オバマさんの本「A Promised Land」を読んで森発言を考えた
元首相の森JOC会長の女性蔑視発言が批判をあびています。オバマさんの本を読んでいて、ふと、昔の森さんの記憶がよみがえったので、つらつら書いてみます。
とても読めなかった日経新聞「私の履歴書」
日本に住んでいた頃は、日経新聞を購読していました。1番のお気に入りは「私の履歴書」のコーナー。各界の著名人が、出生から現在までの半生をつ綴る連載で、1人につき1ヶ月間続きます。
今思い出しても、面白かったなぁ、と記憶に残るのはジャパネットたかた創業者の高田明さん。そしてぶっ飛びのニトリ創業者の似鳥昭雄さん、カレーハウスCoCo壱番屋の宗次徳二さんと物理学者の米沢富美子さん。
存命中の著名人の半生から、ビジネスや政治の裏側などを窺い知ることができました。長い主婦生活で、社会との接点が少なかったですし、8年前に始めた英語教室は自宅で一人で教えていました。だから尚のこと刺激を欲していたんだと思います。
ほとんどの連載が、戦中戦後の荒波時代を通して語られます。食べることにも苦労した人、家族を若くして亡くしたり、結核で死にかけたり、学校にもいけなかった人もいる。苦難を通して今がある、そんなそうそうたる銘々の足跡をなぞれるのは、朝のひと時の楽しみでした。
見えない「信念」「思想」
そんな熱心な読者の私が、読む意欲が失せた数少ないシリーズがあります。それが、当の森さんの連載でした。
なんでか、というとですね。純粋に、面白くなかったんです!
ただただ、彼の「した事」が順になぞられていきます。心を動かされたり、想像を広げたり、という余地がなかったように覚えています。しばらくは根気で読みましたが、そんな必要もない、と気づいてやめました。
自分にとって興味を感じないものは世の中にいっぱいある。
それはそれでいいんです。
でも、森さんは近所のおじさんではないわけですから、大問題です。
なんで面白くないか、というと思想やバックボーン、哲学、理念といったものが垣間見れなかったからだなぁと思います。私たち人間って、「意味」を見出したい生き物ですよね。
オバマさんの「A Promised Land」
オバマ大統領の本「A Promised Land 」の序盤に、大統領選挙に打って出るか否かを決めるミーティングの場面があります。
オバマ氏以外にも、ヒラリーのように有能で大統領職に適任な人がいる、という会話が続きます。そこで、出馬するのを反対していたミシェルさんは、こう彼に質問を投げかけます。
“So my question is why you, Barack? Why do you need to be president?”
「私の質問はこれよ。なぜあなたでなくてはいけないの?なぜあなたが大統領になる必要があるのかしら?」
しばらく考えて答えたオバマさんの答えがこれでした。
”There’s no guarantee we can pull it off. Here’s one thing I know for sure, though. I know that the day I raise my right hand and take the oath to be president of the United States, the world will start looking at America differently.
I know that kids all around this country— Black kids, Hispanic kids, kids who don’t fit in — they’ll see themselves differently, too, their horizons lifted, their possibilities expanded. And that alone… that would be worth it.”
「僕らが勝てるとは限らない。でも確かなことが一つある。それは僕が右手を掲げ、大統領の宣誓を述べたら、世界のアメリカを見る目が変わる、ということだ。
黒人やヒスパニック、そして溶け込めないでいる国中の子供たちが、自分自身を違う目で見れるようになる。彼らの視野や可能性は広がるだろう。たとえそのためだけだとしても、挑戦する価値があると思う。」
この言葉を聞いて、初の黒人大統領誕生を思い描き、部屋は静まりかえります。微笑む人、涙を浮かべる人。
“Well, honey, that was a pretty good answer.”
「かなりいい回答だったわね、」というミシェルさんのコメントにチーム・オバマの面々は笑い、仕事に取り掛かりました。この時のミシェルさんへの返答が、チームオバマを結束する象徴的な場面だった、と後々メンバーたちは振り返ることになります。
人々を動かすもの
ホワイトハウスフォトグラファーとして、八年間オバマ大統領を追い続けたピート・スーザさんの写真の中でも特筆すべきものに、オーバルオフィスで大統領の頭を触る小さな男の子の写真があります。
この一瞬にオバマさんの全てが切り取られている、と言われています。彼の言葉と行動が、「僕も私も大統領と変わらない同じ人間だ」「信じれば叶う」と希望を与えているからです。
この場面の少年は、帰り際にオバマさんに
"I want to know if your hair is like mine."
「僕の髪の毛と同じか知りたいんだよね。」とささやきます。友達が、二人の髪型が似ている、と言ったことがきっかけだそうです。
最初はあまりにも小さい声だったので、オバマさんは聞き直したそうです。その後、こう話しかけます。
"Why don't you touch it and see for yourself?"
「触って確かめてごらん。」そう言って頭を下げる大統領。躊躇する男の子に再度、"Touch it, dude!"と言った後の光景がこの写真です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Hair_Like_Mine
本の中では、オバマ大統領の就任後、都会の貧しい地域の子供たちが一生懸命に勉強するようになった、と連絡してくれた学校の先生もいた、と記述されており、胸が熱くなりました。
ありのままが露出
今回の森さんの発言は失言ではありません。彼の思想のありのままだと思います。
批判を浴びた後の、言葉が上滑りする、場を取り繕うだけの謝罪は悲しいものです。女性や女の子、弱い立場にいる人々をどんなに傷つけているか、翼をもぎ取っているか、いまだに気づいていないからです。
何十年と人々の上に立ち、スポットライトを浴びて発言してきた人物として、とても残念です。「オリンピックという箱を持ってくればなんとかなるだろう」という浅はかさにずっと前から国民は気づいています。
見直すべきは、こういった人物が一国のリーダーとなれる環境、JOCのトップとして居座れるシステムです。そういう意味では、ジェンダーギャップ指数が世界121位の日本という国を改めて見直す機会になりました。振り子が大きくふれることを期待します。
ミッションと共に生きるリーダーを求む
私が願うのは、自分の言葉や行動が、人々を勇気づけ、可能性を広げる、と信じて行動するリーダーです。
パンデミックで先行きが見えない今、リーダーには行動だけでなく、思想と哲学が必要です。具体的なプランと人々をまとめる力のある言葉を投げかけられるリーダーを求めたい!
英語の教師として橋渡しができるとすれば、自分の使命を具現化している世界の人々の言葉をつなげること。英語の学習だけに落とし込まず、背景にある思想と文化を自分なりに咀嚼して伝え続けることだと思います。
企業の経営者や政治家に限らず、指導者も、ミッションやプリンシプルに立ち戻ることの大切さを感じています。
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お読みいただきありがとうございました。