現代の母子家庭貧困はただのプロパガンダ
はじめに
「我が国は母子家庭の貧困率が先進国の中でもトップクラスに高い。」これは皆さんもどこかで一度は聞いたことがある話ではないでしょうか。
これは平成28年度国民生活基礎調査(1)を参考にしています。
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/03.pdf)
これによると当時のひとり親の相対的貧困率は50.8%とされています。
まず相対的貧困の定義ですが、貧困線を下回る可処分所得しか得ていない人のことを指し、貧困線とは等価可処分所得(=手取りを世帯人数の平方根で割った数字)の中央値の半分を指すようです。
日本における貧困線は2016年時点では122万円でした。よって日本における相対的貧困率とは年間の等価可処分所得が122万円以下の割り合いを指すというふうに言い換えることができます。子ども2人のひとり親家庭だとこれに√3をかけて大体年間の可処分所得がだいたい200万円くらいです。
また、よくネット上に流れてくるNPO団体の広告をみると「1日2食しかご飯を食べられない」、「トイレの水すら流すのがもったいなくて1日数回しか流さない」、「食べるものがなくて道端の草を食べている」、「電気代が払えなくてエアコンもつけれらない」などなど悲惨な状況が溢れかえっています。
しかし、みなさんはこんな疑問も湧きませんでしょうか?「今どきはいろんな手当があるのに本当に母子家庭の半分以上がそんな貧困なのだろうか?そんな生活が苦しそうな人身の回りで見たことないぞ」と。
結論から言うと、現在のさまざまな支援を考慮すると本当に頑張ってもこのライン以下の人というのはほとんどいないと言えます。そして様々なシングルマザー支援NPOが貧困と自団体への支援や寄付を訴えていますが、もはやこれ以上の支援拡大はほぼ不要で、ただ然るべき行政サービスにさえ繋げばよいレベルになっています。以下この問題について解説します。
相対的貧困率はあまり意味をなさない指標
こちらは相対的貧困率の元ととなった調査ですが、平成27年時点で母子家庭の稼働所得は213万円で手当込みで270万円です。ですが、まずその他の所得が年間5.8万円と少なすぎます。母子家庭の養育費の平均受け取り金額は月約5万円とされており、3割が受給していると考えてももう少し高いはずです(2)。また子ども2人で児童扶養手当と児童手当を満額もらえればそれだけで年間100万円近い手取りになりますがどうも反映されていないように見えます。さらに稼働所得は課税されますが、手当は非課税です。そしてその区別がなされていないように見えます。この辺りの詳細は残念ながらこの調査には詳しく書かれていません。
そのほか、一般的に母子家庭が受けられる支援としては、寡婦控除、児童手当、児童扶養手当、児童育成手当(東京都のみ?)、住居手当(自治体による)、医療費控除(自治体による)、公営住宅への優先的な斡旋(自治体による)などがあります。しかし現物支給に関しては、この貧困ラインを考える時には考慮されていません。
この注釈にも書いていますが、現物支援は考慮されていませんし、おそらく手当や控除も十分に考慮されていません。また、よく日本のひとり親家庭貧困はOECD諸国で最低レベルだと言われていますが、他国も統計の取り方が統一されていないのではっきり言ってあんまり意味のない指標だと思われます。日本においてもこれまでひとり親家庭の相対的貧困率はずっと50%を超えていましたが(1)、2022年に集計方法が変わったことにより、いきなり44.5%に低下しています。そもそも論ですが、可処分所得を世帯人数の平方根で割っているので1馬力で複数人を養っているひとり親世帯がフルタイム勤務の独身者より相対的貧困になりやすいのは当たり前です。
https://www.stat.go.jp/info/kenkyu/skenkyu/pdf/20210625_08.pdf
別の調査も見てみましょう。厚労省による令和3年全国ひとり親世帯等調査によると、平成27年時点では母子家庭の平均収入(手当等含む)は343万円でしたが、373万円まで上昇しています(2)。そもそも先ほどの国民生活基礎調査となぜか収入は70万円くらい差があります。手当の有無で平均年収が150万円近く上がっているので、あとはほぼバイトのみで相対的貧困層から外れられます。あくまで平均的な話ですが。この手当込みで年収100万以下の層というのは本当に謎です。おそらく行政のそういった手当などを知らない、調べられない層、資産があって働かなくて良い層の可能性が考えられます。
就労しない余裕がある?
