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中学受験で避けるべき3つの戦略ミス:その3

秋には模試が毎月のようにあります。SAPIXオープン、四谷大塚の合不合判定テスト、日能研の合格判定テスト、首都模試の合判模試、それ以外にも志望校判定テストなど、6年生の受験生の方はほぼどれかの模試を秋以降に毎月受けることになります。

テストのたびに、我が家はとても不穏な空気に包まれました。父である私が算数を採点をして、思ったような点数がでなかったことにがっかりします。そしてとげを含んだ言葉を長男くんに投げかけます。

「なんで、こんなところ間違えるの?どうして1番の計算の確かめにそこまで時間かけんの?」

長男くんは黙って聞いてました。そんな重苦しいやり取りが9月から11月までの3か月、模試の度に起こりました。

今思えばこの時、私は完全に「偏差値の魔物」に憑りつかれ「親の狂気」をそのまま体現していました。「ここまできたら後戻りできない。何がなんでも志望校に合格させる。課金ゲーム上等…どんな方法を使ってでも、合格を勝ち取ってやる」

そんな思いに支配された私は、妻の言葉も聞かず、ただ長男くんの志望校合格のためにあらゆる策を講じていました。

当時を振り返って、私から長男くんに改めて伝えたいこと。それは謝罪と感謝の気持ちです。

「本人の気持ちも確かめながら進めていたつもりでしたが、私は周りが呆れるほどに随分と独りよがりでしたよね。感情を抑えられず、君にはイライラと焦りをぶつけて、ひどい言葉を投げかけていたダメ父でした。長男くん、本当にごめんなさい。

長男くんは良くあの時『やめたい』と言わずに最後まで続けましたね。結果、志望校の一つに合格して、私が招いた家族の危機を救ってくれました。君の頑張りに心から感謝です。ありがとう。

そして今、高校生として逞しく成長し、仲間と楽しく学校生活と青春を謳歌している君を見て、父は心から安堵しています…

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前回まで、私自身の2回の伴走経験から中学受験で絶対に避けるべき戦略ミスの3つを紹介し、2つまで解説をしました。
私が犯した3つの戦略ミスとは:

戦略ミス その1:志望校選びの方針の食い違い
戦略ミス その2:2月2日までの受験校選び
戦略ミス その3:秋に受験校の修正をしなかった怠慢

そして、今日はその3「秋に受験校の修正をしなかった怠慢」について語ります。

1.戦略ミス:秋に受験校の修正をしなかった怠慢

家族の雰囲気を悪くしていたのは、100%父である私のせいでした。

とにかく模試で希望が見えて安心する結果が欲しかったのです。それがどの模試でも4科目全部が安定して揃うことはなく、毎回の志望校への判定は 20% - 40%。

秋の模試でこれを見たときに、常識的で冷静なご家庭であれば、しっかりと目標設定の方で軌道修正をかけに行きます。リスクヘッジするために、受験校の変更、スケジュールの再検討は考えるはずです。

しかし我が家はそれができませんでした。志望校を変えず、1日と2日はチャレンジ校に突っ込みました。
その結果が、note の以前の記事でお話ししたような崖っぷちの状況をつくりだし、親のメンタルが完全にやられてしまいました。

秋に受験校の修正をしなかったこと、これが3つ目の大きな戦略ミスです。

どのくらい厳しい戦いになるかは、秋の模試の結果が出た時点でおおよそはっきりします。その時点で、受験の予定を変えなくて良いのは、志望校に比べても十分に高い持ち偏差値をたたき出しているご家庭、あるいは春に志望校を決めた時に想定した立ち位置にいる受験生に限られる、というのが私の意見です。

こう書くと、「いや受験校は変える必要はそもそもないのでは?ブレると合格するチャンスないでしょう?」という疑問を抱く方も多くいることでしょう。

私はチャレンジを避けるべき、と言ってはいません。子ども自身がどうしても行きたい学校は、偏差値で開きがあったとしても変えずにできるだけチャレンジすれば良い、と今でも思っています。ただしその本命校が「あこがれ」なら、つまり持ち偏差値よりも上の学校ならチャレンジする前提で、その上で合格見込みが高くかつ親目線で納得してお任せできる学校を1日か2日に組み込むことを検討をして準備してほしいのです。

秋の時点で、長男くんの受験校については、ある偏差値ライン以下の学校はもう選択肢にありませんでした。1日と2日にそのような「納得した合格」を十分に見込める学校を選ぶことができなかった。というか、そもそもその気がなかったのです。

その結果、受験校を修正せずに毎日ピリピリしていて幸福感の薄い家族の雰囲気にしてしまいました。その流れで受験本番に突っ込むことにもなり、これまでの記事の通り、激しく後悔をすることにつながります。

2.どうしてこのような状況が起こってしまったのか?

