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お疲れな燕岳

先日、北アルプスの燕岳に建つ山小屋、
燕山荘(えんざんそう)」に泊まってきました。

北アルプスに数ある山小屋の中でも
特に有名な山小屋です。

標高約2700mにある燕山荘


しばらく前になりますが、山の雑誌『山と渓谷』に掲載された山小屋ランキングにおいて

泊まってみたい山小屋ランキング1位

泊まって良かった山小屋ランキング1位

に選ばれていました。


接客が丁寧で、
床は毎日雑巾掛けされ清潔、
山小屋では珍しいコンベクションオーブンで調理された美味しい夕食、

様々なところで良い噂を聞きます。


また燕山荘がある「燕岳」も
初心者が初めて登る北アルプスの山
と紹介されることが多いです。

登山口から小屋までがおよそ4時間30分、
山頂からは槍ヶ岳や穂高岳など北アルプスの盟主たちが一望できます。

そして登山道には等間隔に休憩ポイントがあり、危険箇所がほとんど無い、よく整備された歩きやすい道、そんなコメントも多く見られます。


私もここでの山小屋泊は今回が初めてですが、
登山道はこれまで3回ほど歩いており、
印象としては道迷い遭難は
まず起こらないような登山道です。

初心者向けですが、登りは斜度があります


そんな評判の山と山小屋ですが、
ここのところ登山道整備に関わっている私としては、おや?と思うことがあったので、
今回綴ってみます。


お疲れな燕岳

今回登っていて気になったのは
登山道の崩れ。

例えば登山道上の木のステップが2段くらい無くなっていたり、
どこに足場があったのかわからないくらい
崩れてしまっていたり。

崩れた木のステップ
完全に足場が無くなってしまった場所


登山者が歩くことによって土壌が削られ、そこに雨水が流れてさらに掘られてしまう、
登山道の侵食が様々な場所で見受けられます。

巨大なガリー侵食


そしてその土壌の侵食の影響を受けたであろう倒木も多数。

木は根っこで大量の土壌を抑えてくれているので
、倒れるとその周辺の土壌を根こそぎ持って行ってしまいます。

土壌は流れる水を保水する役割もありますが、
崩れてしまえば、さらに多くの水が登山道上を流れることになります。


これまで、北海道の大雪山や、最近では乗鞍岳で、近自然工法による登山道整備の現場を見てきた身としては、
燕岳の登山道は悲しいくらいに痛んでいます。



このまま放置していたら、どんどん崩れて、登山道近辺の植生が失われてしまう、
そして登山者もどんどん歩きにくくなってしまう。

登山者がとても多い場所だからこそ、
こまめな整備が必要なのですが、
全く間に合っていません。

やはりお客さんが多すぎて、
いっぱいいっぱいになっているのでしょうか。


↓昨年参加した大雪山での登山道整備(参考までに)


お疲れな燕山荘

もう一つ今回の登山でおや?
と思ったこと、それは今回宿泊した燕山荘。

到着したらすぐ声をかけていただき
部屋案内もテキパキ。
下手なホテルよりよほどしっかりしているのではないでしょうか。

寝床、2人で上段を使って良いとのことでした


その一方でこちらがノロノロしていたり、
何度も説明を聞き返したら怒られちゃいそうだなぁ、というピリピリした緊張感も見られます。

もちろん怒られることはないと思いますが、
イライラさせちゃうんじゃないか、
そんな気がしてしまいます。

さばく接客という感じです。

しかしこの日の宿泊者は20名くらい。
コロナ禍後とはいえ、300名近い登山者を迎え入れる小屋としては微々たる人数だとは思いますが、ずいぶんと忙しそうな雰囲気です。

そして食堂で頼んだカレーを配膳してくださったスタッフの方も、夕食で案内してくださった方も、笑顔はほとんど見られませんでした。


カツカレーとても美味しいんですが…



しかし、そうなってしまうのも
山小屋勤務経験者としてわからないわけでは
ありません。

この11月というシーズン終盤は本当に疲れが溜まってくる頃です。
標高2000m越えという特殊な環境、週休2日なんてとんでもないほどの連勤(10連勤、2週間休み無しとか普通です)、

プライベートの無い山小屋という生活の場、
その知名度故に押し寄せる登山者、

そこへ下界より遥かに早く訪れる「寒さ」が追い打ちをかけます。

この日の朝は0℃。それでも11月としては異例の暖かさ


私が山小屋で働いている頃も、
この時期になると、寒さや疲れから、
段々朝起きられなくなってくる人もいましたし、
休憩時間に外で元気にしている人もいなくなります。

体は繁忙期の忙しさに慣らされているので
動きますが、ロボットのように動く感じでしょうか。

スタッフさんたちを見ていて、そんな過去を思い出しました。


山小屋で働くことの良さ、とは
スタッフもお客さんも「山が好き」という共通点があること。

それは様々な目的でお客さんが訪れる下界のホテル業とは決定的に異なる点だと思っています。

だからこそ、もてなす立場、もてなされる立場を超えてお互い親近感を持つことができる
そういう場所なんじゃないか、
と思っています。

お疲れな様子のスタッフさんたちを見て、
シーズンを通してもう少しスタッフさんにも余裕を持たせてあげられれば、
なんて勝手ですが思ってしまいました。


素敵な場所だからこそ優しく

登山者の数が、燕岳と燕山荘のキャパシティを超えているんじゃないか、そう感じます。

確かに燕岳は魅力的な山ですし、燕山荘は素敵な山小屋です。

麓の松本平は雲海の下
雲海、日の出
花崗岩の山、燕岳
北アルプスの盟主、槍ヶ岳と穂高岳
標高2700mで食べるケーキセット
夕食は盛りだくさん


こんなにお手軽に北アルプスの稜線に立つことができて(コースタイムは4時間30分)
北アルプスを代表する山々が目の前にあって、
小屋では快適に過ごすことができる、

そんな贅沢な山はそう多くはありません。

だからこそ山と、山に登る人、山で働く人、
三方良しの環境であってほしい。

登山者一人一人が山や、山で働く人のことを
思って接する。


燕岳と燕山荘が、さらに素敵な場所になることを願います。

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