ショートネタ「不審者」
「すみません、この辺にコンビニってありませんか?」
知らない男の人に話しかけられた。
答えようと足を止めて振り返った瞬間後悔した。
人目の少ない路地。膝下まであるベージュのトレンチコートに眼鏡とマスク。フォーマルな恰好なのにカバンを持っていない。
おそらく露出狂だ。
優しそうな顔と声をしているが、狂気は見かけでわからない。
最悪だ。とにかく逃げよう。見せられたとしたらとにかくスルー。刺激だけはしてはいけない。
「すみません、わかりません。私急いでるので。」
最低限の言葉を発して歩き出す。とりあえず人目の多い場所に行こう。
「あの、もう一ついいですか?」
来る。直感が『逃げろ!』と言っている。
振り向かずに「急いでいるので」と独り言のように呟いて足を早める。
「僕、片親で育ちました」
は?後ろから同じ速度で付いてきながら話しかけてくる。
「あと、最近僕も離婚することになりました。そういう血なんですかね。」
「好きな女性のタイプは宮崎美子です」
「初恋の人に20回告白して20回振られました」
内面露出狂だ!
この人、物理的な恥部じゃなくて、精神的な恥部を晒すタイプの露出狂だ。
法で裁けないタイプの変態だ。
「25歳までずっと私服はしまむらでした」
「ピーマンが今でも食べられません」
「ぬいぐるみに見守ってもらわないと眠ることができません」
話を聞いてみると意外とかわいいやつなんじゃないか?
「ちなみに今はユニクロです」
「にんじんは去年やっと克服しました」
「ぬいぐるみは動物系ならなんでも大丈夫です」
ちょっとポジティブな情報混ぜんな。あとさっきから衣食住を1セットで提供してくるなよ。
「このコートはさっきユニクロで試着したまま出てきました」
「カラ出張を繰り返しています」
「こんなに何も言わず話を聞いてくれたのはあなたが、」
ちょうど交番に着いた。
「お巡りさん、この人色々話したいことがあるそうです。」
法で裁けるタイプの変態で助かった。
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