端的に言えば、「偏差値の魔物」に親の私が憑りつかれてしまって、学校の価値基準=偏差値の高さになってしまっていたんですよね。それが故に、あるライン以上の学校だけを選択肢にしてそもそも学校選びをしてきました。

私自身が「ここ以上なら受験成功、ここ以下なら受験失敗」という傲慢な決めつけをして、自ら自分たちの家族に呪縛をかけた受験にしてしまいました。だから気持ちがものすごく苦しくなり、家族全体の雰囲気も常に緊張感があって重かったのだと思います。冒頭にあげたように、長男にもひどい言葉を投げかけてしまいました。子どもにとっては相当に良くない環境ですよね。

そして秋の模試で思ったような結果が出なかったとしても、現実的に親は志望校を簡単に変えられません。

それはなぜか?
もっともらしい理由が一つではなく、複数あると思っています。複数あるがゆえに、志望校を変えない理由を見つけて自分を納得させやすい、とも言えます。

自分の子どもの模試って、親は誰しもが芳しくない結果を見たくないですよね。どちらかというと「ないもの」にしたい、という気持ちが働くもの。

できなかったことに対して都合の良い理由を見つけて、「模試の結果は実力を反映していない」という思い込みが入り易くなります。

だから頭では「分の悪い戦いになっている。変えた方が良いのではないか」とわかっていても、その実行は難しいのです。

様々なサイトの調査や私自身の親としての受験伴走経験に基づくと、志望校を変えない主な理由には以下のものがあります。

理由1:親はどこかで子どもが最後は急成長して、何とか逆転合格するんじゃないか、と期待しており、その思いを捨てきれない
理由2:今から受験校を増やすとなると、秋からの対策で全体の準備が時間不足になる、という懸念がある
理由3:新たに検討した受験校の過去問を解いたときに、思った以上に点が取れなかったら、相性が悪かったら、せっかく割いた時間が無駄な労力になってしまう、という不安を払しょくできない
理由4:すでに子どもがその気になって頑張っているので、志望校を変えること自体をやる気を削ぐ可能性がある。また親としても、頑張っている我が子の思いを尊重したい、という気持ちが強くはたらく
理由5:塾や個別指導の先生が強気の受験を勧めることに、実態以上の可能性を感じてしまう

と、ざっと挙げただけでも、これだけの「変えない理由」があるわけです。

我が家のリアルを申し上げると、夏の学校別対策コースに入り、春に決めた志望校にずっとこだわったことで、長男くんをその気にさせてしまいました。ついでに親もその気になり、変な「スイッチ」が入りました。

そして戦略的な志望校変更をできませんでした。動かなかったというより、頭でわかっていても動けなかった、というのが正しい感覚です。途中で志望校を変えることで何が起こるか想像ができなかったですし、本人のモチベーション懸念と対策のための時間不足を怖れて、動けなかったのです。長男くんの特性から「彼はあまり器用に順応するタイプじゃない」、とレッテルを貼って判断し、今から志望校を変えるのは気持ちや対策が追いつかないのではないか、という懸念を持っていました。

そして決め手として、ここまで頑張ってきた当の本人から「〇〇を受けたい。合格したい。」と言ってきたことに、じゃあもう勝負する方向でわき目を振らずに振り切ろう、と自分があたかも当事者として戦っているような感覚で決めてしまった、というのが事の経緯でしょうか。

ただ実は、本質的に最も大事なポイントはたった一つであり、これらの判断と行動の根底にある親のマインドです。それは「偏差値の魔物」に憑りつかれた親の短絡的でバイアスの強くかかったマインド=凝り固まった「偏差値至上主義の考え」に他なりません。

3.この失敗を避けるためにできること

実はこの「偏差値の魔物」の呪縛から逃れた健やかなマインドを持つことが、最終的には秋に直面するかもしれない伸び悩む子どもの成績に対して、冷静に現実を直視し、柔軟に受験校の修正をすることができる家族としてのしやなかさ、に繋がっていくのです。

9月、10月と時間が迫るにつれ修正しずらくなります。この時点で「もう一回模試の結果を待ってみよう」、と考えるのは危険です。我が家はこのタイミングでさらに様子見をしたことで、ずるずると決断できずに、最後まで降りられなくなりました。

もしお子様の受験校を秋に見直すことになった場合の一つの時期の目安として、以下のことは検討に値すると思っています。

9月と10月の模試で2回続けて思ったような結果がでず、上昇傾向もみられないのだとしたら、そこで受験校戦略を見直すのは十分にありです。

よほど特徴的な答案形式ではないかぎり、ある程度の偏差値帯のレベル感を目安にして志望校対策は実のところまだ間に合うレベルの学校は多い、とは感じています。

だから両親であらかじめルールを決めてください。夏の時点で、10月も模試の結果次第で必要があれば修正を検討する、という取り決めをしておくことをお勧めします。

ただし、秋に決断できるようになるためには、春から夏の学校探しの中で偏差値以外の基準で、多くの学校を訪れて吟味することが実は大切でした。もっと我が子の特性とのフィット感、教育理念やカリキュラムにといったところをしっかりと理解し、そこを評価する健全なマインドを意識して行動することでした。

