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冒険の旅

ドラゴンクエスト。
もはや説明不要の大人気ゲーム。説明が必要な場合は自分で調べてほしい。

子供のころ、僕ももれなくどハマりした。僕は普段ゲームをしないが、ドラクエだけは特別。これまですべてのシリーズをプレイした。
あのオープニング画面と曲が始まればたちまち数十年前にタイムスリップし、あのころ感じた冒険の旅の高揚感が蘇ってくる。

そして今、小学生の息子がドラクエにはまっている。
昨年発売されたドラクエ3のリメイク版で、目をキラキラさせながら毎日のように冒険の旅に出ている。

息子のベッドの枕元にはドラクエモンスターのフィギュアが並ぶ。スライム、メタルスライム、はぐれメタル、スライムナイト。好きなものに囲まれて寝るって幸せだと思う。

息子の一番のお気に入りは勇者の証。五百円玉よりひと回りかふた回りぐらい大きく、ずっしりと重みのある金属でできている。

勇者の証

勇者の証は、選ばれし真の勇者のみが手に入れられる、ドラクエのストーリーにおいて大変重要な役割を担うアイテムである。説明が必要な場合は自分で調べてほしい。

秋葉原のドラクエグッズの店で手に入れてから、息子はこれを手放さなくなった。寝るときもいつも手に握っている。よほど気に入ったんだろう。見ていて微笑ましい。

でも、学校に持っていくのは禁止。学校のルールだから。
お風呂に持ち込むのも禁止。錆びるから。

ある日仕事を終えて家に帰ると、息子が泣いていた。

勇者の証をどこかでなくしてしまったと。ポケットに入れておいたはずなのに、ベッドに持っていこうと思ったらどこにもないと。カバンの中も机の中も探したけれど見つからないと。向かいのホームにも路地裏の窓にも桜木町にもないと。

「公園の茂みの中か、学校の教室か、通学路に落ちてると思う。明日、明るくなったら探しに行く」

後半2つは約束違反の気がするけどまあいい。とにかく今日はもう遅いから寝なさいと息子をなだめた。

やがて息子が寝たあと、僕はこっそりと懐中電灯を持って公園に向かった。
やたらと風が強い夜で、びっくりするぐらい寒くてびっくりしたが、息子のためにと歯を食いしばって探し回った。まるで冒険の旅だ。

昨今、物騒なニュースが多い。暗い夜の公園は安全とは言えない。
真っ暗な茂みの中に足を踏み入れながら、もし不審者がいたらどうしようと心配したが、どちらかというと今は自分が不審者だ。むしろ通報される心配をしたほうがいい。

警察に声をかけられたらなんて答えよう。
「勇者の証を探しているんです」と答えれば事の重大さが伝わるだろうか。でもその人がドラクエを知らなかったら説明が必要になってしまう。ドラクエのことは自分で調べてほしい。

びっくりするほどの寒空の中、1時間ほど探したが残念ながら勇者の証は見つからなかった。まあそりゃそうか。あんなに広い公園の中で、しかも真っ暗な夜に、あんなに小さなものを見つけ出すなんて無理に決まってる。

息子のためにも、なんとか見つけたかった。
朝起きてきた息子に「ジャジャ〜ン!」と見せて驚かせてやりたかった。
息子のよろこぶ顔が見たかった。泣いてよろこんだだろうな。

失意の中、かじかんだ手をこすりながら家に帰ると、息子が起きていた。
起こさないように忍び足で歩いたつもりなのに。起こしちゃった。ごめん。

悲しくて悲しくて眠れないんだろうか。
かわいそうに。もう一度寝かしつけてやろう。

すると。

「ジャジャ〜ン!ベッドの枕元にありました〜!」
弾けるような笑顔で勇者の証を高々と掲げた。

「帰ってきてすぐに枕元に置いたの忘れてたみたい。なくしちゃったかと思ったよ〜。あーよかった〜。あれ?お父さんどこか行ってたの?」

えっと、ちょっと、冒険の旅。

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