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痛みの奥にある愛とつながる。「ヒューマンテクノロジー」ワークショップレポート#3
2021年6月からスタートした「TSUNAGU FASHION LABORATORY」。「個人の心の在り方からファッションの世界を再生する」をテーマに、毎月多彩なナビゲーターによるワークショップを行っています。
今回は、ナビゲーターのヒューマンテクノロジー研究家・後藤志果さんが実施する第3回目のワークショップをレポートしました!
痛みに触れることへの恐れと向き合う
今回のテーマは「痛みの奥にある愛とつながる」。この言葉は、TSUNAGUのワークショップ講師である後藤志果さんが、以前のワークショップの中でも紹介された仏教学者・社会活動家のジョアンナ・メイシーさんから教えてもらったものだそう。
ジョアンナ・メイシーさんが伝えている、「つながりを取り戻すワーク」には、それぞれ「前に進む」、「感謝から始める」、「世界の痛みを大切にする」、「新しい目で見る」という4つのステージから構成されていると後藤さんは話します。
今回は、個々人の「痛み」やトラウマというデリケートな部分を見つめていくため、まず初めに痛みを感じること自体に対して「恐れ」はあるかを参加者とともにそれぞれ考えていきました。
ワークショップ時点での筆者自身は、心の痛みは過去の自分が感じていたことなので、今はその痛みに向き合うことに恐れはないと感じていました。また、そもそも「痛い」という心理的な感覚がよくわからないという気持ちがあったり、すでに忘れてしまった痛みをあえて今振り返って引き出す必要はないのではないか?…などなど、色々な思いが込み上げてきました。
人によって「痛み」に対する捉え方は様々ですが、後藤さんは「世界に対する痛みは冒険への呼びかけ」であり、「痛みは愛からのお知らせ」だと話します。そして大切なのは、ネガティブなイメージがある心の痛み自体に対する認識を変えていくことだといいます。
そうした、大きなエネルギーを持つ「痛み」に触れていくプロセスの中で、世界や自然界で起こっている出来事について自分自身が気にかかっていたり心を痛めていたりすること、そして地球規模の危機を抱える時代に生きる中で自分自身が辛いと思うことを、参加者それぞれが語り出していきました。
痛みの奥にある愛につながる
「真実の曼荼羅」というジョアンナ・メイシーさんのワークからヒントを得た後藤さんは、次に個々人が抱える4つのテンションを見つめていくワークを行いました。
悲しみ、怒り・憤り、恐れ、喪失感・虚しさ…。どれにも当てはまらない感情にも目を向けながら、自分自身は何に対してどんな感情を強く持っているのかを書き出していきます。
そして、そうした感情が教えてくれる、自分自身の中にある「命のエネルギー」のつながりを感じていきました。例えば、筆者自身は社会問題がなかなか解決しないことへのもどかしさや、社会全体に対して漠然とした「怒り」の感情があるのですが、それは「そこはなとない情熱があるから」こそ、今の自分のエネルギーとなっている。「悲しむ」のは、自分が何かを愛しているからこそ嘆きが生まれているからであり、「喪失感や虚しさ」があることで、空っぽだからこそ新しい何かが生まれる兆しになっているなど、ネガティブな感情に対しての認識を自分自身が前進するエネルギーへと変えていきます。
このように、痛みに対しての認識を変えるということはとても大切だと筆者自身も感じました。痛みは、自分の中で大切なことが満たされていないという「知らせ」であり、その大切なものが何かに気づくための道標だという後藤さんの言葉も印象的でした。
同時に、「痛みを感じないようにすることは 真の自分らしさを 手放すことでもある」という言葉も、筆者自身の心に響きました。痛いと感じなかったら ケアしようとする行動が自分の中から出てきませんが、 痛いと感じるからこそ 自分たちから治癒の行動が湧き上がってくる。つまり、痛みそのものを感じることが 問題なのではなく、 痛みを抑圧していることが問題 なのだと後藤さんは話します。
忙しい日常生活の中で、自分自身の心の動きに敏感に耳を傾け続けるのはなかなか難しい。だからこそ、時に筆者自身も「痛み」に蓋をしてしまうことがありました。ですが、あえて痛みを感じようとすることで、後藤さんが話したように治癒の力が自ずと現れ、痛みが解放されるのだと思いました。
自己を拡大し、世界の痛みとつながる
近年、気候変動をはじめとした環境問題や社会問題の解決に向けて様々な取り組みがある中で、自ずと「社会のため」、「地球のため」といった他者のために尽くす気持ちが生まれていくのではないでしょうか。
自分と他者 を分けて思考する段階だと「自分のため」と「他者のため」 がはっきり分かれていますが、自己の意識が拡大し始めると 「自分のため」の枠が変わっていき、 自分の幸福が他者や自然環境の幸福とイコールになっていくと後藤さんは話します。そして、 環境活動も社会活動も、 自分自身を再生するための幸福活動となる 。これは、世界の癒しと個人の癒しは同時に起こり、自分自身の変容と社会の変容の両者は分離せずにつながっていることだと後藤さんは言います。
「愛」とともに、自己の深層部分に触れる
痛みや恐れといったものは一見自分にしか見えない部分で、自分だけのものだと思いがちになりますよね。だけど、参加者の皆さんと一つ一つ丁寧に共有することで、「ネガティブな感情って私だけが抱えているものではないんだ!」と、勇気づけられました。
そして、自分の深層部分に触れていくプロセスは未知の領域に踏み入れていく感覚もあって不安な気持ちになりますが、「もっと自分を知りたい、そして行動を起こしたい」という好奇心や探究心がそのプロセスを後押ししてくれると思いました。
そんなポジティブなエネルギーを自分の中で感じながら、筆者自身も自己・社会・世界の探究を続けていきたいと思います!