長男くんにとって「個性を重んじて、のびのびと楽しく行ける学校」「幸せな学生生活を謳歌し、全うな人格に育つことが期待できる学校」というように、偏差値以外の視点をもっと取り入れて学校を見て検討すれば良かったのです。

その気持ちをもって学校選びをしていれば、夏から初秋にかけて問題傾向と本人の相性を確認する時間も取れたでしょう。そして、秋の戦略変更ももっと決断しやすかったはずです。その結果、2月1日と2日の受験校はチャレンジ校を残しつつも、そこまでに家族全体で「十分に納得して満足のいく」合格を得ていた可能性も高かったのではないか、と思っています。

偏差値は確かに人気投票のようなもので、そのタイミングで「4科目に関する特定分野の高い学力を持つ生徒たちが行きたいと思う人数」と、「実際の定員数」の相対的なバランスで決まります。

その出口としての東京大学と有名国公立(東京一工など)、国公立医学部への進学人数といった、30年前と変わらない軸が中学の偏差値と高い相関性を示しています。そしてその30年の間に、日本は経済発展をせず国際競争力を失って貧しい国になってしまいました。

この実態を踏まえても、お子様の未来をつくる上で偏差値の高い学校が本当に良い選択なのか、はもっと真剣に考えて良い時期なのかもしれません

例えば、これからの時代を見据えて、子どもたちの「この不確実性が増す世の中で真の実践的なグローバルリーダーシップを担う力を養う」「デジタルやAIのテクノロジーと向き合う能力をつける」ことに注力してくれる学校の方が、「東大に30人輩出した」実績をうたう学校よりも実質的で魅力的なオファーなんじゃないかな、とも思ったりします。

要は偏差値よりも、お子さまの未来にとって良いと思える基準が他にあるのではないか、と考えることです。そこで様々な素晴らしい施策を展開している私立学校が選択肢に入ってくる、という状況を作り出せたら、ここに挙げたような「偏差値の魔物」に憑りつかれることなく、家族全員で健全な精神をもって受験を乗り切ることができるのではないでしょうか。

4.まとめ

ここまで、私自身の長男くんの時の経験を基に、親がしてはいけない戦略ミスを3回シリーズで綴りました。

実は春の段階で、「偏差値の魔物」に父の私が憑りつかれてしまったことが、この3つの戦略ミスの根本的な要因だったというのが、私の経験からの結論です。

2つ目のミスである「2月2日までの受験校選び」が上手くいくためには、3つ目のミスである「秋の受験校修正」の判断が大事であり、1つ目の「志望校選びの方針」で家族全員が納得していることが条件になってきます。

そしてご家族で「志望校対策コース」に乗ると決めたとき、ぜひいつでも降りることができるマインドを持ち続けてください。

志望校合格のために、ベストを尽くしてお子さまもご両親も頑張るのはもちろんです。でも自分の家族だけでなく、他の家族も同様に頑張っていて、自分の思い通りの結果にならないときあることを肝に銘じて、親も相応の準備しておいて欲しいのです。

そのためには、お子さま本位の志望校選びや学校選択になっているか、親の見栄やプライドが判断の邪魔をしていないか、を常に意識することが大切です。

その意識を持ち続けてさえいれば、親としてやるべき受験校の選択肢を増やす努力をし、秋の迷ったタイミングで健全なマインドでしなやかな決断を下すことができるのではないでしょうか。特に9月と10月の2か月間の模試で見えた結果に対して、親は冷静に見て戦略を立て直すきっかけにすることをお勧めします。

ちなみに……

ボリュームゾーンの娘ちゃんの時、私たちはこの受験校選びにおいて、娘本位の視点で学校の選択肢を準備して臨むことができました。

2月1日の結果次第で、2日から4日まで、5パターンの受験シナリオを最終的に用意しました。

結果は1日でめでたく終了となり、2日以降のシナリオを使わずじまい、ということになりました。まあ、世の中こんなものかもしれません。
けれども準備したからこそ使わずに済んだし、そのプロセスで家族の結束力が高まった、と私は思っています。

最後まで読んでいただきありがとうございます。これからも受験に臨まれるご家族に皆さんに、少しは役に立ちそうなことをお伝えする記事を出していこうと思います。

お子さまに合った学校・ご家族の方針に沿った学校にご縁がございますように、皆さまを応援しています。

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