犬神と白児(いぬがみとしらちご)
鳥山石燕の『画図百鬼夜行』に「白児」と「犬神」という二体の妖怪がセットで描かれている。
稚児髷を結った少年とも少女ともつかない振袖姿の児童が神主の装束をした犬の前で何やら文字の修練に励んでいる。
稚児とは剃髪しない少年の修行僧の事だが、少年の神秘性を観音菩薩になぞらえ、特に天台宗においては「稚児灌頂」という儀式が行われた。
これは両性を備えるとされる観音菩薩と同格とされた稚児と性的関係を持つ事でその加護にあやかるというものだが、実際は女人禁制の僧侶たちの性愛の対象とされたのであろう。
天台宗と関わりを持つ山王神道においても稚児灌頂が行われていた事からこの犬神は神主の姿をしていると思われる。また『化物づくし』には「大坊主」と「白ちご」という名で僧装の犬が同じ様に描かれている。
いずれにせよ大坊主、犬神共に性愛に溺れた僧/神主を犬畜生に揶揄した妖怪であると思われる。
そして白稚児は観音菩薩に仮託された偶像/アイドルであったのだろう。(了)