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【本の紹介・Third Place】「学校に行けない」……そんな日に読む本・マンガ12選(前編)
私はこれまで、数校の学校図書館に勤めてきましたが、学校という場所は、毎日元気に通うことができる人もいれば、そうでない人もいます。その理由は人によって様々で、私のごく身近なところにも不登校経験者がいます。
「あの子はなぜ学校に来ないのか」「学校には来ないのに外に遊びに出かけているのを見た」「たまに学校に登校してきても、どう接すればよいのか分からない」…… 元気な人たちはそう思うかもしれません。学校に通っている人も、多少なりとも、皆しんどい思いを我慢しながら頑張っているのですから、そう思うのも無理はないです。しかし、実際に不登校の渦中にいる人は、学校に行く、行かない、勉強をする、しない、どころか、生きるか死ぬかの瀬戸際、ということもあるのです。それは、一見元気そうに学校に通っている人の中にも言えることかもしれません……。
2025/01/29 読売新聞に「厚生労働省と警察庁は29日、2024年に自殺した全国の小中高生が前年より14人多い527人に上り、過去最多だったと発表した。」と掲載されました。専門家は「生きづらさを感じたり、人間関係に悩んだりする子どもが増えている」と警鐘を鳴らしています。
世間では不登校や起立性調節障害にも理解が進み、「無理してまで学校に行かなくてもいい」「学校以外にも居場所はある」とはいうものの、当事者にとって、学校に行こうと思っても、体が動かず、他の人たちが学校に通っている昼間に、自室にこもって過ごしているのは、大変孤独で不安なことでしょう。「学校へ行けない自分は、この先どうなるのだろう……」という漠然とした将来への不安をぬぐい去ることはできません。
それを見守る家族の心労も、周りにはあまり理解されませんが、相当なものです。
そんなときに「読書」は心を守る一助となります。そこで、前・中・後編の3回に分けて、おススメの本やマンガを紹介したいと思います。子どもを見守るご家族の方々や、学校教育に関わる方々、悩んでいる友達の気持ちを理解したい人にも是非読んでいただきたいものを集めました。
当事者には、いきなり「これ読めば?」と言うより、周りの人が先に読んで、「この本(マンガ)すごく面白かったよ」と紹介するか、目につきやすいところにそっと置いておくだけでも良いのではないでしょうか?本人が読まなくても別に構いません。
前編は、まずマンガから紹介を始めます。また前編の最後には、番外編として「仕事に行きたくない人に、今私がおススメしたい本」もご紹介します!思春期の悩みほどではないにしても、大人もしんどいときありますよね!
①棚園 正一 著『学校へ行けない僕と9人の先生 』(アクションコミックス)(双葉社・2015) 『学校へ行けなかった僕と9人の友だち』 (アクションコミックス)(双葉社・2021)
『学校へ行けない僕と9人の先生 』は、著者自身が、小〜中学校時代に不登校だった実体験を基に描いたコミック。学校へ行けない日々、8人の先生との出会いと別れ……そして9人目の先生とは…?そばに寄り添う家族の葛藤も描かれています。
主人公の「棚橋正知」少年は、著者自身の体験に基づいて描かれいるので、心情描写も的確で、学校に通うのが不安で負担になる子どもたちの心の中がとてもよく表れている作品です。主人公の進級に合わせて順番に登場する担任の先生は、それぞれに特徴があって、悪気はないのでしょうが、登校不安のある子どもや不登校への対応を間違っている人も多く、親身になって関わってくれる良い先生ほど体調を崩されてしまうことなども現実に良くあり、日々学校教育の一端を担っている者としても、本当に勉強になります。
『学校へ行けなかった僕と9人の友だち』は、『学校へ行けない僕と9人の先生 』の続編として、不登校の「その後」が描かれています。
鳥山明さんとの出会いを通して、「漫画を描く」という「自分の好きなこと」「打ち込めること」がより明確になった「棚橋正知」青年ですが、人と関わることは苦手なまま……。少ししか登校できなかった中学、専門学校のアニメーター科、自分には合わないと思って辞めた定時制高校、フリースクール、様々な居場所での経験と、そこで出会った人たちのことが語られます。「フツウ」じゃない自分に悩んでいた著者が、少しずつ漫画家への道を進み始め、「フツウ」って何だろう?という一つの終着点にたどり着くまで。
2025/01/20 読売新聞に漫画家・棚園正一さんの記事が出ていました。
鳥山明さんとの出会いが人生の転機になった棚園先生のように、不登校の状況にあっても、その人ごとに、何かがきっかけで、人生の先に小さな光が見えてくるような感覚が訪れる瞬間があるかもしれません。
ただ一つ注意したいのが、棚園先生のように、不登校体験を振り返って話をできている人は、学校サバイバーであるということ。これは以前の勤務校の職員研修で、「いじめ」に関する研修を受けた際に講師の方から聞いて、なるほどと思った考え方です。
