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2024年と『いっぽうそのころ』を振り返って
猋社の佐古です。
取り止めもなく書く記事は久しぶりです。
もう年末なので、今年を振り返ったり、今のことを話したり、少し先を話したりしてみたいと思います。
とにかくやってみた、一年
2024年は、私にとって「とにかくやってみた」これに尽きます。年始に初めて気づいたパレスチナの惨状と歴史。そこからあれよあれよという間に動き出した「パレスチナ あたたかい家」。個人で展示の仕切りなんて、しかも100人以上の作家を集めての展示会なんてもちろんやったことなかった。
でも、やるしかなかった。できるかどうかを考える前に、やるしかなかった。そしたら、たくさんの人の優しさのおかげで成功した。
ちゃんとした気持ちを持ってとにかくやってみたら、後からちゃんと、望んでいた人も動きも色々ついてくる。それを知ることができた展示会でした。
その後もハイパワーで動き続け、チャリティーグッズの販売、イベントへの参加、人生で一番パワフルで、なんでもできる気がして。そしてそれらの原動力は怒りでした。8月、年明けからの異様とも言える活動的な状態が、躁状態だったと判明。元手もないのに作ったチャリティーグッズの制作費の立て替え、ちょっとならと嵩んでいった寄付は今でも私の生活を圧迫しています。
それでも、パレスチナに連帯する中で強く感じた、「やりたいことがあるなら今やらなきゃ」という気持ち。やり残したことは何かと考えてみると『いっぽうそのころ』をちゃんと絵本として形にすることでした。そのために「猋社」を作りました。私の中に5〜6年ずっとあった心残りと後悔を、最高の形で払拭することができました。
しかし、今年の半分が躁状態だったので、その間使ったエネルギーの請求もしっかりきました。自分を攻撃し、鬱と躁の波に翻弄され、薬の副作用の便秘による腹痛で救急車で運ばれるなど、ついにタフだった夫までダウンさせてしまう。夫と出会ってからは毎年激動を更新し続けていて、なかなか申し訳ないと思っています。
そんな中、念願叶った『いっぽうそのころ』の完成。自分ができることを、秦さんがやりたいことを、全てやろうと思いながらの日々を送りました。
『いっぽうそのころ』をお届けしてみて
11月末、作業場に1170部(残りは秦さんに)の新品の絵本が納品されました。その日は待ちきれず、4時には作業場に出かける始末。ラジオを聴きながら発送作業の準備をして、到着を待っていました。実際に絵本が届いたのは11時過ぎ。1000冊を超える絵本の物量と、やっとできたという感動をひとりで噛み締めました。
ありがたいことに、初回のご注文が、サイン本を含めて400冊を超えていました。最初に納品されたサインのない本を発送しながら、秦さんがせっせとサイン本を作ってくれ、できた分から段階的に送ってもらいました。
全てのお店に初回分を発送できたのが12月初旬。その頃には絵本を買ってくれた方の声も少しずつ届くように。
シンプルすぎる、絵本じゃないのでは?と思われそうな絵本ですが、私はこれを自信を持って絵本だと思います。だって絵の本ですもん!
『いっぽうそのころ』は大人の絵本?
