見出し画像

オタクもたまには東京に行く2024

 東京とか言いながらヘッダー画像は横浜だし、トータルでは神奈川と千葉にいた時間の方が長いんですがそれはそれ(2023の記事に合わせた)。

 文化の日を挟んだ2024年11月頭の連休、久しぶりに関東に行ってまいりました。去年も行ったのでほぼ一年ぶりですね。

 この時は日本近代文学館の百閒先生関連講座の受講が目的でしたが、今回は鎌倉にて開かれる週末文学室2への参加がメインです。でもせっかくだから百閒先生の残り香を嗅ぎたい。というわけで、いろいろと寄り道を楽しんできました。


【1日目】豪雨の迫る中、ギリギリで新幹線に。

 よーし、いざ鎌倉! と思ってたら季節外れの台風が発生して温帯低気圧になってそれによる豪雨が迫って来たんですけど、なんで??

 どうして11月にもなって台風が……。異常気象の当たり年が過ぎる。計画運休になるかもという情報がチラ見せされる中、果たして新幹線は動くのか? というか新幹線駅まで行く在来線もヤバくないか?? と前日からずっとヒヤヒヤしつつ、なんとか朝イチの新幹線で地元を脱出しました。

 そのあと警報が続々と出される豪雨が来て新幹線も一時止まったようなので、ほんとにギリギリだったらしい。何年か前の東京行きもこんなんだったな……晴れ女の割に台風にはよく当たり、しかし常に間一髪でなんとかなる人生を送っております。

週末文学室Ⅱ〜鎌倉篇〜

 朝イチの新幹線で新横浜着、そしてさらに鎌倉へ。わ〜これが横須賀線! 百閒先生の通勤路だった路線ね! などとテンションを上げつつ、移動中もひと足先に現地入りしてくれた友だちの設営を見守っていました。そう、地元からではどんなに急いでも、当日発では開室時間に間に合わないのです……関東は遠い。

 というわけで、展示作品の本体は関東の友達にあらかじめ託してあったのですが、展示のそばに置く作品解説ファイルは前日のギリギリまで使っていたので手搬入です。つまり開始には間に合わない。でも少しでも早くお届けしてほんとうの「完成」状態を見せるんじゃい!

会場のギャラリーAKIさん入口
無事間に合った私の展示

 追加の手搬入、ヨシ!!
 なんとか開室から一時間程度の遅れで解説ファイルも置けました。スーパー有能な友達の手による本体の設置も完璧です。ほんとうにありがとうありがとう……。

 DIYした木の台に、LEDライトのテープを「なんかいい感じに巻き付けて欲しい」などという無茶振りに応えてくれてほんとうに感謝しております。おかげで常にライトで照らされる謎の立体造形が完璧に仕上がりました。

展示の解説ファイル

 こちらは小一時間遅れての設置になりましたが、自由にめくって楽しめる展示解説ファイルも置けてよかったです。ギリギリまで作業したかいがあった。

 週末文学室はこれで二回目の開催なわけですが、直筆原稿や初版本の展示も、創作作品展示も前回よりさらにバラエティ豊かになって、賑やかでしたね。

 作家の直筆原稿や書画と初版本、そして創作作品としての絵に豆本に編みぐるみ、しおりや作字に立体作品に……と、眺めていてしみじみと、「文学」やそれに付随する感情等の「表現」っていろいろな可能性があるんだな……と面白く感じました。

 これだけ多様なものがぎゅっと詰まって、それがすべて「文学」そのものやそれに関わるもので、かつインターネットの縁で集まった人たちの手によるもので……と考えるとなんだか不思議な気持ちになります。

 文学作品や本の装丁の話をしてもスッと通じる楽しい空間で、いや〜もうちょっと居たいな〜〜と後ろ髪を引かれたのですが、私には神奈川県まで来たからには行かねばならないところがあったのです。というわけで、作品の後を頼んで早々と退室。

クルミッ子パフェ@鎌倉紅谷 小町横路店

 あんまり時間ないけどクルミッ子だけは! クルミッ子だけは……!!とさまよってたどり着いたお店がカフェのある方の店舗で、人生で一番好きかもしれないサイコーパフェを頂いたことだけはここに記しておきます。キャラメル味とナッツとジャンドゥーヤが何よりも……好き……。

横浜で氷川丸に乗る。

 そして鎌倉からとんぼ返りで戻って参りましたここは横浜。横浜といえば! 氷川丸ですよ!!

