【怪談】人が変わってしまった友人
2010年の夏、私は、世田谷のスタジオで、神聖かまってちゃんの『みんな死ね』というアルバムのレコーディングにマネージャーとして携わっていた。
期間は1ヶ月間くらいあっただろうか。
自分の経験としては、長いレコーディングだった。
メンバーとエンジニアさんと、毎日毎日、コツコツと作業をしていた。
ある夜、メンバーはやることを終えて帰り、エンジニアのIさんがひとり残って作業している横で、私はとある場所にまつわる心霊映像をYouTubeで観ていた。
それは、京都のとある火事で焼けたホテル跡で、ある芸人さんがそこで撮った映像に女の霊が映り、北野誠さんのテレビ番組でも放送された有名な場所である。
私の友人である映画ライターのギンティ小林さんが、映画版『怪談新耳袋』の特典映像のために同じ場所を訪れたところ、全く同じような女の霊を撮ってしまったというものだった。
この場所の映像は、「限りなく本物と思われる霊が映った映像」としてオカルト好きにはけっこう有名である。
北野誠さんがテレビで紹介したことで既に有名だったのだが、ギンティさんたちが同じ女の顔を撮ってしまったことで、その信憑性をさらに高めたのだ。
映像を観ていると、作業を一休みしたIさんがひょいと私のPCを覗いてきて、
「ああ、ここ。Kのホテルだね」
「なんで知ってるんですか!?」と尋ねると、そこは彼の地元で、心霊スポットとして有名だった、学生時代には自分も行ったことがある、というのだ。
思わぬ偶然に私のテンションは急上昇し、興奮気味にIさんに尋ねた。
「行って何もなかったんですか?」
するとIさんは、
「ああ…俺は別に何もないけど。でも、人生が変わっちゃった奴ならいるよ」
と、こんな話をしてくれた。
Iさんは高校生の頃、肝試しとして友人たちとホテル跡を訪れたものの、特に何事もなく、廃墟散策をしただけだった。
ただ一人、「撮った写真に女の霊が写ってる!」とやたら主張してくる友人がいた。
でも他の皆は、もう肝試しの熱も覚めてしまったのと、その写真を見てもあまりよく分からなかったそうで、相手にしなかったという。
数日後のことである。
その友人とIさんは、下校中に騒がしい人だかりを見つけた。
それは、交通事故の現場であった。
好奇心旺盛な高校生のことだ。
一体どうなってるんだろうと思い、2人は覗いて見ようとしたが、人が多く、Iさんは何も見えなかった。
しかし、友人は人の間から、何かを見てしまったようだ。急に青い顔になり、
「俺、あかんもんをみてもうた」
と言っていたという。
それからである。
その友人の性格は、どんどん変わっていったという。
元々穏やかで真面目だったのに、盗みをしたり、暴力を振るったりするようになった。
あまりに別人のようになってしまったので、困り果てた親は、お寺に相談に行くことにした。
すると、住職からはこう言われたという。
「息子さんは、人の死に目に遭っていますね。その前に、女の霊に会っています。それが原因です」
その話を聞いたIさんは、すぐあの時のことが思い浮かんだ。
「女の霊って、きっとKホテルのことだ」
「行ったらいけないところは本当にあるんだねえ」
Iさんは私に言った。