「僕、最近釣り番組をよく見るんですよ」

2017年8月中旬。夜10時を過ぎた頃だったか、白金高輪のサイゼリヤで何杯目か分からない赤ワインを僕のグラスにどぼどぼと注ぎながら、びめしが思い出したように呟きました。

僕は「へえ、そうなんだね」と、聞いてるか聞いてないか分からない返事をしながら辛味チキンを貪っていました。

アカウント名はびっちめし、略してびめし。

人前で呼称するにはあまりに気まずい名前から、以降はそれで統一したいですが、長年のスポーツ経験を感じさせる確りした体型、自信に満ち溢れた口調の彼が、釣り番組なんていうくたびれた定年前のおじさんが観そうなもの(すみません、当時の印象です)を観ていることに少し驚きました。

「びめし、釣り番組とか観るんだね?」

「テレビ画面でも、海を観てると落ち着くんですよね。多分仕事で疲れてるんだと思う。JBさん、最近ハゼよく釣りに行ってるじゃないですか。今度僕も連れてってくださいよ」

「あ、もちろん。今度連絡するわ」

とんとん拍子に話が進みましたが、実はこの時、私と彼が初めて出逢ってから2週間と経っていませんでした。

オフ会で初めて出逢ったその日に何故だか仕事やプライベートの話題に花が咲き、さらに偶然当時二人とも家が近所であることがわかり、週2-3のペースで近場のサイゼリヤで飲むようになった、そんな2週目の出来事だったのです。

そんな経緯でしたから、この時のお誘いもきっと社交辞令だろうとたかを括り、酔いもあってかこの約束はけろりと忘れ、週末を迎えました。

土曜日。その日は確か前日の仕事疲れからか朝10時頃に起きた覚えがありますが、携帯にLINE通知が来ていました。

『この前約束した釣りですが、今日行きますか?』

あ、本当に行くつもりだったのね?
面食らいながらもこの週末は当時の彼女と約束があり、申し訳ないながらもお詫びの返事をしました。

『ごめん。今週末は予定があって。また今度でよい?』
『分かりました!』

翌週。
その週も彼とは飲んでいたのですが、釣りの話題も特段出ず、もはや僕の頭からこの約束の話はすっかり消し飛んでおりました。

そして迎えた土曜日の朝。

『釣り、今日どうですか?』

この男、本気だ。そして、ごめん。今日と明日、友達と旅行なんだ。

結局この約束は僕のせいで2週間も流れ、ついに2017年9月3日、彼と僕は初めて一緒に釣りに出かけることになったのでした。

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