オタクもたまには東京に行く(2023)
主に中国地方を日帰りでうろついてばかりのオタク、コロナがアレして以来すっかりと遠出がご無沙汰(具体的に言うとせいぜい東は大阪止まり)になっていたのですが、えいやっと気合を入れてトーキョーに行って参りました。実に5年ぶり。
何用だったのかと言いますと、日本近代文学館の講座で内田百閒『阿房列車』をテーマとした回がありまして、ヤダ〜行きたい〜〜トーキョー遠いけどちょっとだけなら……ネッ! の勢いで聴講して来たのでした。
資料は語る2023 ─鉄道と文学─
https://www.bungakukan.or.jp/cat-lecture/cat-material/14069/
初めは行くか迷ってたんですけど、気合を入れて申し込んたあとわりとすぐに満了になったので(9月の講座が4月に埋まるのすごい)、早めに勇気を出してよかった。
これはそんな一人のオタクが湿度80%の東京を汗だくで歩き回った日の思い出です。
やりたいことリスト:固いプリンを食べる
近年流行りの固いプリン。地元の固いプリンはだいたい制覇してしまったので……というか絶対数が少ないので……トーキョーには固いプリンがたくさんあるんでしょォ!? とばかりに案内してくれる友達にリクエストしました。
よって新幹線で到着して最初のご飯はパーラー大箸。外側はしっかりとした輪郭で、それでいて中は柔らかくとろっとした部分もある上にほろにがの程よいカラメル……ありがとう固いプリンブーム。ありがとう昭和風喫茶店ブーム。大変美味しゅうございました。
日本近代文学館「プロレタリア文化運動の光芒」
初めて足を踏み入れた日本近代文学館。「目黒にあるけど目黒駅から行くんじゃないんだ〜」レベルの土地勘のなさなので、案内してくれる友達がいなければ小一時間迷っていたかもしれません。急に緑が多いところを突っ切ってびっくりした。
は〜あれがTwitterでよく見るカフェBUNDANか〜〜などと感心しつつ、講演会の前に企画展を拝見。ちょうどこの日始まったばかりの「プロレタリア文化運動の光芒」です。
プロレタリア文学についてはよく知らないし、ここでさわりだけでもお勉強しておくか〜くらいの無知顔で入場したのですが、入って即・堺利彦と幸徳秋水の書に迎えられて、さすがにこれは知ってる〜〜!!となりました。続くあれこれもなんだかんだ聞いたことのあるものが多かった。主にTwitterのタイムラインとかで……(受動喫煙)。
プロレタリア関係ミリしらの人間でも、見ていて「えっこれは……ものすごいものが並んでいるのでは……?」となる資料の数々で、小林多喜二のコートや蟹工船冒頭の原稿をハア〜となりながら眺めました。
キャプションも全部読んだものの、どのくらい頭に入ったかと言われると正直自信は……でも固有名詞が記憶の片隅にあるか否かでも、その後の読書や何やが全然違って来ますからね。三次元的なインプットの機会はありがたい。
個人的には、プロレタリア「文化運動」の光芒ということで、文学活動だけでなく、舞台演劇についても取り上げられていたのが嬉しかったです。沢村貞子『貝のうた』を読んで面白かった記憶があるので。
ところで講演のある日だったからか?なのかはよくわかりませんが、この日はコインロッカーが使えなくて、旅の荷物を全て背負ったまま展示を見、さらに飲み物を買っておくのを忘れて喉が渇いたままこの後講座を受けました。「どっかに自販機って……」「ない」と友達に力強く否定されたのがちょっと面白かった。そのあと他の人に言っても即答されたので、周知のことなんだ……となりました(カフェコーナーに入る時間はなかった)。次は水分忘れないようにします。
講座「資料は語る」内田百閒『阿房列車』
そして今回の旅の本題である文学講座。
先生が「私は百閒文学のよい読者とは言えないのですが……『阿房列車』は何度も繰り返し読んでいます」という意味のことを仰った通り、鉄道好き要素と文学要素の割合が3:2くらいの、ややテツ要素が上回る塩梅の講座でめーーーーっちゃくちゃありがたかったです。鉄道関係の資料の探し方とかよくわからないので……(※文学ならわかるという意味ではない)。
阿房列車を軸に、百閒作品の面白さを文学的視点から解説もしつつ、途中からぐんぐんテツ寄りに深まっていって、阿房列車のこの時に乗ったこの車両の写真はこれ!この時の座席の描写からしておそらくこの車両もしくはこの車両!と、どんどん出てくる鉄道のお写真。
さらには時刻表や当時の駅の写真、路線図に当時のホーム図解もふまえて、阿房列車一本目である「特別阿房列車」と、その次の「区間阿房列車」を、テツ目線から次々と読み解いていく大変面白い内容でした。このために新幹線で片道四時間かけて来てよかった……。
いやほんと、鉄道まわりのことはよく知らないので、資料を探そうにもどこから手をつけたらいいかもわからなかったんですよね。レジュメに参考資料リスト等もあり有り難かったです。鉄道雑誌とか未知の世界だもんな……。
その晩さっそく、講座で取り上げられていた復刻版の時刻表を古書でポチりました。後日届いたのがこちら。復刻版とはいえ発行が1977年なので、いい感じに古色が付いてます。