 いや私も以前に横浜に来た時は「へーかっこいいなー」くらいの感想で、中にも入らず通り過ぎたりしていたのですが、今の視点は違います。何故なら氷川丸も百閒先生が一時期所属していた日本郵船の船で、百閒先生も実際に乗ってそこで座談会などしていたのを知っているから。

 同じように百閒先生が乗った新田丸など他の船は現存しておらず、氷川丸だけが現在も横浜のランドマークとして常にそこにあり、かつ中に入って見学できる! 素晴らしい……(拝む)。

 そんな百閒先生の日本郵船嘱託時代のお船の話は、現行流通本で読むなら中公文庫の『蓬莱島余談』が一番手に入りやすくておすすめです。電子書籍もあり。

やや曇天下の氷川丸

 というわけで来ましたわよ! 地下鉄駅からすぐ、すんなりたどり着けて助かりました。さすが有名観光地。

氷川丸に乗り込むタラップ

 週末文学室2に展示する作品で、さんざん日本郵船(と新田丸)に触れていたので、もうこの略称を目にするだけでテンションが上がります。

 新田丸は……! 戦争に行ってそのまま悲しい末路を辿ったけど……! 氷川丸は! 令和にも遊びに行ける!!(※この夏に呉の資料館で、パネルにひっそり混じっている新田丸のその後の写真を見てしょんぼりしていたので余計に嬉しい)

 そんな個人的な背景を傍に置いても、氷川丸の中は今も全盛期を思わせる綺麗なつくりが保存されていて、異人館や明治村の建物などが好きでよく見る目で見ても、かなりしっかり丁寧に管理されてるな〜という感想でした。行き届いている……。

 そして資料の宝庫や〜!! となってパシャパシャ写真を撮りまくっていましたが、他のお客さん(家族連れが多かった)はまったく写真を撮っておらず……えっ? ここもしかして撮影禁止だった?? と最終的には不安になって撮るのをやめたりしたんですが、事前に調べていた通りふつうに撮影OKでした。みんな興味ないのか……? 百閒先生関係なく素敵な内装まみれなのに……。

 というわけで、勢いよく撮っていた中から百閒先生の気配がするところをご紹介します(引用は全て先述の『蓬莱島余談』より)。

夕食は簡単に部屋ですませるつもりであったが、同じ事だから食堂に用意したと云う案内なので出かけた。七十幾人の席のある一等食堂に私一人である。

内田百閒「沖の稲妻」
一等食堂

 ここが百閒先生がひとりで食事をした一等食堂!(たぶん)(パンフとガイドブックによるとここのはず)

晩餐の後は纒まった座談会と云う事でなく、みんなで喫煙室に集まった。喫煙室にはバアがある。その前にテーブルをうまく列べて、矢張り同座の諸氏が顔を合わせた。食後のリキュールが出ているので船の揺れるのは気にならない。私ばかりでなく皆さんそう云う様子であった。

内田百閒「沖の稲妻」
喫煙室(の端の方)

 ここが氷川丸の座談会で柳田國男や林芙美子を招待した時に参加者でお話などしていた喫煙室! の端っこの方!(一等食堂といい、他に人がいたので全体像を撮っていない)

その間に一度下へ降りて自分の船室に行って見ると、部屋の真中にあるテーブルの上に置いた花瓶が洋服箪笥の前の床にじかに下ろしてある。又氷水の這入った魔法壜もテーブルの上から洗面台の凹んだ中に移してある。ボイが用心の為にそうしてくれたのだろうと思った。

内田百閒「沖の稲妻」
百閒先生も泊まったかもしれない一等客室

 一等客室と特別室が近くに並んでいて、百閒先生が泊まったのはどっちかな〜と思ってたんですが、上記の記述を見ると一等客室の方みたいですね。さすがに内田嘱託も賓客用の特別室には泊まらない、それはそう。

 他、百閒先生が座談会の参加者と記念の樽を前に撮ったデッキなどもありますが、きちんと確認して現場写真を撮るだけの余裕が既になかったので撮り損ねました。次の機会があったら再現画角で撮りたいな〜。

