し、具体的な事例には触れておりません。
徴収専門官・徴収吏員・徴収職員という仕事
税金や社会保険料等が未払いになった時に対応する職員がいます。それが税務署や自治体の徴収吏員、日本年金機構等の徴収職員です。徴収の現場では、日常的に「差押」や「捜索」という強制的な措置が図られます。その現場では、怒号が飛び交い、感情的になり、号泣する方、とにかくなんとかしなければならない思いで土下座をされる方等の修羅場があります。職員はこのような差し迫った緊張感のある場面に何度も遭遇します。
この記事は、全国で活躍されている徴収専門官、徴収吏員、徴収職員の方に役立ててもらいたいと書いていますが、それ以外にも、「交渉」が苦手、「人間関係」で悩んでいる人にも役に立ちます。
具体的には、この記事では、敵対的交渉(○○しないと××する)に発展してしまう心理的理由を理解することができます。
この内容が全てではありませんし、「正しい」と思っているわけではありません。ただ、ほんの少し、「あなた」という存在が交渉相手にとって「心地よい」存在に近づき、その結果、「あなた」がコミュニケーションにおける「摩擦」、「誤解」、「錯覚」を最小限にし、相手と良好な「調整」ができるようにお手伝いをさせていただきます。
私は徴収職員として(現在は退職しています)、延べ1,000人以上の法人の代表者様と交渉を重ねてきました。その分、多くの失敗をしてきました。この失敗を自分の中だけにしまっておくことは、とても勿体ないことだと感じました。この経験と現在、大学で学んでいる心理学を掛け合わせて、「交渉心理ライター」として、皆様のお役に立てれば幸いです。
公務であることでのジレンマ
公務ですから、当然に、誰に対しても同じ水準で対応しなければいけないという意識が働きます。当然そうです。不公平な判断で「差押」や「捜索」といった強制的な措置がとられるような社会ではあってはなりません。全国どこでも同じ基準、同じものさしで判断する必要があります。
そもそも徴収の問題が発生する源は、納付義務者が「納付期限」までに納付できなかったことにあります。納付期限までに納付が無い場合は、「督促状」というお知らせが発行されます。国税徴収法では、この「督促状」が発行されてから10日を経過しても完納しない場合には、「差押しなければならない」と明示されています。つまり、対応する職員は法令の条文では、「話し合い」を選択できない状況にあるとも言えます。
ですが、そもそも国税徴収法の目的は何かということに着眼すると、「円滑に税金を回収する」ことにあります。
当然、話し合いをすることで、自主的な納付が見込まれる場合もあります。もちろん、そうでないケースもあり、その場合は、「差押」や「捜索」といった事業や生活に大きな影響を及ぼす(信頼を失墜するという意味でも)滞納処分が下されます。
法令上は「差押しなければならない」相手と何故話し合いをするのか。それは、その方が「徴収上、有利に働く可能性がある」からです。徴収上有利な可能性があるならば、話を聞いても、国税徴収法の目的に合致するのではないでしょうか。
もちろん、「そんなことは分かっている」という職員はたくさんいらっしゃると思います。
では、なぜ、滞納の入り口で揉め事が発生したり、敵対的な交渉(○○しなければ××しますのような)をしてしまう職員がいるのでしょうか。
背景にあるもの~敵対的交渉をさせてしまう仕組み~
私は、職員が敵対的交渉に入ってしまう理由は大きく3つあると感じています。
1つは、職員のそれまでの経験です。特に「逃げられた」経験です。徴収する側が一番怖いのは、「逃げられる」ことです。大切な税金、社会保険料、労働保険料、取り逃がしては国民の皆様の生活に還元する予算を確保できません。破産等でどうしても回収できない場合は、「不納欠損」という「回収できませんでした」という会計処理をすることになります。これは、徴収職員としては「大失敗」であり、「敗北」の瞬間です。職員は、「逃げられた」経験があるからこそ、それを回避するために、勝負を早く決めようする心理が働きます。
(交渉とはそもそも勝ち負けを決めるものでは無いと思っていますが、ここでは分かりやすく表現しました)
私も徴収職員時代に、滞納者に土下座をされて「危ない」思いをしたことがあります。
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