これが「特別阿房列車」で百閒先生とヒマラヤ山系君が乗った「はと」だ!! ……ということも、時刻表がまるで読めない私には、講座で出てきた写真のページ番号をメモっておかなかったら、見つけるまでに大層時間がかかったことでしょう。ありがたやありがたや……。
そのほか、講座の最後には日本近代文学館が所蔵する百閒先生関連の資料を間近で見ることも出来て大変嬉しかったです。阿房列車の各初版と、掲載時の雑誌と、あとは阿房列車発刊時のお知らせハガキ(活版に直筆で付け足しあり)や、装丁についての百閒先生直筆ハガキ。後者は特装版についての相談だったのかな?天金にしたがってるくだりがあったような気がします(全体的にうろ覚え)。
ここで合流したフォロワさんたちと、面白かったですね〜(百閒先生が某写真で乗っている展望車が保存されているという)京都鉄道博物館行ってその展望車撮りたいですね〜などなごやかにお話し。すっかりとにわかテツになりつつ初日を満足に終えたのでした。※このくだりは伏線です。
2日目、突然の墓参り。
東京旅行2日目はフリータイムなので、漱石山房記念館からの羽二重団子からの子規庵いくぞ! 結局前回と似たような工程になっちゃうなワッハッハ〜とかやってたんですが(行きたいとこに行くとどうしてもそれだけで時間が埋まる……)、漱石山房記念館を出て早稲田から移動する際、スーパー案内人である友達が言ったのです。
「ちょっと時間が中途半端になるし、百閒先生のお墓も行く?」
い……行っとくかあ!(謎の気合い)
いや、あんまり墓参りに興味がないタイプのオタクなので……本人が行った場所見たところは積極的に同じ空気を吸いたいんですが、お墓って死後のことだから……本人はノータッチだし……(生前からきっちり計画してるパターンもありますが)。
というわけで、まだ岡山のお墓にも行ってない。でも東京なんて滅多に来ないし、来てもちょうど近くに寄ることも、案内してもらえることもないんだし……と、せっかくだからの気持ちで行きました。
うわ〜〜なんか緊張するな……特に忌日とかでもないし、雑司ヶ谷とかの有名人のお墓がマップになる感じの墓地でもないし……と場違い感を味わいながら到着。
いやめっちゃビールお供えしてある。
着いてとりあえず手を合わせながらも、(めっっちゃビーール置いてある……)(しかもいいやつ……)(ちゃんと恵比寿とかクラシックなデザインの……)と気が逸れてしょうがないので、後でもう一回改めて手を合わせました。勝手にいろいろ書いててすみません……って。あと手ぶらだし名刺もなくて(※お墓の前に名刺入れがある)失礼しましたとかいろいろ。
前述の通り、お墓参りにはあまり興味がなかったんですが、こうして故人にまつわるもののお供えなど見ると、今でも慕われてるんだなあ……お墓参りもいいもんだなあ……と、謎にしみじみしました。今度は岡山のお墓にも参ろうと思います。
行くまでにちょっと迷ったのもあり、スーパー案内人と化した友達がその場でGoogle MAPにお墓の位置を登録申請してくれました。ゆ、優秀〜〜!
ところでお供えのビール、片付けとか大丈夫なんでしょうか。管理のことはよくわからない……(饅頭とかよりはカラス事故が起きなさそうですが)。
東京駅を堪能、そして──
さてお馴染みコースで羽二重団子と子規庵(ちょうど新出句とその資料を展示していた)に行ったあとは、早め早めの行動で東京駅へ。
東京駅って……ほんと格好いい建物ですよね。今回は初めてステーションギャラリーとステーションホテル(のとらやと売店)にも足を踏み入れて、展示を堪能したり、ホールを見下ろす景色に百閒先生の視点を思ったりと堪能しました。もう東京駅の何もかもが好きで興奮するし、それに応えるようなテツグッズが揃っているのでステーションギャラリーの売店で散財した。
いや〜よかった、東京楽しかった〜!と満足したところで、帰りの新幹線までもうちょっとだけ時間がある。本当はみはしのあんみつを食べる予定だったんですが、その前に休憩がてら丸善で文豪クリームソーダ(期間限定イベント)を飲んだりして、「もう私の冷たくて甘いものの許容量を超えました……」と自己申告しております。
とりあえず今はとにかく座って休みたい……なんかどこでもいいのでコーヒーとか飲みたい……とか言っていたら、友達が、人混みに負けて思考能力ゼロになっている私を連れて来てくれたのがこちら。
展望車じゃん!!!!!!(前日の伏線回収)
展望車、乗れたじゃーーん!!!
いや展望車を模したレストランなんですが。前日の講演ですっかりと阿房列車気分に浸り、さらに東京駅で鉄道ムードを高めていたところにこの素晴らしいレストラン。さ、最高…………。
そんなわけで、両日ともたっぷりと百閒先生&鉄道関係を堪能できた大満足の旅行でした。持つべきものは案内の上手いお友達……感謝です。
ちなみに腹具合からしてちゃんとした食事はキツいな〜と思ってたんですが、ちょうどカフェメニューのみの時間で助かりました(ご飯のみだったらお店に入れてなかった)。
そしてプリンを頼んだので、奇しくもプリンに始まりプリンに終わる旅行になった……こちらのプリンはやわらかくなめらかなタイプでしたが、「めちゃくちゃちゃんとした質の良いレストランのプリンだ……(その通りだよ)」という感じでこれもまた美味でした。
ありがとう東京、また来ます(今度は湿度がマシな時期に……)。