黒犬No.06
黄昏と夜とを別つように、丸みを帯びた有機体が西の空へ堕ちてゆく。
対龍迎撃専用飛空挺。
その格納庫に並んだ九つのケージから〈猟犬〉と呼ばれる対龍種強化型外骨格に身を包んだ一団が宙に放たれる。
エイリアンさながらのつるりとして鏡面めいた黒い頭部、棘の生えた獰猛な四肢。そして咒詛防御仕様の刻印済甲冑が全身を覆っている。
視界は良好、ノイズも許容範囲。
僕らは速やかに〈灰の坩堝〉を降下して此度の厄災の震源地ーー虚龍の巣へと近づいていく。
僕らに名前はないが識別番号ならある。
僕はNo.6。だから06と呼ばれてる。多分四人目の06。
優雅に落下するための翅を畳み、谷底の岩壁に着地。
辺りには咽ぶような血臭が満ちている。
降下前に報告を受けた通り、先遣隊が壊滅して十三体分合計1829片もの血肉をぶち撒けている。
闇の中で何かがぐねぐねと蠢くのが見えるーーと、クリック音。
『会敵する。用意はいいか?』
『応ッ!』
『準備万端だよ〜』
瞬時に九つの思考を共有。
答えたのは07と04で最初に呼びかけたのは01。
僕らは屠龍のために設計された動物だからこんな芸当も可能だ。
『くる!』
02が低い声で告げる。
咆哮、そして眩く白い一閃。
0.1秒後には周囲が灼熱の焔に包まれていた。
爆轟の中から姿を現したのはーーまさしくも異形の龍。
何千本もの人間の腕を生やし、のたうつ災厄の化身。
『やはり千歳級か』
『勝算.003%。退避を推奨、無駄死には御免です』
03が嘆息し、05が平坦な口調で告げる。
『無駄死にじゃあないでしょ、これは任務。埒が開けばあとは〈勇者〉がやる。僕らが一ミリでも隙を抉じ開ければそれでいい』
『06はいっつもクールだなぁ。さ、それならいっちょ死に花咲かせちゃおうぜ?』
09。僕の好敵手で相棒。
君がいるから僕はこんな状況でも僕のままでいられるんだ。
代わりはいるよ。
知ってる。知ってた。
だけとそれがなんだ?
やっちまえ。
【続く】