スタバのアイスコーヒー
「スタバのコーヒー豆ってよく変わるんだよ。それが当たりの時と,はずれの時があって。」
蔦屋書店のスタバは混雑していて,オーダーしてから受け取るまで,結構時間があった。
コーヒーが体質的に飲めない私は,彼がコーヒーをよく飲むと知って,マスクの下で口をへの字に曲げた。
「ケーキの中だったら何が好き?」
彼の言葉に,さっき美味しそうだねって話したチーズケーキを思い出す。
「うーん,チーズケーキもすごく好きだけど,やっぱ一番はチョコケーキかな」
「えー?チョコー?,,,一番はショートケーキでしょ」
「え,チョコ,チーズ,ショートでしょ」
「いや,ショート,チーズ,チョコでしょー」
彼にも同じ想像をして欲しくなって,そのための質問をすることにした。
「ねえ,ショートケーキの上のイチゴっていつ食べる?」
「んー,最後かなー。え,いつ食べるの?」
「私はね,人にあげる」
「えっ?」
「ショートケーキの上の,いちごが苦手なの。だから,私と一緒にショートケーキ食べる人は,いちごもらえるんだよ」
誕生日。3日違いの誕生日。ねえもしいつか,いや,いつでもない君の妄想の中でも,一緒にケーキを食べられますか。
私はもう何回も彼とケーキを食べて,チョコケーキを食べた次の日にはニキビができて,ショートケーキを食べる時には決まって彼にあげて,カフェのショーケースの中からは高確率でチーズケーキを選んで。
ねえ,叶わなくていいから,想像でいいから,私とケーキを食べてくれますか。
そんなこと考えてたら,私の頼んだ桜のドリンクが出てきた。
「はずれだー」
コーヒーの味のことなんだろうが,なぜか落ち込みそうになった。
***
あれから3週間。彼のインスタに,アイスコーヒーとチーズケーキが載っている。
「スタバは時々コーヒー豆が変わるんだよ」
あの日のコーヒーを飲みたくなった。あの日,彼が飲んだアイスコーヒー。まだあの豆なんだろうか。まだ飲めるのだろうか。私はすぐに調べた。
日替わりだった。
スタバのコーヒー豆,日替わりなんだって。次に会ったら教えてあげよう。
きっとでも知ってるんだろうな。私は最近知ったけど,朝コーヒー飲んだら,その日はお得に飲めることも。やっぱチーズケーキだよねってことも。
でもね,教えてあげようと思う。
だって彼も教えてくれたもん。
「ライブハウスでワンドリンク買わされる理由知ってる?あれ,ライブハウスが飲食店扱いだからなんだって。あれ,これ君から聞いたやつだっけ」
私が教えたことを,目を輝かせて話す君に,うんうんって頷いた。
私が話したこと,覚えていてくれてありがとう。私が話したこと,こうやって誰かに話しているのかな。なんかさ,私といない時の君を見た気がして,私といない時の君の中に私がいるのを見た気がして,なんだか嬉しくなったんだ。
私はコーヒーの味とかわかんないけど,飲んだらお腹痛くなっちゃうけど,でも,でもあの日の味を,あの日のアイスコーヒーの味を知りたくて,知りたくなってしまって,あーあ。あーあ。これは通うしかないか。
通ってさ,当たり外れがわかるようになって,あっはずれだって思ったら,思ったらその時,その時にきっと君のことがまた少しわかる気がする。
わかる気がするんだ。
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