第3回「食べる」を取り戻す
なますinバインミー
目黒に来ている。
急に東南アジアのスコールのような強いにわか雨が降ってきて、雨宿りがてらバインミー屋に入った。
バインミーとは、フランスパンを使ったベトナムのサンドイッチだ。
ここ2、3年で流行りがあったようで、都内にこれを出す店が急に増えた。
これにはなますが入っている。
なますと言えば人口に膾炙(カイシャ)するの膾(なます)で有名だが、改めて調べてみたらここでの膾は細く切った生肉のことで、炙はあぶり肉らしい。
あれっ、酢の物の紅白なます(細く切っただいこんとにんじんのやつ)のことじゃないの…?
四字熟語になるくらい昔の人にとって紅白なますは美味しいものだったんだなあ、という話を書こうと思っていたんだが、そもそものなます像が異なるんじゃ話にならないや。
生まれて初めて紅白なますに出会ったのはいつだっただろうか。
僕は子どものころ紅白なますをいかにも老人くさい食べものだと思っていた。食べる機会は母方の祖父母の家に行ったときか、学校の給食のときくらいのものだったし、嫌いでもないが好きでもない位置にいた。
給食で出るものの中には妙に酸っぱいのもあって、そいつだけは好きになれなかったな。
さて、今日食べたのはチキンとレバーパテのバインミーだが、なますのおかげで肉の味がさっぱりと味わえて実に美味しかった。ほんの少し入っていたパクチーも香りが豊かではなやかな印象を食事に与えた。
固いフランスパンを、ベースに選んだのも発明だよな。香ばしく、具とパンが合わさってちょうど良い水分量になる。
後日。
時間があったので、家で紅白なますを作ってみた。
塩でもみこんで水分を出し、甘酢につけるだけなので簡単だ。
砂糖を切らしていたので、そのまま酢を使ったが出汁いり優しいお酢みたいなのを使ったのでいい感じになった。
せっかくなので牛モモ肉の切り落としを焼いて、焼肉の添え物として食べたが、さっぱりとしていて抜群にうまかった。
お試しあれ。