先日、普段はカリフォルニアに住んでいる友人にプレゼントしました。6歳のお子さんとその日の夜のストーリータイムで、お子さんは、ネコが亀の上で伸びている絵を見ながら「この下に水が流れているから、ネコはどうしても落っこちたくないんだよ」と、それぞれの絵に想像を膨らませて読んでくれたことを教えてくれました。
この絵本は、大人から見ればシュールな面白さと捉えられることが多いと思います。でも、子どもから見ても想像の余地の宝庫です。「シュールって子どもにはわからないよね」と結論づけず、ぜひもう絵本から離れつつある年齢のお子さんとも読んでほしい一冊です。
杣Booksさんのご感想が嬉しかったので、ここでご紹介させてください。秦さんがずっとやってきた、言ってきたこと、この絵本の全てを感じ取ってくれた!と秦さんと喜び合いました。
『いっぽうそのころ』秦直也(さく)
飆社(※「つむじかぜ」の字は犬・犬・犬だけ)
いつだったか思い出せないけど、家人がこんな素敵な絵を描く人がいると旧Twitterこと現X(超絶ダサいな!!)で秦さんのことを教えてくれたおかげで、作者の秦直也さんの存在は刊行前から知っていた。
やはり、いつだったか思い出せないけど、秦さんの絵本が刊行されると知った。自分がその時に小躍りしたのは覚えている。そんなわけで待望の一冊である。
最初から舐めるように読んだ。
で、この星野道夫さんのエッセーを思い出した。以下にちょっと長いけど引いてみる。
”「東京での仕事は忙しかったけれど、本当に行って良かった。何が良かったかって?それはね、私が東京であわただしく働いている時、その同じ瞬間、もしかするとアラスカの海でクジラが飛び上がっているかもしれない、それを知ったこと……東京に帰って、あの時の事をどんなふうに伝えようかと考えたのだけれど、やっぱり無理だった。結局何も話すことができなかった……」
ぼくたちが毎日を生きている同じ瞬間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている。日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは、天と地の差ほど大きい。”
(「もうひとつの時間」星野道夫/【旅する木】より)
本書『いっぽうそのころ』は、その題名の通りこの「もうひとつの時間」を素敵に差し込んでくれる絵本だ。秦さんの作風が「動物をモチーフとし、人間の気配が介在しない瞬間を捉えたイラストが魅力」と作者プロフィールにある。
そう、この絵本のなかでネコが鯖を背負って歩いていたり、オオカミ親子が組み体操して遠吠えしてたり、モモンガがあのビロビロをバッと広げて葉っぱを落とそうとしていたり、人間が介在しないところで好き勝手やっている様が描かれているのだ。それがものすごく可愛い。何故なら全員真顔だから。動物に表情があるのかないのか、本当のところは知らないけども。彼らはとにかく真顔なのだ。それがグッとくるし、可愛さの源であると私は思う。
私がこんな駄文をしたためている、まさにこの時。”いっぽうそのころ”ネコは鯖を背負って歩いている……かもしれない。これを想像できるか、できないかで天と地ほどの差がでるらしい。しかしアラスカにクジラ見に行くのはなかなか大変だ。本書なら、家にいながらにして、動物たちのあることないこと(ほとんどないことだが)の「もうひとつの時間」を観じ、感じることができる。いや、ほんと素敵な本である。
他にもたっくさん嬉しい言葉をいただきました。ああ、よかった、よかったなあと思っています。
ひとりの人間が全国の書店さんと繋がる
この間のひとり出版レーベルの業務をやっている中で、自分が住む日本という国のいろんな小さな場所がみるみるうちに鮮明になっていきました。ポツポツと日本地図の上を小さく光が点滅しているような、そんな感覚。今まで旅行には行きましたが、多分これからは、必ず訪れた土地で書店さんを目的地にすると思います。
それこそ、『いっぽうそのころ』です。普段はなかなか意識できないけれど、年がら年中どこでも毎秒「いっぽうそのころ」が起きている。私が絵本を送った書店さんの中でも何か面白いことが起きている。
書店さんとの出会いが、出版レーベルをやっていて、とってもワクワクすることのひとつになりました。
2025年のこと
来年は、予定でいえば、最低でも3冊は出版予定です(どれも絵本ではありません)。そのうち2冊は年明けすぐ2月の予定。この2月の2冊については、25日頃に皆様にお知らせできると思います。
実現するかわからないけど、トライしていることもあるし、絵本を作る予定ももちろんあります。
ジャンルレスに、ボーダーレスに、何事も決めつけず、作家さんと一緒に、ほそぼそと紙の本を作って行けたらと思います。
では、年内最後のお知らせはクリスマスに。
さこの一年振り返り回でした〜!