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会社だからみんな同じ志のもと働いていると信じていた(#転職を余儀なくされる書店員の赤裸々)

赤裸々と銘打ちながら、選考中にあれこれ書いてよいものか迷っているうちに内定をいただいた。書店に未練がないわけではないが、就活を始めた当初の予定通り経理の仕事に決めた。


一次面接を終え、昼休みのサラリーマンに紛れチェーン店のカツカレーに食らいつく。さっくり揚がったカツをスプーンで口に運び、手ごたえなのなさを一緒に飲み込む。


求人に「経験が浅い方でも」とあったので応募してみたが、企業の想定している「経験の浅さ」がプールの前に入る腰洗い槽だとしたら、私のスキルは雨上がりの水たまりくらい浅かった。簿記のテキストで付け焼刃の対策をしたが、テストもいまいち。質疑応答は和やかに進んだものの、全体で45点というところか。


こちらとしても、見栄を張って期待されるくらいなら、自分のスキルに合った会社を探す方がいい。断るのもエネルギーがいるし、いっそ落ちてたら楽だなあ。まあ、落ちてると思うけど。を頭の中で繰り返し、新着求人を精査していたら、まさかの最終面接の案内が来た。


「テストは都村さんが思っているよりできていましたし、1週間でできる限りの勉強をしてきたことがわかりました」


面接の最後に通過した理由を聞いた。一次選考で対応いただいた採用担当の方が、資料をめくりながら答える。


「今は経験が少ないかもしれませんが、私が教えて、3~5年で成長してもらえれば」


ありがとうございますと頭を下げ、3~5年という数字を咀嚼する。

思えば社会人1年目から性急かつ唐突な自立を求められてきた。未経験でワンオペの部署を任されたり、出勤したらOJTの机がなくなっていたり。日本全体が人手不足で、成長を待つ時間なんて一刻もない。

それに加えて、私はもう30歳。キャリア育成を図る年齢を過ぎ、世間的には即戦力になることを期待されている。猶予をもらえることが、どれだけありがたいか。


念には念を入れ、内定承諾を伝える電話でも「本当に私でいいんですか」と採用担当の方に確認。「真面目なところが私と似ていて、都村さんのキャリアを応援したいと思いました」という答えを聞き、ここで頑張ってみようと心に決めた。なによりそう言ってくださる採用担当の方こそが、入社後に同じ現場で働く予定であることが決め手になった。



今回の転職はどうしても入社後のミスマッチを最小限に抑えたかった。新卒から数えて就活は4回目。いつもあとから「面接で言うてたこととちゃうやん」とショックを受ける。「そりゃあ、思ってたのと違うところは大なり小なりあるよ」とみんな口をそろえるけれど、「一生ニョッキが食べられないと言われて、あのもちもちは恋しいがまあ我慢できるかと契約してみたら、一生白米が食べられないにすり替えられていた」レベルの相違がなぜか起こるのである。


もしかすると、その原因のひとつは“面接の相手と現場で仕事をする相手が別だった”ことにあるのではないか。

新卒で入社した菓子屋では、店舗に配属されたあと、各部署の責任者が気に入った人材を引き抜いていく形式だった。若手が新しい企画を立ち上げていると人事部は謳っていたが、チャンスは上司の計らいによるところが大きい。就活の段階でマッチングできていればスムーズに自分の力を発揮できるが、彼らが異動になるとぴたりと厚遇が終わる。

次に勤めた出版社は、社長に面接をしてもらった。残業なしと聞いていたが、編集部には「定時で帰っているやつは成長できない」という価値観が蔓延。深夜までパソコン画面と睨めっこの日々。一方で「自分が採用したから、自分で育てる」と意気込む社長からは、別のスペシャル案件が回ってくる。新人がダブルでこなせるわけもなく、数ヶ月でパンクした。

今働いている書店の面接担当は本部の人だった。店舗の従業員と顔を合わせたのは入社当日。面接では触れられもしなかったのに「都村さん、経理部にいたんでしょ?」とそのまま経理担当に。本が好きで、本に触れたくて選んだ職場だったが、勤務時間の半分をバックヤードでパソコンと伝票相手に過ごすことに。


会社なんだからみんな同じ志のもとで動いているとどこか当たり前のように信じてきたけれど、立場が変われば思惑も異なる。面接をする人が現場の方針を完全に理解しているとも限らない。それに「自分が選んだ人」と「なんか入ってきた人」を同じ熱量で扱うのも難しいだろう。


その点、今回は一緒に働く方が私を選んでくださった。もちろんどこかしら想像とのギャップはあるだろう。その採用担当の方がずっといてくれる保証もない。それでもこれまでにない安心感を覚えている。


就活において「どうやって選ばれるか」と同じくらい「誰に選ばれるか」は大事なポイントだったのかもしれない。職歴とともに新たな気づきがまたひとつ。


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都村つむぐ
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