Still Crazy

偶然見つけてしまった、あの人のアカウント。あの時と変わらぬ笑顔が胸をつらぬく。
10年以上誰にも話せず秘めてきた恋、人目をはばかる関係だったから。
短くても熱く燃え上がった気持ち。連絡が取れなくなった後も心の中の火はずっと消えず、今でもくすぶり続けている。

SNSなんてやらなければよかった。再び恋心に火がついてしまった。画像をじいっと見つめながら、鼓動の高鳴りを感じる。家族の写真・・・。今だってが関わっていい人じゃない。私は今までどおり消えたままでいなくては。連絡を取ってはいけない。彼の人生に再登場してはいけない。私の人生に彼をもう一度関わらせてはいけない。
家庭がありながらずっと年下の独身女に手を出すなんて、男として人としてロクな奴じゃない。ただの遊びにすぎないと、当時の私だってわかっていたはず。それなのに、ずっと忘れられなかった。大切な人ができても忘れられなかった。

メッセージを送ってしまいたい誘惑と闘っている。理性は全力で駄目だと止める。そうだ、それが正解だ。なのに、なのに、感情が叫ぶ。もう一度逢いたい、笑顔が見たい、声がききたい。もう一回だけその腕に触れてみたい。
私は今でも狂おしいほどに彼が好きなのだ。
余計に辛くなるだけだ、傷つくだけだ、再びの泥沼だ。わかってる! 何度も何度も何度も自分に言い聞かせる。苦しい、息をするのも苦しい位だ。彼への愛情に焼き尽くされそうな胸の内。いまさらこんな思いはしたくなかった。過去にしたまま、触れずにそっとしておきたかった。

逢いたいと送信しそうな指をなんとか留まらせる。駄目だ、いけない、傷つくだけ、罪を重ねるだけ。今の幸せを守らなくちゃ、守るんだ。あんな男に関わっては、いけない。
物凄い葛藤の中で時間が飛ぶように過ぎていく。アカウントを見るまでは思い出にできていたのに。見ただけなのに、なんでいまさらこんなに心が動いてしまうのか。
今の幸せを壊してまで再開すべき相手じゃない。わかってる、わかってるの・・・



突然、彼女から会わないかとメッセージがきた。10年ぶりだ。SNSだ。突然どうした風の吹き回しか。まだ俺に気があるってことなのか? 悪い気はしない。大人しい扱いやすい女だった。とりあえず会ってやってもいい。いいが、すっかりおばさんになったんだろうな。俺も老けたが。

待ち合わせ場所、彼女がわかるかと疑問に思ったりもした。いざ顔を合わせれば、一目でわかった。彼女は変わっていなかった。声をかけたときの、パッと花が開くような笑顔。年甲斐もなくドキッとしたんだ。この歳でドキッとするなんて思わなかった。自分に驚いたさ。一瞬息のできないような、心拍が一気に上がるときめき。
秒であの頃の気持ちを思い出した。物凄い不安と不全感を抱えながら、すがるように彼女と付き合っていたあの頃を。過ぎ去りし若き日々を。

やばいな、忘れたはずだった、思い出したくないのに。彼女と付き合ってた頃は人生のどん底だった。彼女は当時の焦燥感や苛立ちのはけ口に過ぎなかった。妻には見せられない俺をぶつけてきた。正直かなり救われてた。
不愉快だ、この女といると嫌なことばかり思い出しちまう。もう帰ろう。気まぐれで会わなければよかった。もう二度とこいつの顔は見たくない。




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紬 余話(つむぎよわ)
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