シュガーレイズドされた弾頭と獰猛な歌姫様のクソったれなリグマロール
戻っている。
何度も漂白された記憶がシーツに染みついた破瓜のように辛うじて脳裏に張り付いている。
ならば思い出せ。
右手には拳銃、体は何故か血に塗れた札束の風呂に浸かっている。
腰から爪先までの感覚。在る。
さてーーそれならどうする?
五感を研ぎ澄ませ、気配を辿る。
蘇ったならまた一からだ。
私の記憶は五分しか持たない。
それから先を刻むことはどうしてもできない。そうなっている。
それだけは何番目かの私が必死に脳髄に刻み込んだ。
と、高く響く銃声。そして獣性。
「いつまで死んでやがるこのヴォケっ!」
風呂場の扉をぶち抜いて現れた金髪の男が私の眉間に銃を突きつけた。
同時に私もまた男の額に銃を突きつけていた。
「正気かァ? ボクにンなもん突きつけやがって」
「ああ。正気だ。お前こそ、たった今起きたばかりの乙女に随分だな」
「軽口が叩けるならいい。アンタはどこまでいっても獰猛な歌姫様だ」
「褒め言葉か。で、どうする? ここは」
「わかってる。囲まれてやがる」
「誰の仕業?」
「知らん。だがやることは一つだろ」
「ああ。次の五分を生き延びる」
そうして、互いに突きつけた銃口を逸らす。
分かたれた双子のように動き、瞬間。窓の外から斉射。破砕音。
私は前方、男は後方へすり抜けて避け、碌に無い家具に身を隠して撃ち返す。
幾らかは手応えがあるが、埒が明かない。
割れた硝子には私が映っている。
蜂蜜色の肌、ルミナスブルーの髪と瞳。
更に銃撃。鏡が砕ける。
どちらかがこの状況に糸口を見つけ、打開しなければ死ぬ。
殆どそれしかわからないが、ならば十分だった。
「私が出る。それでなんとかはなるだろう」
「正気かよ」
「正気だよ。無事に抜けられたらお前の名前を教えろ。それと、私を名前で呼んでくれ」
返事はない。
札束風呂に火を放つ。なんて景気のいい火炎。注ぐ火に油。
もっと火をつけろ。
ああ、今にでも歌い出したい気分だ。
私は一歩、舞台へと踏み出した。
【続く】