見出し画像

中学受験で避けるべき3つの戦略ミス:その2

忘れもしない長男くんの受験真っただ中、2月3日の朝、受験校に送り出した後、家に一度戻ってからのことです。
私と妻は目の前にある現実を直視できませんでした。

「残念ながら不合格となりました」
その結果を見た瞬間から、しばらく無言の二人。一切の会話もなし。
もうそこから4日の午前中までは、表現しようがない落胆が私たち家族を覆っていました。
今思い出しても、2月3日に長男くんが受けた「最後の本命校」の試験結果を4日の朝に見るまでの、あの24時間のドラマは私の人生史上、一番ストレスがかかった時でした。

========================

前回は、私自身の2回の伴走経験から中学受験で絶対に避けるべき戦略ミスの3つを紹介し、その1つ目の解説をしました。
私が犯した3つの戦略ミスとは:

  • 戦略ミス その1:志望校選びの方針の食い違い

  • 戦略ミス その2:2月2日までの受験校選び

  • 戦略ミス その3:秋に受験校の修正をしなかった怠慢

そして、今日はシリーズの2回目「2月2日までの受験校選び」について語ります。


1. 戦略ミス:2月2日までの受験校選びの失敗

2月3日には、2日までの受験結果がすべて出揃います。
長男くんの時、その時点では本命校2つに不合格。
2月1日の午後に受けた「安全校」の合格一つ、1月中に受験した埼玉と千葉の学校1校ずつ、という状態でした。

本来であれば、「ここに合格できているから大丈夫だよね!思いっきりあとは頑張ってこい!」とならなきゃいけないはずなのですが、我が家はそうはなりませんでした。

2月2日までの受験校のシナリオを深く考えてこなかったこと、これが2つ目の大きな戦略ミスでした。
ここは前倒しでしっかり準備して考えるべきだったと、今でも後悔しています。この準備には2つの意味があります。
一つは心の準備。もう一つは行動面の準備です。

どういうことか、お話ししますね。
不合格を見た瞬間、世界がグニャって歪んだような感じが襲ってきました。まず現実に引っ張られる、ものすごい力を心で感じたのです。
そして次に襲ってきたのは、激しい後悔の念です。後頭部に表現しようのないイヤ~な異物感がずっとへばりついている感じ。

「もっと準備しなきゃいけなかった。もし3日の試験が不合格だったらどうしよう?4日以降のシナリオは考えてないから、今から学校を探さなきゃ。でも動揺していて、何も考えられない。全く準備できていないから、過去問の相性も分からないし、出たとこ勝負になってしまう。塾にこれだけ通って学校生活犠牲にして頑張って、望まないこの結果って…この約3年半は無意味だったんじゃない?自分の準備不足で長男くんの人生を台無しにした?妻のメンタルも悪くした?これって自分のせいだよね?」

こんな思いがグルグルまわりました。親としては本当に情けないですよね。ただこれが、ウソ偽りのない実体験です。本当にキツい経験で、今思い出すだけでも鳥肌が立ちます。

やはり現実は厳しい。確率でいえば、偏差値どおりになるものです。それはそうです。偏差値はそもそも実績データの統計的な処理から生み出された数字ですから。特に偏差値60を超える上位校になればなるほど、偏差値どおりの傾向が強いという実感があります。

結局上位層は学力的に安定しているので、ケアレスミスが少なく取りこぼしがありません。だから応用問題の出来不出来で決まる、という、思考力勝負でガチ上位勢に追いつくのは、短期間ではかなり無理筋になるのです。実際に上位層の逆転は、偏差値40台~50台前半のいわゆる「ボリュームゾーン」の逆転よりも難易度がはるかに高い、ということも、二人の子どもの受験を通じて私が直接感じたことです。

ここでの教訓は、心の準備ができていなかったから、結果次第で動くシナリオを事前に考えてプランをできていなった、ということ。つまり、大きなショックを受けた心理状態で、まともな判断で学校選びの準備ができずに、行動の準備がおろそかになっていました。

あの時の私たちには、心の準備、メンタル面での事前準備が必要でした。

2. どうしてこのような状況が起こってしまったのか?