また先ほどの全国ひとり親世帯等調査によると、なにかしらの資格をもった女性は65%もいます。それなのになぜ約半数がパートや非常勤勤務なのでしょうか?もちろんキャリアの問題で長い間フルタイムで働いていなかったから就労できないという側面もあるかもしれません。しかし、データからはどうやらそれだけではなさそうな気がします。
子どもが小さいというのも確かに理解はできます。実際この全国ひとり親世帯等調査によると未就学児の割合はH28年のもので母子家庭で14.9%、父子家庭で8.2%と母子家庭の方が確かに多いです。しかしながら逆にいうと残りの80%近い家庭では子どもは小学生以上でフルタイムで働くのは採用さえされれば可能なはずです。実際父子家庭は正社員、自営業、会社役員を入れると約90%がほぼフルタイムで働いています。
一方で母子家庭は離婚前のフルタイム勤務は35%であったものが、離婚しても48.8%にしか増えていません。無職層、パートの割合は微減しましたが、未就学児の割合を考慮しても明らかに父子家庭よりフルタイム勤務が少ないです。
先ほどあげたキャリアの断絶がフルタイム勤務を困難にしている主な原因なのかと思いきやどうやらそんなこともなさそうで、パートとフルタイムの区別はついてはいませんが、就労している人の約7割がそのまま仕事を続けたいといっています。この中にはおそらくパートの人も多分に含まれます。
就労をセーブしたほう方が得な層がいる?
そして先日ハッとさせられるXでのポストを見かけました。
しんぐるまざあずフォーラムの赤石氏の投稿です。界隈ではすごく有名な方です。こちらを見てすごく疑問に思ったのが「シングルマザーは貧困なんじゃなかったのか?働き控えなんてしている余裕があるのか?」ということでした。なので実際にシミュレーションしてみました。
年収200万円と年収400万円のケースの比較検討
一般的な家庭(元夫年収500万、子どもが2人 3歳、1歳)という設定で年収200万円と400万円で下記(4)、(5)のサイトで計算してみます。わかりやすくボーナスはなしです。
年収200万円 月額
手取り 約13.5万円(社保あり、寡婦控除があるので実際の手取りはこれより多い)
養育費 約68000円
児童扶養手当(養育費未申告) 56250円
児童手当 25000円
合計手取り 284250円
年収400万円 月額
手取り 約26万円(こちらも寡婦控除カウントせず)
養育費 53000円
児童扶養手当 23620円(なお養育費申告すると0)
児童手当 25000円
合計手取り 361620円
と年収が倍でも月々の手取りは8万円くらいしか変わらないという結果になりました。後者がまともに養育費の申告をしていた場合はさらに2万円くらい差が縮まります。というかこの時点で労働収入以外だけですでに可処分所得が月10万円越えなので学生のバイトレベルでも十分相対的貧困層から外れます。さきほどの母子家庭の労働収入の表から見ても年収100万円以下は約20%前後しかいませんし、病気で働けないとかのレベルだと思うのでもはや生活保護や福祉のレベルの話です。
養育費を申告しない、働かないインセンティブ
転職サイトのdodaによると30代女性の正規雇用者の平均年収は380万円です(3)。そして、児童扶養手当が切られるのは子供2人で385万円です(令和6年から)。また働けば働くほど元配偶者との年収差が縮小し養育費が減ります。フルタイムで働いても年収380万円しか稼げず税金だけ高くなって手当も切られるなら、年収200万円でも手取り換算で年収400万とそこまで変わらないなら働かない方が得という話になりますよね。また、児童扶養手当の上限というものが養育費未申告のインセンティブを生んでしまいます。
養育費について
養育費については2003年に8人の裁判官によって勝手に作られた算定表なるものが作られ、それが便利なので広く普及し現在まで使用されています。
また2019年にはこの算定表は改訂され、養育費は大体2万円くらい増額になったと言われています。算定表によれば収入の格差がある場合はだいたい手取りの2割くらいになる計算です(4)。さらに養育費の差し押さえも容易になったと言われています。
よく、母子家庭の養育費受取率が30%だと言われていますが、その大きな原因は取り決めを行なっていないからであって取り決めを行なっていない最大の原因は「相手と関わりたくないから」です(2)。なおDV事案は4.8%です。
