私はおいしいごはんも食べたいし、「おいしいね」って言いたいし、言われたい
くつくつと煮える鍋から、まだ赤みの透ける肉を引き上げる。とかした卵をたっぷり絡めて、一口で。黄身のまろやかな甘みにお肉のうまみが一緒になって、またたくまにとけてゆく。
少ない初任給を握りしめ、予約もせずに訪れた文豪の小説にも出てくるすき焼き店。畳敷きの個室で、友人とふたり見つめ合う。
「お肉ってほんまにとけるんや……」
「こんなん初めて食べたな……」
老舗の格式に気圧され、思わず小声になる。憧れの味をしっかりと嚙みしめ、それから私たちは具材をひとつ口に運ぶたびに、「わ、