薄暗い通行禁止通路
湾曲した長い通路

 氷川丸、ゴージャスな空間だけでなく、ところどころでどことなく不安になるような隙間があったのも内田百閒的でよかったです。

関係者以外立入禁止の意のプレート

 あとこういう時代がかった表記類もよかった。船内の案内プレート系の文字に時代ならではの味があって、撮りまくりました。

 いや〜しかしいいですね、百閒先生が実際にいた場所に行けるというのは。

 あとは横浜には日本郵船歴史博物館もあるのですが、現在は残念ながら休館期間中で……こっちは百閒先生が通った建物ではない(んだったはず、前に調べた)んですが、天水桶とか見たかったな〜。休館前には百閒先生にも関係のある企画展などしてて羨ましかったです。

【2日目】東京駅周辺にだいたいのものがある

 2日目はこの旅行の第二の目的である、千葉県は市川市文学ミュージアムの幸田文展を観に行ったのですが、それはまた別の記事で感想など書くつもりです。

 さて、市川から東京駅まで戻ってきた時点でお昼過ぎ。夕方の新幹線までの時間で、どこに行くかというと……。

トテモ オオキイ ケーキ

 そう、HARBS丸ビル店ですね。
 いや個人的に思い入れのあるお店で……しかしケーキが相変わらずのデカさで安心しました。そして同時に「もうこのサイズの生ケーキを食べられるのは、これが最後かもしれない……(胃もたれ的に)」とも。

 で、丸ビルのHARBSで何がしたかったのかというと。

郵船ビルディング

 優雅にケーキを食べながら、お隣の郵船ビルを眺めるというのがやりたかったわけですよ。写真もいい感じに撮れたんですが、おのぼりさん丸出しの私がピカピカの窓ガラスに全身写っていたので自重します。

 さて胃に生クリームを浴びせたまま、改めてお隣の郵船ビルへ。

 現在の建物は、百閒先生の没後に建て直されています。なので百閒先生が嘱託として通った建物ではないんですが、立地はおそらくそのままのはず。たぶん。いや日本郵船のサイト見てもいまいち確証が見つからなかったけど、百閒先生の記述を見ても、きっと位置はそんなに変化がないはず。

牛ケ淵からお濠端を伝つて歩き、中央気象台の前の和気清麿の銅像の前で又休んだ。それから大手町に出て段段郵船に近づくと向うの方から新らしい火事のにほひのする青い煙が流れて来た。辺りは昨夜焼けたと思はれる所もないのに不思議だと思つてゐたら、和田倉門の凱旋道路に出て見ると東京駅が広い間口の全面に亙つて燃えてゐる。煉瓦の外郭はその侭あるけれど、窓からはみな煙を吐き、中には未だ赤い燄の見えるのもある。郵船ビルの正面玄関の三つの入口の内一つは閉まつてゐる。休みらしい。這入つて見たら停電で薄暗い。

内田百閒「東京焼盡」

 郵船ビルといえば『東京焼盡』。地方に疎開せず東京に残り続けた百閒先生の見た戦中の光景が記されています。百閒先生は空襲に備えて大事なものなどを郵船ビルの自分の部屋に避難させていて、実際そのおかげで戦後まで燃えずに残ったものがいろいろあるわけですが、東京の土地勘がない私は、単純に頑丈なビルだからかなとしか考えてなかったんですよ。

 今回の旅行で初めて郵船ビルの場所を知った私「皇居のド真ん前やんけ」

 そりゃここが燃えるとなったら相当の事態だわな……いや堅牢な巨大ビルだからってのもあるんでしょうが。

 とりあえず郵船ビルの前からまっすぐ先にある東京駅を見渡して、今は立て直されてきれいに復元されたあの建物が真っ赤に燃えている光景を幻視しました。えらい事態だ。(今さら理解)(百閒先生が見たのは燃えた翌日ですが、燃えてる夜のイメージが頭に浮かんだ)

 これまで東京の地理や位置関係などほんとに全く何も考えずに読んでたわけですが、やっぱ現地で体感して、いろいろ頭に入った上で読むのって違うな……と実感しています。私はトーキョーのことをよく知らない。岡山のことはチョットワカル。

