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ストロボライト


 荒野。排気で黒々と濁った空の下、カーラジオがレース開始のニュースを告げる。

『さて、紳士淑女の皆様。今日最後のレースはジミーナ村落vsサン・モン市街区! 番狂わせの大物喰いがみられるか、要チェックだ!』
 
 雷鳴が轟き、雨が近いことを告げている。といっても一級市民以上の客は安全なテラスからレースを眺めるだけで、天候など関係がない。
 一方、都市最下層ではレース前の最終調整が行われていた。
 
「おめーらみたいなクソ集落がおれらの街と勝負たぁいい度胸じゃねぇか!」
「うるさい! こっちは掟に従いレースを申し込んだだけだ! 勝てばお前たちの街をおれらの村落が喰う。二言はないだろうな!」
「ほざけ。最下層の塵エネルギー風情が」
「なんだと!」
「はいはーい、そこまで♡ メカニックとドライバーのお通りだ〜」

 一触即発の場に割って入る者があった。
 メカニック用の統合知覚増強ゴーグルをかけ、豊満な肢体をボディスーツに包んだ女と痩せ犬のような体躯の少年だった。
 
「あんなチビがオフィサー、だと?」
「早く上に戻らないと巻き添え喰うよ? ほら、あなたたちも」

 促された村民が村落上部へ引き上げていくのを見とめ、市街区民もそれに習う。
 少年が村落心臓部に設えられた運転席に座り、席から村落各部に連結されたケーブルを自らの肉体に結合していく。
 女がその耳許に唇を寄せた。
 
「いきなりの大勝負だね。だけどキミならできるよ。ヒバナ。ボクがついてる」

 少年が頷く。

「まずはこの街を、そして都市の何もかもを喰って喰いまくって、俺たちは国を手に入れる」
「その意気♪」

 少年がシャツの前を肌けると、そこには力強く脈打つ機械の心臓が埋め込まれていた!

「対都市捕食形態、展開!」
 心臓から伸びるスイッチを引く。鼓動が唸りをあげ、村落部が異形の競争機関へと変形していく。燃える心臓が吠えた。

「ヒバナ、出るぞ!」

 3、2、1ーー

『スタート!』

【続く】

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