一方で養育費の取り決めを行なっていた場合の継続的な支払い率は約60%で全く支払われなかったのは20%以下とこれは共同養育計画を義務化している他国と比べてもべらぼうに低いわけではないと思います。というのも日本ではすでにかなり強力な債権回収システムがあり、給料や資産の差し押さえが容易にできるからです。支払われないケースは再婚などによって、面会交流と養育費自体が消失したケースや、実子誘拐、親子断絶などによって精神を病んで就労困難になってしまったケースなどが考えられます。現在はお金がなくても法テラスなども利用できますので弁護士を介入させることも可能です。(個人的には離婚は算定表に従うのみなので弁護士は入れない方がスムーズに行くと思っています。離婚弁護士は余計なことをしてわざと葛藤を高める人が多すぎます。)
なお余談ですが、協議離婚では取り決めがあった場合、養育費の受け取り率と面会交流の実施率はほぼ同じですが、裁判離婚の場合は面会交流の取り決めが行われても35%しか守られていません。これは、裁判まで行った人の中には子どもに全く会えないのにお金だけ払い続けている人がまあまあいるということを示しており、また面会交流の不履行に関する間接強制という罰金制度は「場所、日時が具体的に審判の内容に入っていないと働かない」というトラップがあり、実質的に機能していないので弁護士を雇って裁判をしている場合はその抜け道を指南されている可能性が高いからと私は考えています。
児童扶養手当の壁
下記図をみると児童扶養手当の一部支給の壁が約400万円にあり、先ほども触れましたが頑張ってフルタイムで働いても年収400万円前後なのでそうであれば「働くのはそこそこにしておいたほうが得だな」という考えが生まれるのも当然です。
以上のことをまとめると以下のことが言えると思います。
まとめ
・現在のひとり親家庭で非課税の手当、現物支給分をまともに考慮すると相対的貧困ラインを割ることはほぼない。
・それでもそれ以下の人は病気など別の問題があるので速やかに生活保護など行政サービスにつなげるべき。
・養育費、児童扶養手当の年収400万円の壁があるので、働き控えが発生している。言い換えると得になるので母子世帯はあえて年収を抑えている層もいる。
・児童扶養手当の上限にかからないように養育費未申告層が確実にいる。
・養育費は取り決めをすればかなりの割合でもらえる。
・シンママ支援NPOへの支援はこれ以上は明らかに不要。→離婚届を出す時にでも役所で各種手当について説明すればすむ話。
おまけ
これらを踏まえるとやるべき施策はNPOを支援することでも高級フレンチなどを食べさせることでも余って廃棄予定だった食品を送りつけることでもなく児童扶養手当の上限撤廃と、母子家庭に限らず国民全体に向けた減税でしょう。母子家庭の養育費受容率は先ほど述べたカラクリがあるので間違いなく未申告勢がいます。なので支払い側にも調査をするのと、離婚時の共同養育計画作成を義務付ければ子ども家庭庁が目標としていた養育費支払い率40%は来年にでも達成できると思いますし、母子家庭の統計上の収入も大幅に上がります。今我が国の政府がやっていることは極端な例でいうと「配当で暮らしている役員報酬を月8万円だけ出している」ような見掛け上の低収入の人たちに「支援が必要だー‼︎」と言っているような状況です。
もはやひとり親家庭はそこまで貧困ではなく、悲惨なエピソードを拡散しまくって寄付を集める支援団体も自団体の存続のためにやっている側面もあると思うので、政策に反映する場合は彼らの話は話半分くらいに聞いておいてデータをきちんと検証すべきだと思います。そうでないと根本的な問題解決にはなりません。
ここまで長文をお読みいただきありがとうございました。
参考文献
1. 厚労省 平成28年国民生活基礎調査の概要
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/03.pdf
2 . 厚労省 令和3年全国ひとり親世帯等調査
3 doda 女性の平均年収ランキング年齢別・年代別より
https://doda.jp/woman/guide/heikin/age/
4 . 養育費計算シミュレーター デイライト法律事務所より
5 . 児童扶養手当 シミュレーター
6 . 生活保護シミュレーター