キムタクからギバちゃんへ【エッセイ】(1,290文字)
久しぶりに髪を切りました。
禍前、私はホワイトボードで書記をする人にキャップを開けてペンを渡す人の予備として後ろに待機しながら、手持無沙汰でポンポンとキャップを開け閉めしてたまにうるさいと言われるくらいには重要な仕事をしていたのですが、禍中の現在、完全に在宅ワークとなり一人ひたすらにキャップを開け閉めするだけのような状態になりました。
たまに行われるオンライン会議に参加することもありますが、誰も私が顔出ししようとしまいと気にしないのでカメラは常にオフ。普段は1ヶ月半から2ヶ月に1回は行っている散髪ですが、気付けば半年髪を切っていませんでした。
若い頃のキムタク並みの長髪になりました。ちなみに最初はヒゲも伸ばしていましたが、濃さの問題からか無精ひげの範疇を超えないのでヒゲは剃っています。大久保利通のような立派なヒゲを蓄えることが老後の夢でしたが、今回のことでこの夢は実現不可能なことを思い知りました。
ヒゲは伸びなくても髪の毛は伸びる。自慢ですが、爪と髪の毛の伸びるスピードは早い方です。別に長髪にしたいと思っていたわけではありませんが、長くなると愛着が湧いてきます。毎日ブラッシングをして愛でていました。
しかし、私の髪質は硬めのくせっ毛。ある長さを境に横に広がるようになってきました。若い頃のつるべ氏は私が目指すべきところではありません。切ることを決意しました。前日の夜はいつもよりも長めにブラッシングをして髪とのお別れ会です。
さて、どこで切ろうか。禍前に利用していた閑静な住宅街にあるお洒落な美容室に行くのは憚られました。通常時でさえ、身分不相応な気がして人目を忍んで行っていたのです。こんな姿ではとてもとても。私は商店街の初見の床屋さんで切ることにしました。
店内に自分と奥さんが旅行に行った時の写真を飾っているタイプの床屋さんでした。コレクションなのか古いお金も飾っています。店主のおじさんは金髪のツーブロックに全身ブルーのコーディネート。これは安心して長髪を任せられると思いました。
「適当に短く」とだけ伝えると、おじさんは黙ってうなずいてバリカンを手に取りました。おや……と思わないでもありませんでしたが、いきなり刈り上げられることはなかったのでひと安心です。
バリカンとハサミの両刀でおじさんは私の長髪を切り揃えていきました。途中、故郷ではちょっと荒れてたけど上京、就職を期にまじめになろうとして、でも髪型だけはこだわった昭和初期の新サラリーマンみたいな髪型になって肝を冷やしましたが、あくまで途中だったようで事なきを得ました。
結果、希望したくらいの長さに落ち着いたように思えます。頭を動かし角度を変えて見ようとしたのですが、おじさんがすぐにジェルを使いセットしてくれたので最終的なチェックは家でシャンプーをするまでお預けです。
今の時点では若い頃の柳葉敏郎みたいなトレンディな髪型です。若い頃のキムタクが若い頃のつるべ氏になりそうだったので、髪を切ったら若い頃のギバちゃんになったというお話です。とりあえずほっぺに飴玉を仕込んでおくことにします。