Rainbow⑤
不協和音-③
漠然とした未来を描きながら書く進路希望調査表は、真里にとって雲を掴むようなものだ。
教室の校庭側の窓際の席に真里は座っている。担任の先生から配られた進路希望調査表。どちらかに丸を付けてくださいとあった。
第一希望。……「進学・就職」
「進学」に丸を付けた真里は、「ダンスの専門学校」とだけ書いた。特に下調べもしていないので、全国にダンスの専門学校がどれだけの数あるのか。卒業後は、どんなところに就職するのか。その他にも、調べておかないといけないことがありそうなものだが。紙に書いた文字以外には、何も思い浮かばなかった。続きを見てみると、まだ第二希望、第三希望まである。真里は、進路希望調査表を見て思った。人生には「進む」か「就く(止まる)」のどちらかしかないのだろうか。これから先も、その遥か先にも。――。
真里は暫くの間、調査表の空欄を見つめながら漠然とした未来に可能性を見出そうと努力したが「可能性」という言葉に、ふと、稽古初日にマサキさんから「可能性がみてみたい」と言われたときのことを思い出し嘲笑した。
(「可能性」もまた漠然とした言い回しで、その場凌ぎの常套句だったんじゃないのかな)
そう疑念を抱いてしまうと、もう真里の心は、あのときのマサキさんの言葉をどこまで信じていいのか判らなくなった。
真里は机の上の紙に目を落とし文字を見た。「進む」の漢字が書かれた方を乱雑に丸で囲み、その他の空欄はそのままにして提出した。席に戻ったら窓の外から蝉の鳴き声がけたたましく教室の窓際に響いている。担任の声は、鳴き声に掻き消され、何を言っていたのか分からない。真里は青空を一直線に進んでいく飛行機雲を見つめた。
これまでも「迷ったときは突き進むのみ!」でやってきた。これからも、それは変わらない。――青空に消えゆく飛行機雲を、真里はずっと眺めていた。
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