もぐらと魔法の穴 ~第2話魔法の穴と海辺の街~
もぐらの導き
美沙は駅の片隅にぽっかりと開いた小さな穴を見つめていた。その穴から顔を出したもぐらが、彼女をじっと見つめる。
「なんでこんなところに…?」
もぐらは何も答えない。ただ静かに、美沙の目を見ているようだった。
「まるで呼ばれてるみたい…」
美沙はふと、今の自分の生活がこの穴の暗闇のように出口の見えないものに感じた。思わず手を伸ばし、穴の中を覗き込む。
「なんだろう、これ…。まさか入れるなんてことはないよね?」
彼女がそう呟いた瞬間、もぐらが穴の中に引っ込んだ。
「待って!」
美沙は吸い寄せられるようにその穴に足を踏み入れた。
不思議なトンネル
「えっ、広い?」
穴の中は想像以上に広がっていた。柔らかな光が周囲を照らし、壁は滑らかで、まるで長い年月をかけて磨かれたような不思議な空間だった。
「これ、本当に地中なの?」
美沙が歩を進めると、遠くからもぐらの小さな声が聞こえた。
「こっちだよ。」
「えっ、しゃべった!?もぐらがしゃべった!」
驚きながらも、美沙は声のする方へと進む。やがて目の前に、もう一匹のもぐらが現れた。そのもぐらは、美沙を見て優しく微笑む。
「こんにちは、人間さん。」
「こ、こんにちは。あなたたち、しゃべれるの?」
もぐらは小さくうなずくと、短い前脚を軽く振った。
「ここは特別な場所だからね。話すこともできるし、人間の言葉も分かるんだ。」
「特別な場所…?」
「そう。君みたいに疲れた人を癒すために作られた場所だよ。」
穴の先に広がる光景
トンネルを抜けると、美沙は息を呑んだ。
「ここ、どこ…?」
目の前には、南国のような青い空と白い砂浜が広がっていた。波が静かに寄せては返し、遠くには岩がごつごつと突き出ている。火山噴火で形成された複雑な地形が、まるで絵画のような美しさを醸し出していた。
「ここが私たちの世界、もぐらの楽園だよ。」
「楽園…本当に夢みたい。」
もぐらはくるりと振り返り、美沙に向かって言った。
「さあ、行こう。この世界を案内するよ。」
海辺の街
もぐらについて歩きながら、美沙は小さな街にたどり着いた。木造の家々が立ち並び、住人たちが穏やかな表情で暮らしている。
「すごい…ここにはどんな人たちが住んでるの?」
「人間もいるよ。みんな、現実の世界でちょっと疲れちゃった人たちだ。」
「そうなんだ…。」
街を歩くと、住人たちが次々に美沙に声をかけてきた。
「こんにちは!新しいお客さんだね。」
「ゆっくりしていってね。」
美沙は少し照れながらも、住人たちの温かさに触れて心が和らぐのを感じた。
癒しの泉
「ここがこの街の中心、癒しの泉だよ。」
もぐらが案内した先には、小さな泉が静かに湧き出していた。その水面には柔らかな光が揺れ、見ているだけで心が落ち着く。
「この水を飲むとね、心が穏やかになるんだ。」
「本当?」
美沙はそっと水を手ですくい、一口飲んでみた。冷たくて澄んだその水は、喉を通るとともに心の奥まで染み渡るようだった。
「不思議…体の中から温かくなる感じ。」
「でしょ?ここで少し休んでみるといいよ。」
美沙は泉のそばに腰を下ろし、ゆっくりと深呼吸した。
「こんな場所、今まで知らなかった。」
幸福への道
泉のそばで目を閉じていた美沙に、もぐらがそっと語りかけた。
「ここでの時間は、焦らなくていいんだよ。何もしなくても、ただ自分の心と向き合える。」
「でも…現実の世界では、そんな余裕なんて…。」
「だからこそ、ここでその緊張をほどいてほしいんだ。」
もぐらの言葉に、美沙は涙がこぼれそうになった。
「私、本当に疲れてたんだな…」
「大丈夫。ここで少しずつ元気を取り戻していこう。」
もぐらの優しい声に、美沙は静かにうなずいた。
「ありがとう…。」
第3話