
英字新聞記者が共有したい、「英語のお話」米政権移行編
Chief of Staff (主席補佐官)
トランプ次期米大統領(President-elect)は、みずからの陣営で選挙対策本部長を務めたスーザン・ワイルズ氏を主席補佐官に起用すると発表しました。女性が主席補佐官に就任するのは初めのことです。
AP通信社の記事によると、ワイルズ氏は、裏方(behind-the-scenes role)に徹するのを好み、トランプ氏の勝利宣言のあとにマイクを向けられた際も、コメントするのを断っています。
“Susie likes to stay sort of in the back…The ice maiden, we call her the ice maiden (スージーは、少し控えめな立場にいるのが好きなんだ。我々は彼女を「氷の乙女」と呼んでいる)”と、トランプ氏はワイルズ氏がコメントを断った後に述べています。
今後も、彼女は“shun the spotlight (注目されるのを避ける)”のでしょうか。
Decades of experience (数十年の経験)
ワイルズ氏は、1970年代に下院議員のジャック・ケンプ氏のワシントン事務所で働いた後、1980年にレーガン元大統領の選挙キャンペーンに参加しました。また、レーガン政権のホワイトハウスでもスケジュール担当者(scheduler)として働いた経験があります。
結婚を契機にフロリダに転居し、第2の都市ジャクソンビルで市長の補佐を務めたのち、フロリダの選挙陣営で頭角を現します。
APの記事によると、
(https://apnews.com/article/who-is-susie-wiles-32df8958bedde5f3f2d55fd071979692
“After that came statewide campaigns in rough and tumble Florida politics, with Wiles being credited with helping businessman Rick Scott win the governor’s office. (その後、厳しいフロリダ政治の環境下で州全体の選挙キャンペーンが展開され、ワイルズ氏は実業家リック・スコット氏が州知事の座を獲得するのに貢献したと評価された)
2016年には大統領選でトランプ氏のフロリダでの勝利に貢献しました。このフロリダでの勝利が、トランプ氏を第45代米大統領に押し上げることとなりました。
Rift with DeSantis (デサンティス氏との不和)
ワイルズ氏は、その2年後にロン・デサンティス氏がフロリダ州知事に当選した際も選挙陣営を率いていました。デサンティス氏は、後に日本でも「ミニトランプ(Mini-Trump)」として知られるようになりました。
しかし、デサンティス氏とワイルズ氏は次第に不仲(rift)になり、2020年の大統領選では、デサンティス氏がトランプ氏に対し、ワイルズ氏をフロリダのキャンペーンから外すように助言したと言われています。
それでも、今年の大統領予備選(primary elections)では、ワイルズ氏がトランプ氏のキャンペーンを率いることになり、その後、共和党の若手のホープと見られていたデサンティス氏が、共和党の指名争いからの撤退を表明しました。APは次のように伝えています。
“Wiles ultimately went on to lead Trump’s primary campaign against DeSantis and trounced the Florida governor. (ワイルズ氏は、最終的にトランプ氏のデサンティス氏をターゲットとした予備選キャンペーンを率いることになり、デサンティス氏が惨敗している)”
デサンティス氏は撤退後、SNSで「今後のキャンペーンスケジュールを表示したウェブサイトを消去した」と伝えましたが、ワイルズ氏はコメント欄に“Bye, bye”とメッセージを残したそうです。さぞかし、ほくそ笑んでいた(glee)ことでしょう。
Roles of Chief of Staff (主席補佐官の役割)
さて、主席補佐官は具体的にどのような仕事をするのでしょうか。
英国の公共放送、BBCは次のように伝えています。
(https://www.bbc.com/news/articles/cd0gdnp9d3ko)
They essentially serve as the manager of the White House and are responsible for putting together a president's staff. (ホワイトハウスの実質的なマネージャーとして、大統領のスタッフをまとめる責任を担っている)
A chief leads the staff through the Executive Office of the President and oversees all daily operations and staff activities. (大統領府のスタッフを率い、すべての日常業務やスタッフの業務を監督する)
They also advise presidents on policy issues and are responsible for directing and overseeing policy development. (政策について大統領に助言し、政策策定を指揮し、監督する任務を担っている)
さらに、APによれば、主席補佐官は「gatekeeper(門番)」の役割を果たし、大統領が誰と会い、誰と話すかを調整します。
トランプ氏は1期目に自らスケジュールを決めていたそうですが、CNNの記事によると、ワイルズ氏は「誰が大統領執務室に入室できるかについて管理するより大きな権限を持つ」という条件で打診を受け入れたそうです。(https://edition.cnn.com/2024/11/07/politics/susie-wiles-trump-chief-of-staff/index.html)
Managing Trump (トランプ氏の管理)
ただ、トランプ氏は衝動的な言動をすることで知られています。ワイルズ氏は主席補佐官として大統領の「最悪の衝動的言動 (worst impluses)」を制御できるのでしょうか。トランプ第1期政権では、主席補佐官が短期間で交代し、任期中に4人が指名されています。
APの記事によると、ワイルズ氏はトランプ氏をたしなめたり(chide)、説教したり(lecture)するのではなく、「トランプ氏の尊敬を勝ち取り、彼女の助言に従った方が従わないよりも良い結果になることを示す(earning his respect and showing him that he was better off when he followed her advice than when he flouted it)」ことで、トランプ氏の最悪の衝動をコントロールしてきたそうです。
米国の政治専門ニュースメディア「ポリティコ」は、今年、彼女のインタビューに成功していますが、その記事の中でワイルズ氏は、「どの子どもも、よくも悪しくも育った環境の産物である」と述べています。
(https://www.politico.com/news/magazine/2024/04/26/susie-wiles-trump-desantis-profile-00149654)
ワイルズ氏の父親は、元アメリカンフットボール選手で、その後スポーツキャスターに転身したパット・サマーラル氏です。
ポリティコによると、サマーラル氏は「アル中(alcoholic)」で、「プレイボーイ(philanderer)」だったと言われています。また、ワイルズ氏にとっては「留守がちな父親(absent father)」でもあったようです。
そのような環境で育つ中で学んだのは、「コントロールできないものもあるが、秩序が欠けている状況でも、秩序があるように見せる(semblance of order)こと」だそうです。
この記事を執筆した記者は、ワイルズ氏の指名発表後に、次のように述べています。
(https://www.politico.com/news/magazine/2024/11/08/trumps-chief-of-staff-susie-wiles-00188467)
“She learned to make herself invaluable or invisible—depending on what she needed to be and when. She learned to be a reader of rooms and moods and needs(彼女は、自分を(他者にとって)計り知れないほどの価値を持たせることを学び、また必要に応じて人目につかないようにすることも学んだ。どちらの才能を発揮するかは、彼女の必要に応じて、また時による。彼女は、その場の雰囲気や必要とされていることを読み取る方法を学んだのだ。)
2025年1月の正式就任を前に、トランプ氏はすでに活動を開始しています。1期目は混乱の中でのスタートでしたが、2期目では「ベストな人材(best people)」を揃えるとしています。ワイルズ氏の「猛獣使い」としての手腕はいかに発揮されるのでしょうか。