我が家は「ここに息子が通学しても良いな」と思えるように、持ち偏差値から見て合格を十分に見込める、かつ「納得して」長男くんをあずけても良いと思う学校を見つけて来ませんでした。正確には、見つける努力をしてきませんでした。どうして、そのような準備とそれを支えるメンタルを持てなかったのでしょうか?

理由はいくつかの要素が複合的に絡んでいます。
まず理由の一つが、圧倒的な想像力の欠如です。
私は不合格だった時に自分たちがどうなるか、十分に想像力を働かせることができませんでした。思い通りにいかなったケースの想像力が圧倒的に足りなかったのです。模試の偏差値的には不合格の確率の方が高かったにもかかわらずです。冷静さを失って「親の狂気」を発動です。

初めての子どもの受験、ご家庭の中では最初で最後の受験、という方もいらっしゃると思います。一度きりだからこそ失敗したくないし、子どもの落胆する姿は誰だって見たくありません。

でも、初めての経験だからこそ、想像もできないのです。
特に落ちたときの親の落胆が。そう、子どもではなくて親自身なのです。一番メンタルを気をつけなければいけないのが。

我が家の場合、長男くんの時、2月3日は一日中妻は寝込み、私は前述したような無限ループの後悔をしていました。

そして十分な準備ができなかったもう一つの理由が、「高い偏差値=良い学校」という固定概念に憑りつかれていたことです。
だから私は、長男くんが幸せに通えそうな学校、という視点で、偏差値に囚われない学校選びの検討を真剣にしなかったのです。
逆にここまでの偏差値の学校に入れなかったら受験は失敗、という決めつけで受験日まで突入してしまいました。

この偏差値という魔物、親が狂気をはらむ代物です。だって学校の序列がついてますからね。無意識にでも比較してしまうのです。
偏差値の本当に意味合いは、あくまで「受験タイミングという瞬間風速で、4科目のそれも限られた範囲についての能力を測るひとつの物差し」という話なのですが、それが優れた学校の評価基準の全てだと勘違いしてしまうのです。

これ、学歴の高いご家族ほどおちいる危ない橋だと思っています。無意識のプライドが作用する視野狭窄(しやきょうさく)のようなものでしょう。親のプライドが、偏差値を学校の評価基準として絶対的なものにしてしまう危険性を認識したいものです。

そして3つめの理由は、子どもへの過剰な期待と覚醒への妄想、です。
この親の強い思いが、受験本番時に何が起こりうるかの想像力の妨げになりました。

私も心のどこかで、長男くんが最後は捲って逆転合格するのではないか、という希望を持ち続けていました。

親は子どもに希望を託しがちです。それが親として自然な感情です。親はこどもが活躍する姿を想像します。どこかで最後には何とかなるんじゃないか、って思っていたりしませんか?自分の子どもは、いつかは覚醒して受験本番ではこれまでにない力を発揮して合格するんじゃないか、と。

志望校に合格するために、「課金ゲーム」と揶揄される追加的な個別指導などの対策勉強に、最後の最後までお金をつぎ込んでいたら、なおさら思いは強くなります。

だから最初の理由にもどりますが、エネルギーを注いだ分、思い通りにならないシナリオを想像するのが難しいのです。まして、落ちたときのどん底に引っ張られる重力の強さなんて、最初から想像すらできません。現実に経験した者にしかわからないのです。

現実的に逆転合格はありますし、期待と希望は持ち続けて諦めないことは大事です。でも親だからこそ冷静に、後述する事前準備が極めて大事なのです。

救いだったのは、息子が親よりもずっとタフで、最後まであきらめずにラストチャンスで実力を出すことができた、ということでした。

3. この失敗を避けるためにできること

親子で一所懸命に頑張ってきたご家庭ほど、疲弊してきたご家庭ほど、そのプレッシャーが強いはずです。だからこそ2日までに家族で納得できる学校の受験日程を確保することが、家族が幸せに中学受験を乗り切るためには重要です。私見では最も重要な戦略だと位置づけています。

娘ちゃんの受験では、2月2日までに「家族で納得の合格」を獲得することに、我が家の受験校戦略を集中させました。おかげで、家族にとって満足のいく形でハッピーに受験を終えることができした。

