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凍死未遂
コルトスナイパー事件から翌週の平日。
(今思い返すとこの頃の釣行頻度は本当にどうかしていました。noteではかなり割愛していますが、僕とびめしはこの頃週4日ペースで釣りに行っています。ちなみに残り3日は例のサイゼリヤでびめしやつりったーの面々と飲んでおりました)
びめしの話を聞いて大物に興味が沸いた僕は、近辺で大物の釣果が上がった場所がないか調べることにしました。
すると、以前、神奈川県川崎にある東扇島西公園の堤防でイナダ*が釣れたという報告を見つけました。
*イナダ…ブリの若魚(一般に35~60cm)の関東での呼称。ルアーフィッシングの対象魚であり、陸からこれが釣れればファミリーフィッシングから中級者への仲間入りができるという認識がありました。
『びめし、東扇島でイナダが出てるよ』
『今週末行きましょう』
予定が空いていたのはびめしと僕の他に、鳩さん、宮田。生憎い駒さんは予定が合いませんでした(が、彼も後日この東扇島イナダ狙いの陣に幾度となく巻き込まれることになります)。
東扇島西公園が週末混雑することは前回経験していたので、深夜に現場入りして夜釣り&車内泊でイナダの活性が上がる早朝を狙い撃ちすることにしました。
「さ、さむい…」
今書いていて自分でも呆れるのですが、木更津の反省を生かして冬用の防寒装備を整えてきたびめしに対し、僕は市販のジャンパー、宮田は薄手のモンベルジャケット、鳩さんは薄手のウィンドブレーカー。
2017年11月。昨今のような暖冬ではなく、明け方の気温が5℃を切る時期であったにも関わらず、全く同じ轍を踏んだ(びめし以外の)3名は木枯らしに身体を震わせるのでした。
肝心の海も魚の気配がなく、吹き付ける北風と貧果に心を蝕まれるのみ。
誰が提案するでもなく、我々が早々に車中泊に切り替えたのは半ば自然の流れでした。
「5時にアラーム掛けました。バッテリー上がっちゃうので車内が暖まったら暖房切りますね」とびめし。
「ありがとうー、おやすみ」
…
…
…
ふっと目が覚めました。
いえ、正確には意識は覚醒しているのに目が開けられません。
身体の全身が表面から5cm分くらいの深さまで硬直してしまっており、全身を蝋で塗り固められてしまったかのようでした。
意識ははっきりしているのに、ここまで身体の自由が何一つ効かないのは初めての体験で、底知れぬ恐怖を覚えました。
一体何が…何だかまた眠くなってきた……まずい…死…
「……っはァ!!!」
誰かが飛び起きる声が聞こえ、ガチャガチャと車の鍵を回す音、そして暖房の送風音。
徐々に車内の温度が上がり、ようやっと目が開き身体の自由が効くようになりました。
「危ない、凍死しかけてましたよ僕ら」
エンジンを掛けて空調を付けてくれたのはびめしでした。文字通り間一髪、彼だけが辛うじて身体を動かすことができたのでした。
「ありがとう、よく起きられたね。やっぱりそうか」
「僕も死ぬかと思いました」「ヤバかったですね」と鳩さん、宮田。
「凍死しかかると身体って動かないんだね」
これが初めての臨死体験で、その後すぐに防寒具を購入したのは言うまでもありません。
ちなみにその日、イナダは釣れませんでした。