【新連載】「食べる」を取り戻す
療養中に、食が損なわれてしまい、実際に体重も減った。
それをきっかけとして、自分の今までの食べる記憶や経験、嗜好を掘り起こしていくことを目的に連載を始めることにした。
(とりあえず毎週火曜日更新)
ウーバーイーツ
療養期間は家から出られないので、生肉や生野菜が手に入らない。
それゆえ、レトルト以外の飯を食べられない。
この状況に風穴を開けるためにウーバーイーツを使ってみた。
肉が食べたかったので、肉丼やハンバーガーを頼んだ。
玄関に置いてもらい、手に取った時にはまだ温かくて驚いた。
それをひとり部屋で食べていると、どうにもむなしい感じがした。
ひとりで食べている、それ自体のさみしさもあるが、誰かがついさっき作ったものなのに、その人の存在が感じられないのがなんとも不思議だ。
療養期間が明け、近所の夫婦がやっている町中華に行ってみた。
元気のいいおかみさんに注文して、奥の厨房から主人の声と鍋を振る音が聞こえ、アツアツの料理が運ばれてくる。
この一連のふれあいに妙に感動してしまった。
自分が口に運ぶものから、それに関わった人の息づかいや人柄が伝わるってことは僕にとっては味以上に大事なことらしい。
ファミマの増量おにぎり
休みが明けて、仕事のお昼休み。
最寄りのファミマに行くと、一部商品の具を4割増しにするキャンペーンをやっていた。
対象商品の鮭おにぎりを買ってみた。
海苔が別になっておらず湿っているタイプのやつだ。
具を無理に詰め込んでいるので横に広がって奇形になっている。
ラグビーボールみたいだ。
自分の席に戻り、食べてみるとものすごい量の鮭が入っている。
何より印象的だったのが、あふれんばかりの鮭をおにぎりの形に押しとどめるために巻かれた海苔が、折り目のところで何重にも重なっていて全然嚙みきれなかったことだ。
パッケージを見ると千葉県の工場で作っているのが分かった。
パートのおばちゃんが「4割増量っていったっておさまらないわよ!」とワイワイ言いながら握っている映像が頭に浮かんだ。
千葉のパートのおばちゃん、ありがとう。
自分が食べるものをいきいきとさせるのは、自分の手元に届くまでにかかわった人に思いをはせる想像力かもな、と思った。