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長雨の日【小説】262字

若き母親は写真を抱えて泣き崩れている。

写真の少年は無邪気な笑顔を見せている。

少年の友人達は彼のバイクを最大限に空ぶかしして排気音を響かせる。

バイクには傷ひとつないように見える。少年たちの顔に表情は見えない。

母親は染めた髪を上にまとめている。金髪のほつれと光で薄いベールになっている。

寄ると肌色とファンデーションの色が合っていないように思える。もう少し暗い方が彼女には合っている。普段を知らないので、それがいつも通りなのかわからない。

周りが無理に身支度させたようにも見える。髪も化粧も他人の手によるものと考えると合点がいった。


2021年9月


見出し画像に写真をお借りしました。


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爪毛川太
爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!