
僕はいかにして禁煙したか
僕は禁煙成功者である。
禁煙したいがどうしてもやめられないという人に、体験談を伝えたい。
回想シーンを含むために少しだけ長くなるが、禁煙の秘訣を伝えたい。
タバコを吸い始めるきっかけは人それぞれだと思うが、僕が青春時代を過ごした80~90年代は、洋画や洋楽に登場する俳優やロックスターへの強い憧れがきっかけのひとつであったと思う。
僕のお気に入りはマルボロやラッキーストライクなどのいわゆるザ・洋モクと、くすんだゴールドのZippoだった。スクリーンや雑誌の向こうのスターの真似をして、それがそのまま習慣になってしまった感じだ。
お気に入りのゴールドのZippoは、若いころに付き合っていた彼女がアメリカ旅行に行ったときにおみやげで買ってもらったもの。
どうやらボトム刻印が通常のものと左右逆向きだということに気づき、アメリカみやげだし、超レアもののはずだと信じていた。周囲の友人にはニセモノだとか罵られたこともあったけど、超レアで貴重なZippoなのだと信じていた。
しばらくしてレアでもニセモノでもないなんの変哲もない普通のZippoなのだと知ることになるのだが。
20代のころ、僕は毎週のように出張で日本全国を回っていた。
その影響もあり、僕は日本の47都道府県すべてに行ったことがある。
出張の楽しみは夜。現地の料理と酒だった。今までで一番のお気に入りは…まあその話はいい。
出張の新幹線も飛行機も、もちろん喫煙席。
お気に入りのZippoと洋モクをいつもジャケットの内ポケットに入れていた。
しかし、たしか2000年前後だったと思うが、喫煙者を取り巻く環境に変化が現れ始めた。
夜遅くは自販機でタバコが買えない
自販機でタバコを買うにはなんかカードを作らないといけない
居酒屋でタバコが買えない
居酒屋でタバコが吸えない
タクシーでタバコが吸えない
新幹線や飛行機でタバコが吸えない
タバコを吸える場所が見つからない
なんだこれは。
日頃の仕事のストレスを軽減してくれるはずのタバコが、喫煙を制限され始めたせいでストレスの根源に姿を変えてきた。
出張の日に家を出てから帰宅するまで、一本も吸えなかったなんて日もしばしば。好きな出張に行くことすらストレスになってきた。
でもなんとか網をかいくぐりながらタバコを吸い続けていた。
ある大雨の日、車を運転していて大渋滞にはまった。
渋滞のストレスもありタバコの本数が増える。
吸っても吸っても車は進まない。
雨のせいで窓が開けられない。
車内がひどく煙い。エアコンが臭い。よけいにストレスがたまる。
そしてついにタバコがなくなった。でも買いに行くこともできない。
渋滞が終わる気配もない。
赤いテールランプのかたまりがストレスを助長する。
大渋滞の中、ふとあることに気づいた。
最近の自分のストレスはすべてタバコから来ているのではないか。もしタバコを吸っていなかったら、このストレスは存在しないのではないか。と。
そう考えると、目の前のZippoがとてつもなく憎いものに見えてきた。このストレスはお前のせいだと。
そこからわずか5秒。僕は禁煙することを決心し、あんなに気に入っていたZippoを車の窓から勢いよく投げ捨てた。
後悔なんてない。僕は禁煙する。タバコを取り巻くストレスから解放されるのだ。これからは非喫煙者として生きていくのだと強く決心した。
その運命の日から約2年後、僕は完全に禁煙することに成功した。
もう毎日、吸ったり吸わなかったりの繰り返し。
そんなにすぐはやめられない。やめられるはずがない。
人間、大切なZippoを捨てるぐらいじゃ禁煙できない。
最後は気合いです。