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Rainbow④

不協和音-②

「は?! どういうこと。意味分かんない!」劇団の稽古初日、全体練習が終わりリーダーミーティングの時だった。あまりにも突然のことで、真里は冷静さを見失っていた。
 リーダーミーティングには、OBのマサキさんと役者リーダーの琴美、副リーダーの彩音。それからダンスリーダーの真里と副リーダーの宏太が参加していて、リーダーは共に最上級生が務める慣例だった。副リーダーは、一つ年下のメンバーが引き継ぎも兼ねて務めるのが常だった。昨年は、ダンスメンバーの最上級生が真里しかいなかったので、真里がリーダーを務めた。
「真里は、去年もリーダーだったし、これまで一度も役者をしたことなかったでしょ? だから、OBのマサキさんとも話してたんだけど。……真里なら役者も十分できると思うの。だから、お願い。今年は、私と一緒に役者メンバーに入って」琴美は、両手を合わせて祈るように頭を下げた。
「ちょっと待ってよ。私がダンス一筋で来てたの、琴美も知ってるでしょ! だって入団も一緒だったし。私は、役者よりもダンスで魅せたいの。それに、私がダンスを抜けたら、誰がリーダーをするの? 宏太だって、去年からダンスメンバー入りして一年しか踊ってないじゃん! それでリーダーが務まるの?」真里は、隣に座る宏太には目を向けずに言った。宏太が首をもたげて、自身の足近くで組んだ両手を見つめているのが分かるから。きっと宏太も、突然リーダーを任されることに驚いているに違いないと、真里は思った。
「二人とも一先ず落ち着こう。琴美、真里には俺から話すから。いい?」琴美は、マサキさんを見て首を縦に振った。
「真里、実は前々からその話は出てたんだ。俺たちOB、OGの間で。真里の表現力は、見ている人の心を魅了する、本当に素晴らしいダンスだし、才能だと思う。だからこそ、俺たちは、真里の可能性をみてみたいんだ。その表現力で役を演じる真里も、きっと観客みんなの心を魅了すると俺は思ってる。初めての役回りを言われて頭の中が混乱してるのは分かる。でも、ちゃんと向き合って考えてみてほしい」マサキさんは、真っ直ぐに真里の目を見て話した。真里はモヤモヤした気持ちのままだったけれど、マサキさんの思いも有り難いとは感じていた。
「分かりました。しばらく考えさせてください。でも……」と言いかけて、真里は言うのをやめた。マサキさんや琴美の表情が一瞬曇ったように見えたからだ。二人は私を何とか説得させようと、やきもきしていたのだろう。その一瞬を垣間見てしまった真里は、何だか自分が我儘を言ってごねているように感じた。意識の中では、自分の主張をきちんと伝えているつもりだったが、雰囲気を察する限り、真里がどうしても悪なのだった。

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