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ルックバック とは
そろそろまぜろよっ。
鬼才・藤本タツキ原作の映画、ルックバックが公開。全クリエイターに捧げられる挫折と後悔と希望のアニメ映画。このタイトルとにかく多くの意味が詰まっているから感想とともに紹介したい。
スコアは文句なく32000点 役満。
しかも全ての要素で満点レベルなので数え役満。
とにかく言葉を失う映像美、絶望から人が這い上がる美しさ、そしてひとつまみのファンタジーから描かれる誰もが考えた「もしも」。感動を作り上げる全ての要素でぶん殴られる映画。
レビュー
高尚な映画を見て高尚なレビュアーぶりたい時期が終わったので本題に入る。
藤野が京本の四コマの絵の上手さにショックを受け、越えようと奮起し、ある日再び京本の四コマを見て挫折する。あの流れは誰もが1度は体験する自分の上位互換と対面した時の恐怖。自分の存在意義が無くなってしまうのではという恐怖はクリエイターもそうじゃない人も必ず感じたことがあるはず。作画が美しすぎるが故にその残酷さをまざまざと見せつけられる。そして、出会った藤野と京本。京本から四コマのファンだと言われた藤野は再び漫画作りをすると宣言する。
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これは本作の前半の山場の1つと言えるが、私は藤本タツキ先生が全クリエイターを称賛する描写だと感じている。才能に嫉妬して、辞めろと言われて辞めきれなくて、褒められて雨の中でも思わずスキップしてしまう。そんなクリエイターの習性を肯定し、「お前もそうなんだろ?」と語りかけているように感じた。称賛は大袈裟かもしれない。肩を組んで「お前も辛かったよな」って。「でもつくっちゃうんだよな」って。そんなイメージ。
2人で「藤野キョウ」としてジャンプに応募した読み切りが賞を取って大喜びするシーンも2人の可愛さが際立つ。原作でもすごくいい表情をしていたが、完璧に再現されていて見入ってしまった。
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ここまでを1部としたら2部のハイライトはやはり京本が通り魔に襲われ、死亡する描写。おそらく(というかほぼ確実に)京都アニメーション放火事件を描いているのだが、京アニのクリエイター達の無念を描いたシーンにパラレルワールド的な手法で助かる道を描いたのが藤本タツキ先生らしさ。全てを現実的に描いてしまうとネガティブになりすぎるし、実際の事件を扱ったで終わってしまう。あんな事件があって、酷く理不尽な思いを背負うこととなって、それでもパラレルワールドの京本から届いた「背中を見て」(Look Back)という言葉。藤野の漫画のファンと言ってくれた言葉が再び藤野に蘇り、彼女に再び衝動を与える。全てをリアルに描かなかったこのシーンは本当に素晴らしい。無念を晴らすのではなく、怒りに変える。でもその怒りで拳を握るのではなく、筆を取る。(Don't Look Back In Anger)藤本タツキ先生のクリエイターとしての悔しさとそれでも希望を見つけてまた歩みだそうとする気持ちが滲むようなシーンである。自分の美学まできっちり描き込めるのがこの作者の凄いところ。全く敵わない。
絵と音
内容以外の点に目を向けても最高と言わざるを得ない。作画は監督がほぼ1人で担当した。(らしい)
原作の作画を再現したまま、動きがとにかく綺麗。残酷さも狂喜もきわだつ訳だ。藤本タツキ先生の読み切り「さよなら絵梨」もこの監督にお願いしたい(笑)
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音楽はharuka nakamura。希代のアンビエントピアノミュージシャン。とにかく美しいその旋律はクリエイターへの賛美歌であるこの作品により引き込んでくれる。個人的にはNujabesとのコラボアルバムがお気に入り。
最後に
誰かが悪いわけじゃない絶望と確実に犯人が悪い絶望。2つの絶望を描き、クリエイターにこの喪失を抱えて、それでも描き続けることを思い起こさせた本作。クリエイターではない自分ですらここまで感動してしまった。きっとクリエイターが見たらもっと感じるものがあるに違いない。今元号最大の大傑作。必ず見るべし。