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牛豚鶏を食べない謎【掌編】819字

俺たち男3人はあるグリルの食べ放題店に来ている。

いずれも20代、食べ盛り。

しかし、俺たちのあみにはいくらかの海鮮と野菜しか乗っていない。

他のテーブルに目をやれば、上ハラミ、豚足、骨付きチキン、牛豚鶏のオンパレード。

だが、目の前の網には白身魚、鮭、小さいホタテ、後はBBQ用の野菜しか確認できない。

もちろん、売り切れたわけではない。向こうの陳列に目をやるとカルビ、牛タン、ホルモン、豚トロ、豚バラ、豚ロース、焼き鳥、手羽、ササミと牛豚鶏目白押し。

だが俺たちの目の前にあるのは、端っこに遠慮気味にある海産コーナーと野菜コーナーから取ってきた物たち。

海産物に特化しているわけではないので大振りの海老や蟹、サザエなどはない。箸休めで食べるような、もしくは見栄えのために網に乗せられそのまま焦げていくような物しかない。

どうして……?

どうしてこうなった?

ちょっと考えてみてほしい。

ちなみに俺は牛も豚も食べたい。





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答えは単純だ。

俺以外は日本人ではない。

まず、イスラム圏出身のA。宗教上豚肉は食べられない。

そして仏教国出身のB。彼の国では牛は神聖な生き物とされているため食べない。

そして俺。宗教上の理由で鶏肉が食べられない……のではなく、単に嫌いなのだ。

あの歯ごたえ、色味、嫌いな理由を上げても仕方ないが……とにかく好きではない。

お互いがお互いに遠慮して網に乗せることがない。

俺としては別に鶏を網に乗せてくれても全然かまわない。俺が食べなければいいだけなのだから。

もしかしたら彼らも同じように思っているのかもしれない。だが、言い出すことはない。

俺が提案することで彼らも同じように言うだろう。だが、雰囲気に合わせて同調しただけで本当は嫌だったら?

お互いがお互いこう考えて誰も口にしない。

何で店に入る前に気づかなかったんだと自責するがもう遅い。

他のテーブルからはカルビのいい香りが漂ってくる。俺はほどよく焼けたカボチャをカルビ用ソースに浸し口に運んだ。


2020年10月

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 見出し画像にお写真をお借りしました。霜降りのお肉がとっても美味しそうです。


 今は好きですが、鶏肉を受け付けない時期がありました。そんな時に牛肉を食べないという人と卓を囲んだことがあります。テーブルには両者が食べることができる豚肉料理やその他、魚介、野菜の料理が並びました。ここに豚を食べない人がいたら……と妄想したことを話にした次第です。



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爪毛川太
爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!