富野由悠季監督が語った「アムロ山陰出身説」
「ミライさんとセイラさんが水着姿で日光浴をしてるのは山陰の海岸を想定して演出しましたし、アムロがお母さんと別れるシーンの背景はほとんど鳥取砂丘のつもりでやっていました」
2010年10月23日、富野由悠季監督は鳥取市元魚町1丁目で催された町内会主催の「芸術祭」のトークショーの中でファンから寄せられた「『機動戦士ガンダム』の主人公の出身地は山陰地方か?」の質問に対してこう答え、会場に大きな拍手と歓声がわき起こった。
ガンダムが放映された30年前、山陰に対して全国レベルの視線が注がれることは極々まれで「ガンダムの主人公は山陰の出身だった」という事実が、地元ファンに大変な衝撃を与えたことを、喝采の中で思い出した。当時、僕は中学生で、山陰に生まれたことを、誇りに思った最初の記憶がこれだった。
テレビ版本編で語られることがなかったため、ほとんど知られていないが、実は主人公アムロ・レイの故郷は山陰地方である。設定集などマニアックな資料の一部に「山陰地方」と記されているのを見つけることができるし、故郷の母を訪ねる13〜14話の進路図を見ると、山陰を通過しているように読める。
がしかし、その後、少しややこしい問題が付きまとうことになる。劇場版ガンダムでは、編集上の都合で進路が変更され日本を通過しなかったため、「プリンスルパート(北米大陸西部)出身説」が浮上し、さらに厄介なことに、続編のZガンダムでは“故郷に近い”アメリカのシャイアンに住んでいたため、まさに諸説入り乱れてしまった。
だが今回、原作者である富野監督により「山陰説」に太鼓判が押された。これは地元にとってニュースである。
「ゴジラは山陰に絶対上陸しません」という監督の言葉は、アニメやドラマの舞台設定に不自然なかたよりがあること端的に示し、同時にものづくりに関わる者が注意すべき、ひとつの重要な示唆を与えてくれる。
ガンダム以前のアニメやドラマなど舞台といえば、ほとんど関東地方に限られていた。例えば『マジンガーZ』を開発した光子力研究所は富士山山麓にあったし、『ウルトラマンタロウ』と共に戦う宇宙科学警備隊「ZAT」の所在地は千代田区霞ヶ関1丁目など、挙げればそれこそ切りがない。
富野監督はそれらの舞台設定が関東地方に集中する背景にある、制作者の姿勢を「過去の事例に縛られている」と指摘し、アムロの故郷を「山陰にしたのは、間違いなく富士山から(それ以外の地方へ)振った」のであり、そうした制作者への反論だったと語った。そして「過去に学ぶ必要はあるけれど、それをコピーしていたって、5年後は生きられない!」と強調した。
その言葉には、誕生から30年たった今もなお、新作が紡がれるガンダムの“生みの親”だからこそ言える、重みと説得力があった。それをアムロ生誕の地である鳥取で聞けたことは、僕らの大きな誇りである。
(フリーペーパー『西町文庫だよりVol.02』によせたエッセイより)
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