重ねる時間と超える時間とできあがる自分
vol.97【ワタシノ子育てノセカイ】
挑戦を笑えるのは、生きていないから。失敗が許されない環境では、失敗を否定と勘違いして、挑戦に嫌悪感がでる。
だけど挑戦とは"生きること"。挑戦と失敗のくり返しが成長になる。なのでみんな、ほんとは挑戦したい。
幼少期に成長の喜びをいかに味わって育つか、が挑戦への姿になるんだろうな。
◇
ところで私には「実子誘拐」で6年以上離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。
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2024年9月28日土曜日。次男ジロウの小学生最後の運動会。私は今、次男ジロウに再会するまで死ねない、と静かに後悔している。
運動会の閉会後に6年生だけ記念撮影があり、なんとジロウと私は会話ができた。運動会の当日に、ジロウと言葉を交わせるなんて初めてだ。なのに私は、頑張ったジロウへ、頑張った姿を、ただ言葉にして、伝える時間をとりわすれた。
学校行事のたびに、参観の感想をフィードバックできない自分に、いつもいつも葛藤を抱いてるのに、チャンスがあっても活かせないなら、何のための葛藤なのか。
タロウから数えて10年間、同じ小学校の運動会に参加してきたけど、閉会直後の記念撮影はたぶん初。保護者による撮影を促すアナウンスが当日に入り、私はいそいそと運動場の中心にいる子どもたちのもとへ向かった。
同級生で集合写真を収めるとき、背の高いジロウはいつも後列の隅っこの方にいるから、端の方を探したけどジロウがいない。あれ?とキョロキョロしてみると、ど真ん中の最前列にいた。
横断幕や応援グッズを思い思いに手に取った子どもたちは、達成感あふれる面持ちで無邪気に撮影タイムを楽しんでいる。みんな、大きくなったな。
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全体の撮影が終わるとチームごとの撮影となり、子どもたちは運動場の中心からチーム席にバレていく。ジロウの導線上に沿った場所に偶然いた私は「ジロウ!お母さんやで」と同級生にジロウを足止めてもらえた。
私はジロウへ「写真撮っていいかな?」と開口いちばんに尋ねる。すると同級生たちが、どうぞどうぞとジロウを差し出すので、5年生から被写体になりたがらないジロウが、しれっとモデルを務めてくれた。
2回ほどシャッターを切り、そばにいた同級生も一緒に撮影が可能か尋ねようとすると、まだ私がしゃべり終わらないうちに、数人の男の子たちがジロウの元に集まりだす。
中心にいるジロウはとても嬉しそうで、自然と肩を組み合う同級生も笑ってて、小学生最後の運動会はどうやらつつがなさそうだ。
幸せの連続が日常なんだと、子どもたちが知らせてくれて、写真を撮る手がなんだか震えた。
◇
9月12日、珍しくDiscordが鳴る。約束していた運動会のプログラムが、笑顔のスタンプと共にちゃんと送信されてきた。
9月25日、下校中の密会交流。演技の詳細を内緒にしたがるジロウが、詳しく知らない方が楽しみが増えると教えてくれた。
25日は運動会までに会える最後の日。「来たかったら来てもええで」と素っ気なくジロウははにかむ。一緒にカルピスを飲みながら、ジロウがすぐわかるように、着ぐるみでの応援はどうかと尋ねると「顔が見えへんやん」と呆れられた。
5日後に再会できた2023年の運動会では、ジロウの初会話は競技や演技や応援の話じゃなくて「お母ちゃんどこにおったん?」だった。
あそこにも、ここにも、どこにも、いなくて、ずっと見つからず、探しても探しても、母の姿がなかったことを、5年生のジロウは、何度もなんども繰り返し訴えてきたんだ。
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6年生のジロウが「着ぐるみはやめといてな」となぜか念押して「白と黒の首に巻くやつ着けてくるんやろ」とまとめる。
9月初めの密会交流で、運動場のどこにいるのか尋ねてきたジロウに、私は場所ではなく服装を伝えた。そして実際に、身に着けていく予定の白黒のストールを見せようとすると、ジロウは取りに行かなくていいと私を止めて理由を話す。
「お母ちゃんがようしとるやつやで、見んでもジロウはわかってる」
ジロウが知ってる白黒のストールは、実は10年以上愛用していて、実子誘拐からの約7年間、ことあるごとに身につけているんだ。ちゃんと、ジロウの記憶に、なってたみたい。
私たちには暮らしがない。たとえストール1枚でも、親を想起させてくれるなら、失った自分の種を、自分で温めてくれるんじゃないかと、切なくもすがってしまうんだ。
意味があるのかないのかわからないまま、とりあえず何でもやってみて、過ぎゆく月日と、成長する我が子。
子育ての答は、すべて子どもたちがもっている。
◇
記念撮影が終わり、私はジロウに放課後の予定を尋ねた。だけどジロウの返事は曖昧に徹する。運動会は昼前に終わるので、子どもたちの多数は親と帰る。だけど父親の姿が見当たらない。
運動会後にひとりぼっちを予感して、私が迎えを提案するも、要領をえない言葉を並べるジロウ。何が起きているのかわからない。そうこうしているうちに、ジロウが親戚宅に預けられる予定と、長男タロウの予定まで耳にする。
私は一体、誰なんだろう。
私の知らない私の子の予定を、教えてくれた私の子を預かる他人に、私は深々と感謝を伝えた。柔らかい首元のストールが、汗ばんでなんだかゴワついている。
他人の家に帰る我が子と、我が子のいない家に帰る私。
放課後の予定なんかより、運動会のジロウの勇姿を、どうして私は伝えなかったんだろう。「写真撮っていいかな?」がどうぞどうか、ジロウにとって、愛される言葉になっていますように。
\\ ご署名3600筆超/金銭ご支援53万円超 //
noterさんらしきご署名がありました
とても励みになっています!!
国への申し入れと記者会見は衆院選後に変更