お母さんにしがみつく私はちっぽけだけど、お母さんの日々が私を支えているんだ
vol.14【ワタシノ子育てノセカイ】
泣き叫んで私の両腕をすり抜けていった13歳タロウは、現実逃避して自分を守ることにしたらしい。
逃避の現実は「母親との時間」で、窮屈な現実に戻ろうとするタロウの声は、あまりにも静かで、あまりにも恐怖に満ち溢れていた。死に物狂いで助けを求めているのに、私は抱きしめてあげることすらできない。
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メッセージを知らせる音が鳴る。
たわいもない単語が画面に2列。
スマホを持つ手が震えて、鼻がツンとして、涙がボロボロでる。やってきたメッセージは、ひと月越しの、タロウからの返信だったんだ。
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私はタロウに嫌われた可能性を打ち消しながら、疑心暗鬼のひと月を過ごしていた。警察の一件から、タロウと音信不通になってしまったんだ。
厳密には、警察沙汰の翌日に電話できたけど、そのまた翌日から連絡が途絶えてしまう。そしてその電話で、タロウは全力の現実逃避を示した。不安と恐怖から自分を守ろうとする、聞くに堪えないタロウの言葉に、私は自分の無力さを恨むしかできなかった。
タロウを取り巻く大人の中で、私だけが違う言動をする。親戚も警察も学校も、なんかお母ちゃんとは違う。13歳の彼には私こそ恐怖かもしれない。そのくせ私は、目の前で我が子が溺れているのに何もできないんだ。
時間だけがチクチクと過ぎてゆく。
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一方でジロウとは、警察沙汰の3日後からコンタクトが取れていた。いつもと変わらないジロウの姿と言葉は、なぜかいつもより愛に満ち溢れていて、私を穏やかに包み込む。
ジロウに会えるまでの3日間、思い出しては泣きじゃくっていた私には、ジロウの飄々と生きる姿が逞しくて眩しくて、時の流れをまた噛み締めた。
ジロウはちゃんと、今を生きているんだな。
時折タロウについて尋ねる私に、ジロウはいつも気遣うように言葉を選び、だけど嘘はつかずに自分の考えを話してくれる。ジロウの話すタロウのようすに、「そうなんやぁ」と私が相槌をうつと、彼はきまって「ジロウがそう思うだけやで」と付け加えるんだ。
自分と他者を区別して世界を眺めるジロウから、やるせない社会の漂い方を改めて学ぶ。「自分ごと」と「自分勝手」の違いを、私たちはいつから一緒にしてしまうのかな。
タロウと会えない傍らで、ジロウと重ねる密会は、私を生かしてくれる時間となる。そしてジロウと会えない傍らで、タロウと過ごした時間もしかり。
不完全な私が命をふたつ、この世に産んだ意味でもあるんだな。
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久しぶりのメッセージはラリーする。
タロウの一言目が疑問文だったから。
対話の意思表示に安堵する私は、気になっていた未来の行動を確認することにした。文化祭への母の来校を、タロウがどう思っているのか知りたかったんだ。
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実は警察沙汰後にオープンスクールがあり、私は思慮を重ねて参加する。このとき、音信不通から半月。きっとタロウが待っていると思ったんだ。だけど当日、タロウは私にしらんふりする。まぁ、授業中ではあるのだけど。
とはいえ授業中に友達が私を見つけて、参観をタロウに知らせてくれる。タロウは覗き込むように、私と目を合わせてすぐそらした。
私は言葉のないコミュニケーションに鬼集中して、私なりに彼の心中を考えて、私なりの答えを見つける。だけどしょせん私なりで、答えはタロウの中にしかない。
音信不通のさなかなだけに、私はアレコレ考える。最悪バージョンとして「学校にくんな」を再認識しておいた。
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やり取りするメッセージはそろそろ終盤らしい。
私の予定をタロウにお知らせする。
「文化祭楽しみにしてるねー!!」
いつものスタンプが秒殺でとんできた。
うん、私はタロジロと意思疎通できてるってわかってる。いつなんどきなにがあろうとも、断ち切れない絆をこの5年間でつむいできたもの。
だけどそれでもやっぱり、確かめずにはいられない。
だからこそ私たち親子の、「絆」の今があるんだから。
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言葉は愛で、会話は絆だ。
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2022.10.30 Facebook記
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飄々ジロウは警察沙汰もなんのその
大人へ自分をアピール
親子の生き別れが少しでも減りますように