 さて、上記の引用にある百閒先生の経路とは逆に、郵船ビルからお濠端を回って、和気清麻呂の横を通って神田方面へと向かいます。

学士会館を今のうちに見ておく。

 ちょっと歩いて着きましたるは学士会館
 名前と写真はよく見かけていたんですが、これまで行ったことはなかったんです。それが閉館するということで、近代建築好きとしても、旧帝大関係に何かしらありまくる文学者好きとしても、行っておかねばと足を伸ばしました。漱石周辺だいたい赤門組だからね。

学士会館の入り口
別の入り口から入ったところ
綺麗なステンドグラス

 なんせ何の用もない一般私大出なので「は、入っていいのか……?」と緊張しましたが、閉館が迫っていることもあってか、私と同じような物見遊山の人がちらほら写真を撮っていました。とはいえ営業中のお店の邪魔にならないよう、ささやか〜にパシャリ。

 さて百閒先生も帝大卒なので、学士会には関わりがあります。とはいえ百閒先生の場合はこんな感じなんですが……。

神田一ツ橋の学士会には何度か来た事がある。案内を受けて出席するのだから、私自身が会員であるかないかは関係はないが、しかし一体会員なのか知ら、と考えて見た。そう思った初めはよく解らなかったが、次第に旧い記憶が甦って来て判明した所によると、私は会員ではない。四十幾年前にはっきりことわって脱会した覚えがある。

内田百閒「昼はひねもす」

 この人いっつも何らかの団体加入を断ってるな……。
いやこの場合は入ってからの脱会ですが。学士会を脱会した理由、三十前後でまだ若い百閒先生の独特な不安感が出てて面白い(興味深い)なーといつも思います。
https://amzn.asia/d/1uIvdGC

 学士会館でのご馳走を「前菜」にして、このあと鍵屋(居酒屋)でところてんを食べたりする百閒先生の眠らない夜が読める「昼はひねもす」、2021年刊で比較的まだ新刊流通もあるこの本にも載っていますので、ぜひ。電子書籍もあります。

 というか鍵屋にも行きたいな〜今はたてもの園にあるんですよね。なかなか足を伸ばせないたてもの園……。

神田古本まつりをひやかす。

 さてこの日は神田古本まつりの期間でもあったので、名にし負う神田神保町へと立ち寄りました。

 話にはめちゃくちゃ聞いている神保町……私が東京に行くのは週末だし他に用事があるからほとんどその真髄のかけらすら味わえていない神保町……そこに立ち入ったものはたちまちに財布が軽くなり、代わりに他の土地では見たことのない本が手に入るという……。

神田古本まつり(の上の方)

 私もなにかすごい目にあってすごい本とか見つけちゃうのかしら! とドキドキしながら立ち入ったんですが、あまりに人が多くて、そして道に出店ワゴンが連なっているので大荷物を背負ったままでは動きにくく、わーなんかすごーいと表層を舐めるだけで終わりました。財布は無事だった。

古本まつりで買った本2冊

 とはいえなんか思い出に買っておきたい! というわけで、いい感じの本を2冊get。森田たまの随筆本、ちまちま買ってるのでどれがどれかわからなくなりつつあるんですが、これは持ってないし、添えられたPOPに百閒先生の名前があったので買いました。百閒先生ネタ以外もふつうに好きなんですよね、この人の文章。

 神保町はまた古本まつりじゃない日にじっくりと回ってみたいです。人混みを避けて入った店舗がいろいろ楽しかったな〜。当たり前なんですが新刊書店も沢山あって、そもそもこんだけ新刊書店が並んでるのも、今の日本だとかなりレアなんだよな……と思ったりもしました。まあ日本のそこらじゅうに本屋があった時でも神田にはそれ以上のお店があったと思いますが。

シンカンセンスゴクカタクテオイシイイチゴアイス

 去年の東京行きではとんでもねえ湿度と人混みに負けて汗だくのスライムみたいになってましたが、今回は神保町以外は人も少なく、ほどよい気候で過ごせたため人間らしい形を保って新幹線に乗れました。東京でのほどほどな土地の巡りかたのボリュームがわかってきたような気がする。とにかく東京まで出てきたら後はいろんなところに行けるのが改めてわかったため、今後も財布と相談しながら遊びに行きたいと思います。目指せ東京の土地勘取得。