実際に教育現場で働いている人たちの中にも、過去に自分自身がいじめや不登校を経験した人がいますが、それでも今、教育現場で働いているということは、その人なりにその経験を乗り越えたサバイバー(生き抜いた人、耐え抜いた人)なんです。棚園先生も『学校へ行けなかった僕と9人の友だち』の中で、自分が出席したある講演会の参加者アンケート用紙に「棚園さんは運が良かっただけ。」と書かれていたエピソードについて触れていらっしゃいますが、世の中には、ずっとその経験を乗り越えられていない人、外に出て声を出せていない人が多くいることを忘れないように、と言われて、はっとしたことを覚えています。
不登校から立ち直った人、その経験をバネに社会に貢献している人の話は、励みにはなりますが、渦中にいる人にとっては、時に負担になることもあるかと思いますので、それだけ付け加えておきます。
②ヨンチャン 漫画、竹村優作 原作『リエゾン』(講談社・2020)
厚生労働省の『平成28年 生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)』では、医師から発達障害と診断された者の数(本人・家族等からの回答に基づく推計値)は約48.1万人と推計されました。現在、日本で発達障害の傾向がある人は約10人に1人とも言われており、この数字は他国より圧倒的に多い結果です。
「リエゾン」は、不登校の事例も含め、学校や家庭でトラブルを抱えながらも、誰に相談して良いのか分からず、孤独や不安に苦しんでいる親子に寄り添う児童精神科医・佐山が主人公のマンガ。佐山のもとにやってきた研修医の遠野は、医師として子どもたちのために様々な事例に向き合い続けますが、すべてがうまくいくことばかりではなく、時には判断を誤ったり、解決できない事例も……。美談では終わらせない、現実の厳しさもリアルに描かれていて、胸に迫ります。
第1巻は「でこぼこ研修医のカルテ」「金の卵」「学校に行けない子ども」の3編を収録。現在単行本は19巻まで出ていますが、毎回とても興味深い内容で、全部読んでいます。タイトルの「リエゾン」は、フランス語の ”liaison” …「連携」「つなぐ」を意味するそうで、2023年にはドラマ化もされた話題作です。
③全国不登校新聞社 編集『学校に行きたくない君へ』(ポプラ社・2018) 『続 学校に行きたくない君へ 』(ポプラ社・2020)
不登校の当事者・経験者で構成されている全国不登校新聞社の編集部が、企画から取材までを担当し、様々な分野で活躍されている著名人に行ったインタビューをまとめた本です。例えば、俳優の田口トモロヲさんも、演出家の宮本亜門さんも、タレントの中川翔子さんも、みな不登校やひきこもりの経験者で、子どもたちが「不安に思う気持ち」を肯定し、共感してくれます。また、住職の玄侑宗久さんやラッパーの宇多丸さんが、不登校の子どもに寄り添う保護者に向けて述べているメッセージも心に響きます。
さらには、①で紹介した漫画家の棚園先生が、『学校に行きたくない君へ』シリーズを漫画化した本も出版されています。
棚園 正一著『マンガで読む 学校に行きたくない君へ: 不登校・いじめを経験した先輩たちが語る生き方のヒント』
④辻村 深月 著『かがみの孤城』(ポプラ社・2017)
ある出来事がきっかけで学校に行けなくなり、自分の部屋に閉じこもっていた中学1年生の安西こころ。ある日突然、部屋の鏡が光り始め、鏡の向こうに引き込まれた先には、狐の面をつけた女の子と、立派な門構えのお城が建っていた。そこにはこころと同じように「学校に行っていない」7人の子どもたちが集められていて……。
映画化、マンガ化され、大変有名になった小説で今更紹介するまでもない本ですが、私の身近で実際に学校に行けなくなった人が、部屋にこもってこの本を読み、読後に「この本、最近読んだ中で一番良かった。」と言った本で、今でも印象に残っています。その日のその人を救った「本の力」って、私はあるように思うんです。
コミック版も出版されていますので、マンガで読みたい人にはこちらがおススメです。
番外編 松田 いりの 著『ハイパーたいくつ』(河出書房新社・2024)
子どもが学校なら、大人は仕事。大人だって仕事に行きたくない日もありますよね。こちらは「仕事に行きたくない人に、今私がおススメしたい本」です。むしろ、今私が、すべての人におススメしたい本です。まだ2月ですが、「今年読んだ中で、最も面白かった本になりそうな本」といっても過言ではありません!
読めば、生きる勇気が湧いてきます。実際私も、毎日の仕事に行くのが少し嫌ではなくなりました。ぶっとんだ話で、実際にはありえないことの連続なのに、時々我に返るというか核心を突くセリフや文章が出てきます。私が特に気に入ったのは、次の2箇所。
・「あなたは自分に適していないことにだけ力を注ぎます。本当に生きるべき人生は土星に覆われています。」
・もう人に付き合うのは懲り懲りだと思った。
さぁ、どこに出てくるかは読んでからのお楽しみ。とにかく一刻も早く読んでいただきたい1冊。第61回文藝賞受賞作。
面白すぎて、松田いりのさんの他の作品を読みたくなり調べてみましたが、これがデビュー作なんでしょうか?見当たりませんでした。次回作も楽しみにしています。
以上、『「学校に行けない」……そんな日に読む本・マンガ10選(前編)』と、番外編「仕事に行きたくない人に、今私がおススメしたい本」でした。