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ソーセージ・ミートボール御殿


10バーツの積み重ね

タイのストリートフードの中でも、一番お手軽なスナックは
ソーセージ、ミートボール、ツミレ、カニカマなどを竹の串にさし、
それを油で素揚げにする、もしくは炭火で焼くものがあります。

選べる種類は最低でも10種類以上、ソーセジだけでも必ず3種類はあり、子供から大人まで大人気のスナックです。
氷を敷いたガラスケースに並べて入れられているところから、
自分でプラスチックの手渡されるカゴに入れて選んでいきます。その選んだものをすぐその場で油で揚げてくれるので、熱々のスナックが食べられます。
どれもあらかじめ切り込みが入っているので、串に刺さった状態のソーセージが見事に花が咲くように広がり、なんとも美味しそう。
小腹が空いた時についつい買ってしまう、街のどこにでも売っているもスナックです。

ソーセージなどの仕入れ元はほとんどどこも同じで、大手巨大卸売スーパーなので、タイ各地で販売されている値段もほぼ一緒。だいたい1本5バーツから10バーツです。
調理法は油で揚げるか炭火焼きのみのスタイルなので、一緒にかけて食べる”ソース”で他のお店との差別化を図ります。

右下は、ワンタンの皮でソーセージまたはウズラの卵を巻いたもの。
ウズラの卵はちょっと高額なので、ひとくしに三つだけ。
人気商品です。

5バーツから10バーツというと、おそらく現在のタイで一番安い価格の食べ物で、
『これで儲けはいくらになるんだろう?いや、儲けはあるのかな?』
と思うほど。(現在のレートで23ー45円)

タイでよくありがちな労働時間は計算しないにしろ、毎回油代や電気代はかかります。場所代(大概椅子4つ分ほどの小さいスタンドスペース)はそれぞれの状況によりますが、おそらくほぼないに等しいような気がします。

最低限必要な道具は、

  • ガラスケース

  • ガラスケースを置く台

  • ガスボンベとその上につけるコンロ

  • パラソル

  • トング

  • 熱々のソーセージを入れられるビニール袋

  • 夜販売していところも多いので電球(昼間なら不要)

  • 移動式ならバイクとそこに設置するワゴン


大概の人は最低でも2、3本は買っていきます。
普通は10本ほどでしょうか。
私たちもなんとなく見かけると買ってしまいます。

それでも、、1本5ー10バーツのソーセージやミートボール。。
いくら薄利多売でも、これで生活はできないだろうとタカを括っていたのですが、どうやらそうでもないのです。

伝説のおじさん

昔住んでいたアパートの小道から大通りに出たところに、
毎日必ずソーセージやミートボールを売るおじさんががいました。
三階建てのタウンハウスの目の前にスタンドを出して販売しているのです。

そのおじさんは、そのタウンハウスの持ち主です。
私が住んでいたアパートの大家さんは、その土地のことをよく知っており教えてくれました。
「あのおじさんはソーセージとミートボールを何年もああやって売り続けて、彼の子供たちを学校にも行かせ、あの土地を買い、タウンハウスを建てたのよ。」と。
それは多分10年くらい前の話でした。

その時私は、
「へぇ、5ー10バーツのソーセージを売って家が建てられちゃうんだぁ。。」と感心しました。
ただ、まだ若かった私はそれがどれだけ大変なことか理解しておらず、いま思えば、あまり心に響いてはいなかったのです。
ただ、、、なんとなく私も歳をとったらこんな商売したいなと思いました。

そして先月のこと、その大家さんは10年経った今、建物は違いますが再び私たちの大家さんとなり、ある話をしました。

私ももうそれなりに長くこの土地に住み、歳をとってきたので、土地の売買の話を時折するようになっていたのです。
そこに、大家さんがまた”あのおじさん”のことを話題にしてきました。

「あのおじさんのこと覚えてる?ソーセージやミートボールをスタンドで毎日売っているおじさん。今も変わらず売っているんだけどね、あのおじさん、本当に何年も何十年も毎日、毎日、毎日5・10バーツのソーセージを売って、この近隣の3ヶ所の土地を所有してそれぞれ家を建てたのよ。本当、すごいわ。」というのです。

10年前は確か1ヶ所でしたが、10年後の今は3ヶ所になっていました。
しかも、この土地は今は値段が高騰している地域です。

今は、それがどんなにすごいことかわかります。
ソーセージ・ミートボール1本売って、恐らく2ー3バーツほどの儲けなはず。
一人10本買うとして、一人来て100バーツの売上で儲けが20−30バーツ。
販売時間や場所にもよりますが、ざっくりと毎日絶対に30人は買いに来るだろうなと言うのは簡単に想像できます。
すると、3000バーツの売上で600ー900バーツは毎日儲けに繋がります。
ただ、タイには雨季があり、路上販売であるこの商売は雨が降る日はかなり売上は下がるのです。

