スペシャルドラマ「坂の上の雲」(2)「少年の国」(後編)所感
大人への階段
明治時代は、生まれに関わらず勉強さえすれば官吏にも軍人にも教師にもなれる時代、というナレーションが、前編では入ります。前編のラストから始まる後編では、松山は一旦お休みで、東京の学校へ通う主人公たちに話が移るのです。
ちょっと話はずれますが、子規が伯父から「いつでも東京おいで〜」的なお手紙をもらうときに「何をするにも東京」みたいなナレーションが入るのです。これ、今でもいえません?流石に東京だけではないですが、都会に行かないとどうにも身が立たないなんてことが多い。結局、都会に生まれたもん勝ちみたいな。150年経とうと、日本はさして変わらないとお思わせます。
公の権力に抗って言論の自由や平等の権利を求めながらも、東京で身を立てるために学校へ通おうとする、なんだかよくわからないエネルギーに溢れた時代が描かれます。
子規や同級生がみんな東京へ出てしまって、しゅん太郎な真之も、陸軍大学校の兄信三郎に呼ばれて旅立ち。同級生の中では遅ればせながらの感がありますが、なんだかんだで後輩たちの見送りは大勢。気のいい真之を慕う後輩たち。いい奴じゃんね、真之。律さんも見送りに来ます。この律さんの乙女心が、原作よりちょっと強調して描かれているようですが、まぁ先日までの大河を見ていたら、こんなの可愛いもんです。
東京とか横浜とか
お上りさんで来た信三郎の下宿は、立派なお屋敷の庭の掘建て小屋。あのお屋敷の中にわざわざあの小屋建てて下宿に出しているところが逆にすごいわ。
ちょっと、真之の時代の学校システムがよくわからないのですが、大学の予備門に入るために、共立学校というところで勉強する?えっと、大学に入るための予備校へ入るための塾、みたいなことですか?えっと、結局どうすればいいの?ってなりそうですが。何はともあれ、学校で子規と再会した真之も、子規も、周りのみんなも相当エネルギッシュに跳ね回っています。
高橋是清の奴隷になりかけたエピソードとか、蛭子さん扮する骨董商が鎧を強奪されそうになるのエピソードとか、分不相応なほど法外のお金をかけて国が買った軍艦とか、やはり真之たちのような矛盾をはらみながらも、どこまでも明るくエネルギーに満ち、ちょっとよく分からん感じに西欧に振り回されても、なんだか俺ら成長しているよな、を実感している感じ。このドラマも原作小説も、この対比がすごく効いていて、かなりいいです。原作がいいと、やはりいいドラマができますね。
軍艦周りで
何はともあれ、後に海軍名将となる秋山真之の見た、初めての軍艦でしょうか。イギリスからやってきた「貧乏国には贅沢な買い物」。後に真之たちが乗りこなすものに比べれば少し小さいのでしょうが、この時の真之にとっては大きな存在なのでしょう。そして、サラッとですが、高橋是清が国の未来を「憲法と国会」によって世界に示すのだと言い切りました。購入した戦艦の前で、その武力で追いつくのではなく、法治国家の形を整えて紳士の国として世界に通用する国になること。今に続く世の中はなかなかその理想通りにはいきませんが、明治の頃からの理想なのでしょう。富国というのは軍艦の数やGDP的なものだけではなく、その精神にあるということでしょうか。綺麗すぎるかもしれませんが、世界の政治家の皆さんには一度考えて、清濁併せのむ時の「清」として持っていて欲しいと思うようなセリフです。
その軍艦の記事が載った新聞を、兄好古は破り捨て「お前にはまだ早い」といいます。「自分の意見を持たないものが、他人の意見など読むと害になる」うん、今SNSで流れてくる流言だけを信じているネット民さま方に聞いていただきたい一言でした。リテラシーの話も一度記事にしたいのですが、この「自分の意見をもつ」ということは、誰かの意見を鵜呑みにすることではないということが、明示されています。この辺りが、この明治期の賢い人たちを尊敬できるところですよね。このペラペラの新聞の何万倍もの情報が溢れる今日、玉石混淆どころかほとんど石ころでしょうけれど、その中からちゃんとした情報を複数見つけ出して自分の意見を醸成したいものです。
まぁ、真之はこの新聞の挿絵だけ見て、それきっかけに好古に対して自分が見たものを語りたかっただけに見えましたが。軍艦の挿絵はめでたく障子の補修に採用。こうすればいつでも見られますね。
ストイック兄弟
身辺は単純明快でいい、と好古は真之におしえます。んが、兄さん、茶碗が一つとか、足袋は贅沢品とか、下駄の鼻緒が切れたら雪の中裸足でGO!とか、それは単純明快なのか?またそれ全部に「はい」と答える弟真之。なんの我慢比べでしょうか。面白い。そしてそれが松たか子おひい様の近くで展開されているのがおもしろ。
東京に来ても、真之はまだまだ走り回っています。一方、子役時代から何かを悟ったような仙人好古は、もう自己が確立している。好古が東京に来たばかりの頃も見てみたかったです。
その他
・御徒組って、廃藩置県しても健在?
・軍艦を見にトコトコ走る西田是清さんが可愛すぎる。
・蛭子さんを助けてくれたイギリス軍人さん、そんなにゴテゴテブリティッシュじゃない気もする。
今日もお付き合いいただき、ありがとうございました。