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「い駒さん、タモ!!」

期待に満ち溢れた伊豆大島遠征、初日午前中の戦果はウミスズメで終了。特産品の島のりを使用したラーメンの温もりに癒された後、再び風足強まる岡田港に戻ってきました。


びめしは粘り強く場所を少しづつ変えながらショアジギングを敢行。い駒さんはいつの間に買ったのか、かっぱえびせんをポリポリと食べながら休み休みキャストしていました。


一方、僕と宮田は微かな可能性を感じ餌釣りを続行。ただこちらも水温があまり高くないせいか積極的に餌を啄むような魚信はなく、午前と同じく静かに時が流れていきました。


しかし、そういった「釣り人が勝負を諦め、殺気が出ていないとき」にこそ事件は起きるのです。


15時を過ぎ、冬至近くで早くも日が傾きはじめたころでしょうか。時折木枯らしが強く吹きつける中、手持ちすら億劫になり、地べたに置きっぱなしにしていた僕の磯釣り竿の先端が微かに震えました。



波風の悪戯かと思うほど小さな、僅かな揺れ。僕はどうせ気のせいだろうと、ひんやりとしたコンクリートの地面に座りながら変わらず竿先をボーっと眺めていました。


しかし、波風にしてはどこかおかしい。

風速も波高も変わった様子はないのに、竿先の振動の幅だけが大きくなったり小さくなったり。魚が餌に食いついたときのような竿の締め込みもなく、悪戯好きな子供が水中で釣り糸をビヨン、ビヨンと引っ張っているかのようでした。



流石におかしい、と気を取り直した僕は、念のためそっと竿に手を添え、そのときを静かに待ちました。


待つこと数分でしょうか。ふっ…と、じゃれつく様な竿先の小さな揺れがぴたりと止んだ、次の瞬間でした。



ズゥン


と音がしたと錯覚するほどに竿先が90度近く曲がり込んだかと思えば、これまでの静かさとうって変わって竿先がガタガタと激しく暴れ始めました。



「やっば」


急いで竿を抱え込み、リールを必死に巻きます。竿を通して手元に伝わる魚の重みこそあまりありませんでしたが、それと全く比例しない強烈な引きは、釣り素人の僕を慄かせて余りあるものでした。


格闘すること十秒足らず、思ったよりも早く魚の抵抗が弱くなったのを感じた僕は



「い駒さん、タモ!!」
※タモ: 魚を掬い上げるための玉網のこと。



と叫びました。
慌てふためき格闘する僕の姿に、少し離れたところにいたい駒さん、びめしもどうしたどうしたと駆け寄ってきます。ちなみに宮田は僕の隣で「すげえ!すげえ!」と応援なのか感想なのか分からない歓声をあげていました。


興奮している僕と宮田を他所に、びめしとい駒の両名はまじまじと水面を覗き込むと


「JBさん、この大きさなら多分タモいらないですよ。ぶっこ抜いてください」


「えっ、本当?」


確かに水面まで上がってきた魚影をみると、黒っぽい魚影は手のひらほどの大きさしかなさそうです。


「あっ…そうね…」


我にかえり急に恥ずかしくなった僕は冷静さを取り戻し、竿の力にまかせてよっこいしょと魚をひっこ抜きました。

そのサイズ、なんと20センチたらず


ぺちゃんとサイズさながらの可愛い音を立てて上がってきた魚。黒黒としたフォルムに白の斑点。見慣れない、というかこれまで一度も釣ったことのない魚です。


「これ何?」とびめし。


「あー、多分これかな?」

島釣行前にkindleで買った釣魚1,400種図鑑で見かけた魚。イシガキダイという魚の幼魚でした。



「このサイズであんなに引くんですか?」と宮田。



「なんか鰓から血が出てるし、持って帰っては?今日の宿、確か台所ありましたし」とい駒さん。


「そうだねえ…」


サイズに拍子抜けしたこと、また当時は特段思い入れのある魚種でもなかったことから、妙に冷静になっていた記憶があります。


7年後、この魚にどハマりするとは夢にも思いませんでした(記事になるのは果たして何年後になるやら…)

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