それを365日、年十年も売り続けて、子供に教育の機会を与え、土地を買い、家を建てたのです。その子供たちはすでに全員成人して会社で働いているそうです。


今の私はこの10年でどんな結果を出したのでしょう。。
パートナーにその日の話をしました。
すると、私のパートナーは言いました。

「僕もね、そんな伝説のおじさん知っているんだよ。小学校の頃の同級生のお父さんがそんなおじさんだった。
毎日ソーセージやミートボールを売って、たかが2バーツの儲けなんだけど、”チリも積もれば”だよ。 本当に質素に暮らして、家を建て、しっかりと家族を養う伝説のおじさん。ソーセージ・ミートボール販売の人が全てそうではないけれど、長年その仕事でかなり真面目に働き、土地を購入し、家を建てて質素に暮らしているそんなおじさん/おばさんはタイ各地にいると思うよ。」

ソーセージ1本、たった2ー3バーツの儲け。
きっと多くの人はそんな2−3バーツなんて馬鹿にしてやろうとは思わない。
でも、それをコツコツと貯め、
パーティーや外食などはほとんどせず、
無駄遣いもしない、
粗食を続けて健康で、家族の幸せを目標に毎日小さな幸せを集めて楽しんでいるおじさん。

物価が安いタイランドだから可能なのか?
と思っている方も多いかと思いますが、今現在はそうでもありません。
例えば、中心からちょっと外れた私が住んでいる地域の中古の一般的な一戸建ての家となると購入額は一千万バーツ(4500万円)はします。

Apple製品はタイでも大人気です。

日本と全く値段が変わらないものといえばコンピューター類。
特にiPhoneやMacbookなどのApple製品は世界共通価格なので、日本で購入する金額と全く同じなので超高額に感じます。それでも人気で、多くの若者が愛用しています。

一般庶民の足であるモーターバイク。
昨年のHondaの125ccギアバイクの新車の現金一括払いの店頭価格は6万2000バーツでした。(28万円)
ただ、このタイプはこの時代オールドファッションで、今の人気は150ccの大型オートマ車、またはベスパタイプのスクータースタイルで、どちらもさらに高額です。

日本に比べて高額だなと思うのがマクドナルド。
チキンマックナゲットは6つで180バーツ(800円ほど)。ポテトSサイズで89バーツ(400円ほど)。
ビッグマックは235バーツ(1060円くらい)。
先日、早朝出発の友人を空港に送りに行った際に数年ぶりに利用したマックでちょっとびっくりしました。

食べ物類は最近値段がどんどん上がっています。
10年前は一杯のフレッシュコーヒーが35バーツで飲めたのに対して、今では50バーツ代が一番安い価格帯。一般的には100バーツ(450円)になっています。
カフェでいただくケーキは一切れ130バーツ(600円)以上です。
外国人が行くような気軽なレストランは一食200バーツ(1000円くらい)から。ちょっと特別に人と集まって食べるようなレストランでは、一皿250バーツくらいから。
それに対して、タイのストリートフード/一般食堂は一皿50(250円)バーツほど。

そんな世界観のチェンマイ。

「私もソーセージ売ろうかな、、」
と呟くと、

「耐えられる?ちょっと美味しいご褒美的なご飯や、旅、お買い物なんかしてたらすぐなくなっちゃうような金額だよ。それに毎日いつも同じ場所で同じものを販売し続ける継続の力がものを言う職種。売上がないときにも続けられるかな?
”家族”っていう存在が一番大切で、家族の幸せと安定を支えること、そこ1点に明確に人生の幸せを見出している人がなせる方法じゃないかな。」

先日、昔住んでいたアパートの小道から出た大通りにスタンドを構える伝説のおじさんのところにソーセージを買いに行ってみました。

伝説のおじさんは、
しっとりと話す、物腰の柔らかい、
笑顔の素敵なおじさんでした。
最近はカット果物やオレンジジュースも販売していました。
いつ行ってもお客さんがいます。

何十年も前、まだおじさんが若者だった頃。
彼に先見の目があったのでしょうか。
それとも、たまたまやってみて、真面目に続けていたらこのような結果に辿り着いたのでしょうか。
昔、この地域は治安の良い地域ではありませんでした。
今では若者に人気のおしゃれスポットです。

このソーセージ・ミートボール販売は競争が激しい商売でもあります。
なんの競争かといえば、”場所”です。

場所代を払ってしまうと、儲けはほぼありません。
かといって、場所代がタダで人通りのいい所は、すでにギャング的な存在に取り締められていて、新参者に入り込む余地はありません。”場所代”とはならないかもしれませんが、そういった場所には父・母の代から繋がる”特権利代”というようなものが発生します。

大概の路地でソーセージ・ミートボールは販売されていますが、人通りの少ないところでは、もちろん生活費を稼ぐほどの売上には繋がりません。生活の足しにする目的で販売している人たちになります。

そして多くの人に美味しいと思われる手作りソースも重要です。

2、3種類のソースから選べるお店もありますが、
自慢の1種類で勝負するところもあります。

ソーセージ・ミートボール御殿を建てたいとう訳ではないのですが、

シンプルな調理法で、
シンプルな素材を扱い、
ソース一つでオリジナル性を出す。
子供から大人まで、
学生や労働者、おじいちゃんおばあちゃんが気軽に好きなだけ好きなものを選んで買うことができる食の販売。
決して健康的とは言えないけれど、
人の心の憩いの場になれるスポット。

揚げソーセージ・ミートボール、とても惹かれる商売です。


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