奄美大島の伝統を繋ぐ。染織家・デザイナー 橋本真智子さん

先日、世界自然遺産に登録された鹿児島県の奄美大島。奄美大島には、泥染めや大島紬など伝統文化が今も継承されています。今回は、奄美大島で泥染めや大島紬、琉球藍染めを用いて自身で染色し、着物や洋服を製作する「Lapin Noir」の染色家・デザイナーの橋本真智子さんを取材しました。

奄美大島の土地が生み出す、豊かな技術

奄美大島で育まれてきた絹織物・大島紬。泥染めと平織の技術で織り上げられた大島紬は、長い歴史を持つ日本の伝統工芸です。

こちらの着物は、橋本さんが大島紬を藍と泥染めの臈纈（ろうけつ）で染めたもので、帯は馬革で絞りを入れた泥染めが施されています。金沢で金箔押しを施し、「月光」のイメージで仕上げられた作品だそう。見る角度によって様々な魅力を放つデザインと色感です。

もともとファッションが好きだった橋本さんは、1970年代に「KENZO」（1970年に高田賢三氏が始めたファッションブランド）の洋服に惹かれ、フランスへ。パリで「KENZO」のアトリエで働き、コレクションの準備も手がけたといいます。

今まで誰もやらなかったことに挑戦し、オートクチュールのショーだけではなく店頭販売など様々な取り組みに尽力するブランドの姿を見て、橋本さんはインスパイアされたと言います。

着物を通して生まれた、奄美大島との出会い

5年ほどアトリエで働いた後帰国した橋本さんは、着物の”つまらない”イメージを覆す池田重子さん（着物デザイナー・コレクター）のコーディネートに出会ったことで、着物文化に対する興味が湧いたといいます。

橋本さん：池田さんのコーディネートは、KENZOに出会った時と同じくらいの衝撃でした。私も着付けを習って着られるようにしたいなと思いましたね。

その後、着付けを習っていた学校で実施していた産地見学を通して奄美大島に訪問した橋本さん。14年前に初めて奄美大島へ降り立った際は、その土地に帰ってきた感覚があったといいます。

そして、現地で大島紬や泥染めに出会い、橋本さんはとても感銘を受けたそうです。

橋本さん：見た目の美しさだけでなく、手間暇かけて織り上げていく職人の魂を感じました。琉球藍染めの工房にも訪問したのですが、とても綺麗に染められたストールを見て、感動して涙が出てきて。こうした技術の継承のために何かやりたい気持ちになりました。

大島紬には30以上の工程があり、1日に数センチほどしか織ることができないそう。こうした大島紬の丁寧に作り込んでいく世界に触れた橋本さんは、今までデザイナーとして活動してきた経験を生かし、大島紬や泥染め、琉球藍染めを用いた作品の制作を始めました。

橋本さん：活動を始めた当初は、大島紬などの伝統技術を知らない方もいたのですが、こうした文化があるということを伝えていくと心動かす方が多いなと感じます。伝統の持つ「本物」のエネルギーは、人を動かすと思いますね。

橋本さんは、流行を意識せず、私たちが日常的に着られる”生きている”ものを作っていきたいといいます。

日常に根ざした伝統文化を目指して

近年、職人の高齢化や後継者不足などにより、伝統文化の継承における課題がますます色濃くなっていると筆者自身も感じています。橋本さん自身も、奄美大島の伝統継承について危惧されていました。

橋本さん：30年前は、道を歩いていると泥染めをするための田んぼを目にしたり、織りの音がよく聞こえていたらしいですが、今はなくなってしまっているそうです。奄美大島は、「文化継承」という価値観が根底から培われている土地だと感じます。だからこそ、日本の大切なものが残っている縮図とも言えるのではないでしょうか。

今後、橋本さんはブランドを通して、奄美大島だけではなく様々な土地の伝統文化にも注目していきたいと話します。

橋本さん：伝統文化や、楽しんで作っている職人さんたちを繋いでいきたいですね。現在、2023年の夏に奄美大島で開催予定のアイヌ文化と奄美大島の文化のコラボレーション企画をしています。パリや奄美大島もそうでしたが、これからも自分が好きな場所で好きなことをし続けたいですね。

9月には、埼玉・北浦和のギャラリー「日々」にてLapin Noirの展示会が開催されます。ぜひ、橋本さんの世界観を体感されてみてくださいね✨

日時：9/23(木) 〜 29(火) 11時〜18時 ※9/26(日)はお休み
場所：「日々」
〒330-0074 埼玉県さいたま市浦和区北浦和1-14-13（JR京浜東北線「北浦和駅東口」徒歩5分）

橋本さんのブランド「Lapin Noir」については、こちらのアカウントから♪

☆「Lapin Noir」Instagramアカウント：https://www.instagram.com/lapinnoir5910/