そのためには3つのポイントがあります。

まず一つは、悪いシナリオが起こった場合にどうなるか、想像力を働かせることです。良いマネージャーは「最悪の状況を想定して準備する」といわれています。常に代替プラン、いわゆるプランBをあらかじめ想定して用意しておくのです。事前の準備で、必要な時に迅速に対応することができます。

納得の行く合格がない状況での3日以降の受験は、そのプレッシャーが親の想像をはるかに超えるものです。そして4日・5日と残り日程がない状況で、気持ち的にはどんどん追い込まれます。

一方で冷静に考えれば、1日と2日で思い通りの合格を得た受験生の中では3日以降は受けない層がかなり出てきます。ですから、応募人数に比べれば実際に受験者は相当に減り、見た目の倍率ほどの競争にはなりません。結局は模試の偏差値相応に落ち着く、とも言えます。

ただここまで上手くいってチャレンジしてくる層、思い通りいかなくて目標を下げてくる層、色々な状況と心理状態の受験生が集まるのが、2月3日以降の受験です。

合格を持っていて気合十分にくる子と、合格がなくて自分の実力をこれまでに出し切れずにプレッシャーがかかっている子、まだ1日の結果が出ていない子も中にはいます。そして学校数も限られてきますから、やはり1日2日より倍率が相当に高くなるというのが現状です。つまり、予測困難な勝負にもなるわけです。

ここが親にとって、心理的に大きな不安なのです。偏差値的にはOK、でもこれだけの人たちが受けるのに合格者の枠は少ない…
果たして我が子はその競争を突破できるのだろうか?ちょっとミスしたら、力負けもあり得るのではないか?
様々な不安とネガティブな考えがよぎります。

それを本番直前ではなく、今から想像して準備するのです。そして春から初秋にかけてできるだけ沢山の学校を実際に訪れて肌身で感じ、受験候補となる学校を見つける努力を継続することがお勧めです。その中にきっと、お子さまが楽しく学校に通われてお友達と充実した学生生活を送ることが想像できる学校に出会えるはずです。

そして2つ目は、「高い偏差値=良い学校」という固定概念=「偏差値の魔物」から逃れること。私立中学校はそれぞれの教育方針に沿って、素晴らしい設備と教育環境を提供しているところが本当に多いです。説明会に沢山行けば、我が子の教育方針に合った素敵な学校に出会える確率も高くなります。その学校は、偏差値に関係なく家族で納得してお子様を託しても良い、と思える学校になります。
この心理的な準備が肝心です。この納得感が、現実の受験で心理的にも学力的も余裕を持った受験戦略を可能にします。そういう学校の受験を、2月2日までに組み込む、これが失敗を防ぐ受験戦略のポイントです。

3つ目は、お子さまの実力を見極めて冷静に複数の受験校シナリオを考えることです。受験本番が近くなると、親も冷静さを保つのが難しくなります。だからこそ早いうちに考えられるだけパターンを考えるのです。

うちは娘ちゃんの時に、最終的には5パターンくらい作りました。1日の結果次第で2日以降に分岐するシナリオです。これが精神的な安定につながりました。パターンにしておけば、志望校が不合格になった後のシナリオで何も考えずに動くことができます。そのシナリオを想定した過去問も何回か解いていますので、相性も問題傾向もある程度把握をしています。心の準備と行動の準備ができて、本番に臨むことができるのです。

4.まとめ

まとめますと、もし偏差値という固定概念がご自身の思考を支配している、と感じたら、そこから一旦逃れる努力をして、偏差値に関係なく納得できる学校を一校でも多く探すことをお勧めします。

時間がある夏前の時期から十分な検討の時間をとり、偏差値に関係なく心から子どもを託してもよい、と思う学校を親自身が見つけるように行動する。気持ちの整理をして、複数の受験シナリオに着手して欲しいな、と思います。

その入念な受験校選びと気持ちを整える準備をしないと、上手くいかなかったとき、心の支えにならない合格だけが手元に残る、あるいは全敗、という結果に虚しさが募ることになってしまいます。

我が家が5年前に味わったような苦い思いをしないですむように、各ご家庭がお子さまに合った学校・ご家族の方針に沿った学校を発見できることを願っています。


いいなと思ったら応援しよう!