それって離婚?大人になると見えなくなるちっちゃいもの
vol.15【ワタシノ子育てノセカイ】
子どもは世界をありのまま眺めているのに、子どもだった私たち大人は、いつから歪めて眺めるようになったんだろう。
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「お母ちゃん、ジロウは日本の反対側の国に行ってみたい!どこやったっけ?反対側やで、反対のとこな!」
10歳ジロウは反対側がなぜか気になるらしい。地球儀の日本を右手で包み、そのまま両手で地球を包むと、左手にはブラジルがあった。
私たちの暮らす地球は、子どもたちの手にかかれば、もしかしたらちっちゃいのかもしれない。
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2022年、秋らしさがほんのり香るころ、次男ジロウが友達と会話している場面に遭遇して、二重の驚きを得た。
まず、他者と意見交換的な会話するジロウの姿を、私は5年間見たことがなかったらしいと気づく。
5歳から一緒に暮らせていないと、日常に異常がゴロゴロする。普通に暮らしていたらきっと、私みたいな未熟もんは、日常の奇跡を見過ごしてばかりいただろうな。
普通が何かはわからんが。
心ざわめきつつ次に驚いたのは、お友達へかけた、ジロウのまとめの言葉だった。
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お友達はジロウから私を紹介されると、「え?お母さん?なんで?え?」と困惑する。お友達の中では、ジロウにはお母さんがいないことになっていたらしい。
ドギマギするお友達に私は説明する。「ジロウにはお家がふたつあんねん。お父さんのお家とお母さんのお家な」ジロウが先生に使っている言葉を拝借する。
するとお友達の目に安心感が溢れ、「それって離婚?俺は、名字、〇回も変わってんねんで!」と、興奮気味に自己紹介してくれた。
「〇回はすごいな!その回数はなかなか体験できるもんちゃうで!」と私が笑う。するとお友達は、堰を切ったようにお喋りを始めた。
お友達のようすに私はふと声がこぼれる。「なんかお家のことで思うことがあったら、ジロウに相談すればいいと思うよ」相槌うつジロウと私に、お友達の心の声が溢れでる。
「俺はお父さんに会えてへんし、家も知らん。俺のお父さんは、俺が小さい時に妹が生まれて、俺より妹がかわいくなったから、俺には会いたくないねん」
お友達は全力で、お父さんに愛されたいと叫んでいるようだった。
私は2017年からの5年間、死にもの狂いで尽くしてきたことがある。それは『タロジロにお母さんに捨てられたと勘違いさせないこと』。
お友達の声はともすれば、私たち子の連れ去り家族をデジャブさせるみたいで、私はお友達のすべてを抱きしめたくなった。
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お友達と私のやりとりを、ずっと静かに聞いていたジロウが口を開く。
「小さい子はかわいいからなぁ。いろいろしてあげなあかんし、お世話が大変やでな」
お友達も呼応する。
「それはそうやな」
まだほんの10歳の、小さくてかわいい子たちが、自分より小さく守るべき者に想い馳せている。
背中に西日を浴びて歩いてゆく、ふたりの後ろ姿を眺めながら、私はお友達にかけた自分の言葉を反芻した。
私はジロウとお友達に、歪めた世界を押し付けなかっただろうか。
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「反対側いいねぇ。行き方わかれば行けるんちゃう?タロウと相談してみたら?」
地球儀をクルクルするジロウに私は話しかけたけど、ジロウはなんだか腑に落ちないようすで、回す手を止めようとしない。
「お母ちゃんも一緒に行くねんで!」
息を吸ったジロウが大きな声で微笑んだ。私の言葉に乗っかっている「お母ちゃんおらんでも大丈夫やろ」がバレていたらしい。
いや、違うな。
「お母ちゃんはタロジロおらな、大丈夫ちゃうねん」を見透かされているのかもしれない。
モノゴトは表裏一体。
反対側を知れば、世界はきっと、丸くなる。
見失った、ちっちゃいなにかを思い出すから。
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